■「機動的な料金制」の議論も盛んに
今年3月10日に、国交省主催の「第49回 国土幹線道路部会」が開催され、これからの高速道路料金制度について活発な意見交換がなされた。
議論されただけ、と言えばそのとおりだが、その内容を読むとかなり具体的で、ユーザーの強い反対がない限り、このまま進むことになりそうだ。
基本的な考えは「渋滞が発生しやすい区間と時間は高く、ほかは安く」というもので、柔軟で機動的な料金施策を導入して、渋滞緩和を図るという考え方。
例えば下の図のように、都心の首都高速でも圏央道でも目的地に行ける場合、激変緩和措置もあって、現在は圏央道のほうが距離は長くても同一料金。
今後は渋滞の多い都心のほうが高くなり、さらにその先は、混雑状況に応じて一定時間ごとに料金が変動するシステムが計画されているのだ。これが「機動的な料金施策」というわけだ。
時間帯によって運賃を変動させる「ダイナミックプライシング」は、鉄道業界でも検討されている。
実現するには法規制を変更する必要があるが、鉄道各社は前向きな姿勢を見せており、今後議論されていくことになる。
また、料金体系とは直接関係ないが、国交省は高速道路の通行をETC専用とし、料金所を撤廃することも計画している。
都市部では5年後、地方部では10年後程度の実現を目指している。
■中京圏も距離別料金がいよいよ始まる
2021年5月1日から名古屋第二環状自動車道(名二環)と名古屋高速が距離別料金制となった。
2012年の首都高速、2017年の阪神高速に続いての採用で、名二環の場合、普通車で30km未満510円、30km以上620円だったのが260〜1100円に。
休日割引が終了し、深夜、平日朝夕割引は継続している。
■変化する高速料金 清水草一の評価は?
まず、東京オリパラ期間中の特別料金(6~22時+1000円、0~4時半額)だが、逆に渋滞を悪化させるのではないかと懸念している。
なにしろ、+1000円なのだ。バス、トラック、タクシーなどの営業車は対象外だが、一般車は「首都高を使うな」と言うに等しい。
実際東京都としては、「期間中、一般車は首都高を使わないでください」という趣旨で、+1000円を決めたという。
これをやれば、首都高は間違いなく空く。渋滞はほぼゼロだろう。しかしそのしわ寄せは、確実に一般道に行く。
交通量自体を減らす努力もされているが、それだけでなんとかなるとは思えない。
大会関係者にとっても、首都高はスイスイでも一般道がギューギューでは無意味なはずだ。深夜の半額割引も、0時から4時まででは無理がある。
数百円の割引を受けるために、わざわざド深夜に走るクルマがそれほどいるとは思えない。無意味ではないだろうか。
●恩恵を受けるのは一部運送業者のみ
一方、2022年4月から、首都高の料金体系が見直され、上限料金が普通車で1320円から1950円に上がる件は、基本的には理解できる。
なにしろ首都高は、現状、長距離を走ると非常に割安で、NEXCOの高速道路に比べると最大で約半額になっている。これは明らかに不公平だ。
しかし、上限料金値上げのバーターとして導入される深夜割引と大口・多頻度割引の拡充には、納得がいかない。
運送業者のみを優遇するもので、現在より支払額が減るところが多く現れる。ところが一般利用者はただ上限料金が上がるだけで、渋滞緩和効果も期待できない。
物流優先というお題目の下、組織的な運動を展開できるトラック協会への配慮が過ぎるのではないか。
首都高への深夜割引の導入により、ますますトラック運転手の労働条件が悪化する懸念もある。
空いている時間帯へ交通を誘導するのは理にかなってはいるが、NEXCOの高速道路では、深夜割引が原因で運転手の深夜勤務が非常に増えており、そちらも見直すべき時期に来ているのだ。
なお、この新料金体系によって、首都高の料金収入が増えることはほぼない。恩恵を受けるのは一部運送業者(経営者)のみだろう。
最後に、「渋滞緩和のための機動的な料金運用」について。混んでいる時間帯の料金を高くするのは、大都市部の渋滞緩和の最後の一手。
これまで空いている時間帯を安くする施策はあったが、高くするものはなかった。ぜひ導入を試みてもらいたい。
同時に、いずれ全国の高速道路のETC専用化も進める方針になっているが、仮に今すぐETC非搭載車の通行を禁止すれば、料金収入が数%、つまり年間2000億円近くも減る。
そのわりにコストダウン効果は小さく、利用者の利便性も悪化する。ETC専用化は、理想論に過ぎるのではないだろうか。
(TEXT/清水 草一)
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