■「誰が責任者か」は状況によって変わる
自動運転技術の理解において大切な側面に、運転操作の主体、つまり誰が最終的な責任者であるのかという課題があります。
2020年12月には、この定義がこれまで以上に細分化されました。レベル2まではドライバー責任で、レベル4~5は自動運転システム責任となる、ここに変更はありません。
違いはレベル3にあります。ここでは具体的にどんな状態で、誰に責任が課せられるのかなど一歩踏み込んだ定義付けがなされました。
原文によると、「特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。ただし、自動運行装置の作動中、自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合においては、運転操作を促す警報が発せられるので、適切に応答しなければならない」とあります。
表現が難しいので筆者なりに要約をしてみました。
「高速道路や自動車専用道路の本線を走行中、システムが正しく機能している場合に限り、手と足と眼、すべてのサポートが部分的に受けられます」。
「ただし、本線から出口車線へと向かう場合や道路工事などシステム設計にはない状況に遭遇した場合などには、システムから“もうすぐサポートできなくなります。運転操作を代ってください”とディスプレイ表示や警報ブザー、ステアリングの振動やシートベルトも巻き上げ機能などを通じて伝えてきます」。
「ドライバーはシステムからの呼びかけ、つまり運転操作のドライバーによる再開依頼に従って運転操作を行なってください。」
「また、システムの操作があやしいとドライバーが感じた場合には、ドライバーが運転操作を行なってください」。
このような解釈が成り立ちます。
■実際にはレベル2でも「自動運転」だと思っている状況
ここまで話を整理すると、レベル1~レベル2までは運転支援、レベル3以上が自動運転となったわけですが、世間ではレベル2までの技術であっても「自動運転である」と思い違いをされている方が相当数おられます。
筆者はここ10年以上、自動運転技術や先進安全技術を紹介する講演会での講師を拝命しつつ、全国の高等学校において自動運転をテーマした課外授業を担当しています。
その経験からすると、運転経験の長く、運転操作に自信があるドライバーほど、運転支援技術を自動運転技術であると誤解される傾向が強いようです。たとえばレベル1に相当するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)機能がついているから自動運転車だ、といった具合です。
具体的に、ACC機能の物理的な限界点を考えてみます。一般的にACCのシステムは、車載センサーであるミリ波レーダーや光学式カメラから得られる限られた認識範囲からの情報をもとに前走車への追従走行を行なっています。よって、隣車線からの割り込みなど突発的な事象には十分対応できない場合があります。現時点、ACCの使用が高速道路や自動車専用道路でのみ許されている理由は、歩行者や自転車などの急な飛び出しがないからです。
確かに、自動運転技術は運転支援技術の精度が高まることで実現することから、誤解を招いてしまうのかもしれません。
しかし、運転支援技術と自動運転技術の間には、求められる車載センサーの精度やシステムの冗長性(≒複数経路による確実な実行が期待できる能力)に簡単には超えられない、とても高いハードルがあります。
大まかにいえば、レベル3ではレベル2の能力の10~100倍の精度や能力が求められ、このことはWP29(自動車基準調和世界フォーラム)の枠組みでも定められているのです。
こうした技術への正しい理解は、ベテランドライバーよりはむしろ、これから交通社会に羽ばたいていく高等学校の生徒さんのほうが柔軟です。こちらから技術のできること/できないことを動画や表組みを交えてしっかり伝えると素直に受け止めてくれます。
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