【「地獄」を終わらせて選択と集中!!】マツダ流「ワンプライス販売」の功罪

マツダは残価設定ローンを推奨

 マツダに話を戻すと、値引きを抑えるいっぽうで、残価設定ローンを推奨している。

 残価設定ローンは、3~6年後の残価(残存価値)を設定して、その残りの金額を分割返済するローンだ。

 残価を除いて返済するから、返済期間を終えても車両は自分の所有にならないが、月々の返済額は安い。

人気抜群のトヨタライズは残価設定ローンの利用率が高いので有名。日本に根付かなかった残価設定ローンだがサブスクリプションに慣れたことで抵抗がなくなった

 そして返済期間を終えると、車両を返却する、残価を支払って買い取る、改めてローンを組んで返済を続ける(返済期間に限度がある)、という選択肢がある。

 メーカーと販売会社が狙うのは、車両を返却して、改めて別の新車で残価設定ローンを組んでもらうことだ。そうなれば新車が売れて、素性のわかった中古車も手に入る。

 残価設定ローンで重要なのは、数年後の残価を高く設定することだ。残価が高ければ、それを除いた月々の返済額は安くなる。逆に残価が低いと、返済額が高まってしまう。

 そして残価を高めるには、中古車として高値で売れることが条件だから、リセールバリューの高いクルマは残価設定ローンと相性がいい。

マツダ2は評価は高いが新型トヨタヤリス、新型ホンダフィットの登場で販売が厳しくなるのは明白。残価設定ローンの利用をいかに促せるかが重要

マツダの残価設定ローンはお得度が高い

 そこでマツダの魂動デザイン+スカイアクティブ技術搭載車に適用されるマツダスカイプラン(残価設定ローン)を見ると、残価を全般的に高く設定している。

 3年後の残価率(価格に占める残価の割合)は、大半の車種が約50%を保証する。基本設計の古いマツダ6でも、3年後の残価率は約50%だ。一般的な残価率に比べるとと7~10%高い。

 さらにマツダスカイプランは金利も安く、実質年率2.99%だ。

決して人気車と言えないマツダ6でも3年後の残価率が約50%というのは破格。現状損はしていないというが、しわ寄せはどこかに出ているハズ

 残価設定ローンの運用リスクは、実際のリセールバリューが残価を下回ることだ。3年後の残価率を50%としながら、流通価値が45%に下がると5%の損失が生じる。この点をマツダの商品企画担当者に尋ねた。

「マツダ6も3年後の残価は50%だが、損失は生じていない。万一損失が生じても、負担するのは残価設定ローンを運営するマツダクレジットで、販売会社の損失にはならない」という。

 他メーカーの場合、残価率や金利を販売会社が決めて、リスクも負担する方式もあるが、マツダではそうなっていない。

 今は携帯電話の普及もあり、常にお金を払い続ける定額制に向けた抵抗感が薄れた。そのために残価設定ローンの利用率が高まり、低金利を実施する販売会社では、購入件数全体の60%前後に達する。

 マツダの値引きを抑えた売り方は、今日的な残価設定ローンに適したものでもあるだろう。

マツダ3の場合スカイアクティブXは約60万円高で簡単に手は出せないが、残価設定ローンなら月額が少し上がる程度だから手に入れやすい感覚になるのも事実

販売台数よりも利益優先

 マツダが値引きを抑えた背景には、レクサスが値引きをほとんどしないで成り立っている事情もある。レクサスは日本車でありながらディーラーの店舗を豪華に造り込んだ。これらの付加価値に魅力を感じて、値引きがゼロでも購入するユーザーはいる。

 しかし2012年に発売された現行レクサスGSを発売直後に購入して、3年後の2015年に手放せば売却額は高いが、2020年に購入して2023年に売ると価値は下がってしまう。設計の古いクルマが新しいクルマに比べて価値を下げるのは当然だ。

レクサスは日本に導入して以来、かたくなに値引きなしのワンプライス販売を展開。レクサスブランドが認知されているので今後も安泰。マツダとの違いはそこだ

 この売却額が下がることを見越して、予め安く売るのが値引きになる。

 公平性を突き詰めれば、発売からの時間経過に従って価格を下げていくのが好ましいが、現実的には毎年値下げするのは不可能だ。そこで時間の経過と価値の低下に伴って値引き額を増やし、安く買えるようにしている。

 ちなみに輸入車では、フルモデルチェンジが近付いてモデル末期になると、本国のメーカーが日本法人を通じて販売会社に販売奨励金を支給することが多い。この金額が多額で、もともと1台当たりの粗利も高いから、500万~600万円の輸入車が100万円を超える値引き額で買えたりする。

 そうなれば数年後のリセールバリューは下がるが、大幅に安く買えるのだからユーザーに不満は生じない。

 対するレクサスは古くなっても値引きしないから、売れ行きは伸び悩む。2019年(暦年)におけるレクサスブランドの登録台数は6万2394台とされ、メルセデスベンツの6万6553台を下まわった。登録台数を増やすことより、値引きを抑えて利益を確実に高める考え方だ。

 同様のことはマツダにも当てはまる。マツダの2019年の販売台数は、OEM軽自動車を含めて20万3576台であった。

現在SUVブームもあり、マツダの屋台骨もCX-5をはじめとするSUVが支えている。SUVが売れなくなった時にワンプライスを継続できる体力がマツダにあるか!?

 この販売実績は、魂動デザイン+スカイアクティブ技術を導入する前の水準に戻っていない。2010年には日本国内で22万3861台のマツダ車が売られていたからだ。

 こうなることはマツダも予想していた。レクサスと同様、売れ行きが下がっても、利益を確保する考え方だ。これに伴い、販売規模も縮小して、販売店舗数は2000年代前半には約1260カ所だったが今は約780カ所だ。比率にすると40%近くが廃止された。

 販売店が減り、車種数も少なくなって、欲しいマツダ車が見当たらないユーザーもいるだろう。安く買うことも難しい。その代わり今のマツダ車は、クルマ好きに焦点を絞り、内外装の質感と運転感覚は向上した。

マツダがやろうとしている販売戦略をすでに実施しているのがスバル。スバルの利益率の高さは日本メーカーとしては秀逸

 このように今のマツダから受けるユーザーのメリットは一長一短だ。いわゆる選択と集中で、限られたユーザーを相手に手堅い商売をしようと考えている。

 そこをスバルは昔から普通にやってきたが(販売店舗数も500カ所以下だ)、マツダは同じ方向に路線変更して間もないから、今はまだ肩に少し力が入っているように映る。

【画像ギャラリー】SUVブームを実感!!~最新販売台数&2019年マツダ車販売ランキング~

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