東日本大震災などで、自衛隊の災害派遣に携わった元陸自幹部の二見龍氏。近著の『自衛隊式セルフコントロール』では、日常生活から災害対応にまで幅広く役立つ自衛隊のノウハウが盛り込まれており、「背筋が伸びた!」「ハッとした」「すぐに役立つ」などと非常に好評だ。
いつ襲ってくるかわからない大災害。生き延びるために、準備しておくべき訓練や手順の重要性について語ってもらった。
文/二見 龍(ふたみ りゅう) 写真/写真AC
■訓練はイメージの動きと同じ動きができるまで行う
頭の中で、「このイメージで動けば上手くいくな」とまとまると、もう自分ではできたように感じてしまいます。
そのため、多くの人は頭の中でできるイメージが描けたら、次に進もうとしてしまいがちです。しかし、実際は頭の中のイメージでできただけであって、本当にできたわけではありません。イメージと現実には乖離があることを認識する必要があります。
まず、「訓練は何のために行うのか」ということを理解することが重要となります。訓練は、イメージしたことが現実にできるかどうか確認すること、できなければできるようにするために行うものだからです。
実際にやってみると身体が上手く動かない、仲間の理解が不足していて連携ができない、思ったよりも時間がかかってしまうなど、実動することによって、多くの気づきが出てきます。
■「その時」に頼りになるのは圧倒的な訓練量
修正を加えてできるようにするためには、さらに訓練が必要となります。難しい状況を想定し、現実にできるかどうかを本気で追求すればするほど、その効果が上がります。
これは一般に行われる、避難訓練や防災訓練も同様です。訓練にあたって「実際に逃げる必要があるのか」とか「わざわざ消火器で火を消す体験をする必要があるのか」などと考える人がいますが、他人がやっているのを見ているのと、当事者になって、体験・操作してみるのとでは、経験値に大きな差が生まれます。
体験できる場が設けられている時は、恥ずかしいとか、面倒くさいなどと思わず、ぜひチャレンジしておいてください。そのうえで、忘れないよう、またスキルをアップできるよう、繰り返し訓練できる場を設けるのが理想でしょう。
「その時」に生かせるよう練度を高めておきましょう。
■手順無視がケガや事故を生む
自衛隊の訓練現場では、厳しいトレーニングを行っているため、ケガはつきものと思われるかもしれません。もちろん、多少の擦り傷や手足のマメの潰れなどは、致し方ないところはあります。しかし、絶対あってはいけないのが、不注意などによる大きなケガや事故です。
こうした問題あるケガや事故は、たいてい、定められた手順や規則を守らなかったり、能力以上のことを無理に行ったりすることによって発生します。
自衛隊には、SOP(Standard Operating Procedure=標準作業手順書)があります。一般のマニュアルと同じ位置づけのものです。
急いでいる状況で、疲労などを理由にSOPに定められている手順や規則を守らないと事故が発生します。これが弾薬類に関することであれば、爆発、暴発の危険を伴います。つまり自衛隊でSOPを守らない行動というのは、命にかかわる危険な行動となるわけです。
■勢いだけの「えいやっ!」は絶対禁物
今までの訓練で一度もできていないことを行ったり、これまでの経験則にないことを無理に(安易に)行ったりした場合、高い確率で訓練事故が発生します。なぜならば、その行動を行うために必要な体力、知識、経験が不足しているからです。
また、ベテラン隊員の場合でも、「長年経験してきたから大丈夫」と慢心した時に、事故が起こります。危険な行動を回避するためには、いついかなる場合でも定められた手順を守り、自分の能力以上のことを行わず、油断しないことが重要となります。
簡単な防止策は、危険な行動をする前に必ず一声かけることです。職場の仲間や家族間などでも「クルマ通ります!」「歩行者(子ども)渡ります!」など、普段から声かけができていると安心です。
とにかく、急いでいる時、疲れている時ほど要注意。これは仕事や日常生活でも同じです。焦っているとき、疲れているときほど、手順無視をしないことが大事なのです。
二見 龍(ふたみ りゅう)
1957(昭和32)年東京生まれ。防衛大学校卒業。陸上自衛隊第8師団司令部3部長、第40普通科連隊長、中央即応集団司令部幕僚長、東部方面混成団長などを歴任し陸将補で退官。防災士として自治体、一般企業で危機管理を行う。著書に『自衛隊式セルフコントロール』、『自衛隊最強の部隊へ』シリーズ、『弾丸が変える現代の戦い方』、『自衛隊は市街戦を戦えるか』、『特殊部隊 vs. 精鋭部隊』などがある。近著の『自衛隊式セルフコントロール』はすぐに実践できる自衛隊のノウハウが満載
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