トヨタの全店全車販売で「人気格差」顕著に
2つ目の理由は、2020年5月から、全国のトヨタ系全店が全車を扱う体制に移行したことだ。東京地区はトヨタの直営販売会社が中心だから、2019年に直営店をトヨタモビリティ東京に統合した。
ほかの地域はメーカーから資本が独立した販売会社も多く、大半の地域で従来の4系列を残すが、取り扱い車種の区別はなくなった。そのためにヤリスも全店が扱うようになり、ネッツトヨタ店の専売だった時代に比べて売れ行きを伸ばしている。
ヤリスのように多くのユーザーが欲しがる人気車は、全店の取り扱いになると、当然ながらさらに売れるようになる。
逆に人気が下降している車種は、ますます下がってしまう。前年に比べて半減したプリウス、アクア、ヴェルファイアはその典型だ。
特にヴェルファイアは興味深い。12月(単月)の登録台数は、ヴェルファイアが1017台、姉妹車のアルファードは7962台で、約8倍の差が開いた。
現行型が発売された時点では、ヴェルファイアの登録台数が多かったが、マイナーチェンジでフロントマスクを変更すると順位が入れ替わった。この販売格差は、全店が全車を扱う体制に移行して一層拡大した。
今では従来アルファード&ヴェルファイアを販売していなかったトヨタ店やトヨタカローラ店でも、アルファードが好調に売れている。
さらにヴェルファイアの専売だったネッツトヨタ店でも、従来型のヴェルファイアからアルファードに乗り替えるユーザーが見られるようになった。
その結果、販売格差が決定的になっている。全店が全車を扱うと、各車種の売れ行きにも大きな影響を与えるわけだ。
3つ目の理由はヴィッツから大幅進化した車の「質」
ヤリスとヤリスクロスが売れ行きを伸ばした3つ目の理由は、商品力が優れ、国内市場との相性も良いことだ。
コンパクトカーのヤリスは、リーマンショックの経済不況によってコスト低減を余儀なくされた以前のヴィッツに比べると、内外装の質が高い。プラットフォームも刷新されて、走行安定性と乗り心地も向上した。
直列3気筒1.5Lエンジンは、ハイブリッドを含めて新開発され、動力性能と燃費が優れている。特にハイブリッドのWLTCモード燃費は35.4~36km/Lだから、日本車の中で最も優れた数値を達成した。
衝突被害軽減ブレーキも先進的で、自転車の検知も可能だ。自車が右左折する時も、直進車両や横断中の歩行者を認識して、衝突被害軽減ブレーキを作動させる。
グレード構成にも注目したい。従来のヴィッツと同様の直列3気筒1Lエンジンも用意され、1.5Lと価格を比べると、同グレードの比較で約15万円安い。法人などを対象にした「X・Bパッケージ」は139万5000円で、今では140万円以下のコンパクトカーは珍しい。
販売店では「1Lエンジン車は法人のお客様を対象に開発されたが、実際には個人のお客様も購入されている。今は1L車の自動車税が2万5000円に下がり、街中の走りが中心のお客様は1Lの『G』を選ぶことも多い」という。
いっぽうヤリスクロスは、人気カテゴリーとされるコンパクトなSUVだ。最上級のハイブリッド2WD「Z」は、価格が258万4000円だから、ライバル車の日産 キックス「X」(275万9900円)、ホンダ ヴェゼルハイブリッド2WD「Zホンダセンシング」(276万186円)に比べて約18万円安い。
ヤリスクロスはライバル2車に比べて後席が狭かったりするが、内外装はSUVらしくカッコ良く、上質で割安な印象もある。そこで売れ行きが伸びた。
このようにヤリスとヤリスクロスは、両車とも国内市場に合った商品開発と価格設定で人気を高めた。しかもヤリスが2020年2月に登場して、コロナ禍の影響を受けながらも販売が活発化した時期に、ヤリスクロスも投入されている。
このタイミングも良く、相乗効果で好調に売れている。ヤリスとヤリスクロスに見られる周到な計算は、国内販売を急増させた1980年代から1990年代のトヨタを思い出させる。
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