【車のハンドルに見えない進化】20年で逆転!! パワステはなぜ「電動」が主流に??

 誰もが握る車のハンドル。軽い力で自然な操作感を演出する“パワステ”の主流が、ここ20年で大きく変わった理由とは?

 20年前まで車のハンドル操作を支援するパワーステアリングは「油圧式」が主流でしたが、現在は電動パワーステアリング(=EPS、以下電動パワステ)へと移り変わっています。

 電動パワステは当初、クルマ好きの間で「操舵フィールが悪い」と、ネガティブなイメージを持たれていましたが、自動車メーカーは改良を重ねつつ、電動にこだわって採用し続けてきました。

 そこには、油圧パワステを捨てなくてはならない“ある事情”があったからなのです。

文:吉川賢一
写真:SUZUKI、TOYOTA、NISSAN、編集部

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パワステの“主流”はなぜ油圧から電動に?

1988年発売のスズキ セルボ(3代目)。世界初の電動パワステを採用したが、当時はまだ油圧式のパワステが圧倒的多数派だった

 車のカタログで「車両諸元表」というページにある「主要燃費向上対策」という項目をご存じでしょうか。

 このなかにアイドリングストップ機構やハイブリッドシステムなどに混ざって、電動パワーステリング(EPS)があります。電動パワステは燃費を向上させるアイテムとして、採用されているのです。

 油圧パワーステアリング(以下、油圧パワステ)の場合、エンジンの動力を使ってパワステポンプを動かし、パワステオイルを循環させています。

 要するに、エンジンパワーの一部がパワステポンプに食われているのです。クルマが直進している時、ステアリングアシストは原則不要なのですが、油圧パワステは構造上、動かし続けないとアシスト力が得られません。そのため、燃費悪化の1要素となっていたのです。

 さらに、燃料消費が少ないハイブリッド車や、そもそもエンジンを必要としないEVの登場が期待され始めると、エンジンの動力を必要とするパワステは必然的に廃止せねばならず、このことも電動パワステが普及していく要因となりました。

プリウスにも採用!! HVへ普及で電動パワステに一躍脚光

1999年発売の初代プリウス。当時画期的だったハイブリッド車として省燃費に寄与する電動パワステも採用

 まずは、比較的少ないアシスト力で済む軽自動車や小型車向けのコラムアシスト型の電動パワステが登場したのが、1990年代の後半です。

「21世紀に間に合いました」のキャッチフレーズとともに登場した初代プリウス(1997年)は、電動パワステを採用したことで、約3%の低燃費化に貢献しました。ぎりぎりまで追求した燃費から、更に3%低減したことは、とてつもなく凄いことです。

 そして、自動車による環境汚染問題が、ひときわ大きく叫ばれるようになった2000年代に入ると、電動パワーステアリングを搭載するクルマが一気に増えました。ドライバーがハンドルを操作した時にだけ、モーターでステアリングをアシストする方向へとシフトしていったのです。

 ちなみに、世界初のEPSを開発したのは光洋精工、現在のJTEKT(ジェイテクト)です。初搭載したのは1988年のスズキ セルボという軽自動車でした。

 なお2014年時点で、JTEKT製電動パワステの国内シェアは約70%にもなり、2位のNSK(約20%)を大きく引き離しています。

油圧&電動パワステ それぞれの長所と短所は?

フーガに採用された「電動油圧パワーステアリング」のシステム図。上級セダンとして自然な操舵フィールを実現すべく、電動と油圧パワステを融合した機構を採用

 2020年の現代に、あえて油圧パワステの中古車を探して買うような方は、なかなかいないかもしれませんが、油圧パワステにも長所と短所があります。

■油圧式パワステのメリット
【1】大きな出力が必要な大型車に適している
【2】ステアリングフィールがナチュラル

■油圧式パワステのデメリット
【1】油圧ポンプの作動にエンジン動力が必要となるため燃費に悪影響。
【2】連続で素早いステアリング操作をすると“重ステ”になる。

■電動式パワステのメリット
【1】燃費改善には必須のアイテム
【2】車速ごとに操舵力・補舵力を自由に設定できる。スポーツモード用の設定も可

■電動式パワステのデメリット
【1】油圧パワステのマネはできてもその特性にはなれない。
【2】(油圧に比べて)コストがやや高い

 未だに電動パワステの弱点として指摘されることが多いのは「ステアリングフィールの不自然さ」です。

 特に、軽自動車やコンパクトカーといった小型車に搭載された初期の電動パワステは、N付近(=ハンドルをまっすぐにしたときの中立位置)に引っかかりを感じたり、壁感があったり、ハンドルからの反力が弱くて「プラプラ」だったりと、電動パワステ機構自体の不具合やチューニング不足などの理由で、ハンドリングにこだわるユーザーの間では、満足いかないハンドリングだったことは事実です。

 そのため、操舵感が重要な高級車においては、油圧式パワステが、つい10年ほど前まで採用されていました。

 しかし、より剛性感の高められるラックアシスト式電動パワステが登場。油圧パワステに近い操舵感を達成することができ、これによって、高級車にも電動パワステが採用されていくことになったのです。

 ちなみに、現行型フーガハイブリッドでは、電動で油圧ポンプを回して油圧の操舵フィールを実現する、「電動油圧パワーステアリング」が搭載されています。エンジン停止中でも、ステアリング操作を少し行えば油圧が働きます。

近年は電動パワステも多種多様に進化

2017年発売のレクサスLCは「ラックアシストタイプで世界最小クラスの小型さと優れた操舵感を実現した」という電動パワステを採用

 現在は自動車メーカーの様々な要望に応えられる、完成度の高い電動パワステが多く登場しています。

 一般的なコラムEPSの他に、ステアリングラックをアシストする高剛性でダイナミクス性に優れたDP-EPS(デュアルピニオンEPS)、高出力で高剛性を達成したRP-EPS(ラックパラレルEPS)、小型でコンパクトなP-EPS(ピニオンEPS)など、クルマのコンセプトとコストに合わせたバリエーションが用意されています。

 レクサスのフラッグシップクーペ「LC」に採用されたのが、JTEKT製のラックパラレルEPS(RP-EPS)です。ステアリングフィールの向上と、クラス最小のパッケージングを目的に、採用されました。

 また、2016年に登場した現行型スカイラインには、機械的な接合がないステアバイワイヤ(商品名はDAS)を世界初搭載したことでも話題となりました。メーカーはKYB製、2ピニオン式のEPSです。

VWゴルフは「デュアルピニオンEPS」を採用。バランスの良いハンドリングの裏には、パワステの絶妙な味付けも貢献しているという

 さらには、Cセグメントで世界一売れているVWゴルフにはDP-EPSが搭載されています。ゴルフの魅力の一つが、剛性感があり、安心感も高い、切れ味鋭いハンドリングです。

 重すぎることもなく、軽くもなく、適度な操舵力を、低速から高速まで調節しながら制御をしています。

◆  ◆  ◆

 昨今のクルマの操舵感について、文句を述べている方はほぼ皆無だと思います。電動パワーステアリングは、日々進化を続けており、油圧パワステでは出せない、EPS独自の魅力が搭載されています。

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