センターピラーレスドアの絶大な長所と意外な短所 便利なのになぜ普及しない?

両側センターピラーレスドアを採用した初代プレーリー

 過去を振り返ると、古くは1982年に発売された初代プレーリーが、両側のピラーをスライドドアに内蔵した。

 ただし、ボディ剛性の確保が困難で側面衝突時の安全性も下がるため、2代目では両側にピラーを備える一般的な形状になった。

1982年に登場した初代プレーリーは全長4090mm×全幅1655mm×全高1600mm。ボディ構造はモノコックで両側センターピラーレスドアを採用
1982年に登場した初代プレーリーは全長4090mm×全幅1655mm×全高1600mm。ボディ構造はモノコックで両側センターピラーレスドアを採用
画期的な両側スライドドアを採用してコンパクトミニバンの元祖だった
画期的な両側スライドドアを採用してコンパクトミニバンの元祖だった

 トヨタは2003年に発売した2代目ラウム、2004年のアイシスで左側のピラーをドアに埋め込んだが、今は両車とも廃止されている。

 2003年5月に発売された2代目ラウムで初採用となったセンターピラーレスドア(パノラマオープンドア)。2011年10月に生産終了
2003年5月に発売された2代目ラウムで初採用となったセンターピラーレスドア(パノラマオープンドア)。2011年10月に生産終了

 現在販売されているコンパクトカーのルーミー/タンク/トール/ジャスティ、軽自動車のルークス&eKスペースなどは、後席側にスライドドアを装着するが、ピラーをドアに埋め込んだタイプではない。

N-BOXがセンターピラーレスドアを採用しない理由

登録車と軽自動車を合わせた新車販売台数が2018年、2019年と2年連続でNO.1、軽自動車販売5年連続NO.1を誇るN-BOX
登録車と軽自動車を合わせた新車販売台数が2018年、2019年と2年連続でNO.1、軽自動車販売5年連続NO.1を誇るN-BOX
全高1790mm、室内高1400mm、スライドドア開口幅640mm。なぜN-BOXはセンターピラーレスドアを採用しないのか?
全高1790mm、室内高1400mm、スライドドア開口幅640mm。なぜN-BOXはセンターピラーレスドアを採用しないのか?

 なぜタントやN-VANのようなセンターピラーレス構造が普及しないのか。

 N-BOXの開発者は、「N-BOXはピラーを装着しているが、スライドドアの開口幅は640mmとワイドだ。乗り降りしやすく不満はない」という。センターピラーレス構造は必要ないという判断だ。

 車両重量はN-BOXのG・Lホンダセンシングは890kgだが、センターピラーレス構造のN-VANプラススタイルファンホンダセンシングは940kgに達する。ピラーを内蔵すると、補強のために車両重量も増える。

 またタントの開発者は「右側にピラーを備え、左側はドアに内蔵する方式は、左右非対称のボディになるから開発が難しい。実質的に2種類のボディを造るのと同じ手間を要する」とコメントした。

タントのボディ構造。ダイハツの新型プラットフォーム、DNGAを採用する。右側にはセンターピラーがある
タントのボディ構造。ダイハツの新型プラットフォーム、DNGAを採用する。右側にはセンターピラーがある
センターピラーレスドア側の補強されたタントの左側スライドドア
センターピラーレスドア側の補強されたタントの左側スライドドア

 そうなると中央のピラーを漠然とスライドドアに収めて乗降性を向上させるだけでは、開発の手間やコストの割に機能的な魅力が乏しい。

 ピラーをスライドドアに収めるなら、別の機能も組み合わせて、さらに大きなメリットを生み出す必要がある。

 先に挙げたN-VANの開発者は「助手席の格納機能がないクルマに、センターピラーレス構造のドアを採用しても意味はない」という。

 助手席の背もたれは、中央のピラーとほぼ同じ位置にあるから、センターピラーレス構造にしても、助手席があると邪魔になって後席の実質的な間口は拡大しないのだ。

 その点でN-VANは、後席に加えて助手席も床面へ落とし込むように格納できる構造とした。助手席と後席を格納すると、運転席以外は床の平らな荷室になる。

 こうなるとピラーをドアに内蔵すれば、荷物の積み降ろし性は大幅に向上する。左側のドアを前後ともに開くと荷室が開放され、ボディの左側面と後部のリアゲートを使って2つの方向から荷物を出し入れできるためだ。これは商用車のN-VANにとって機能上の大きな強みになる。

荷物の積載性が抜群に高いN-VANの室内空間
荷物の積載性が抜群に高いN-VANの室内空間

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