HV王者か? EVの先駆者か!? トヨタVS日産 電気自動車覇権争いの現在地と今後

EVに不可欠なリチウムイオン電池とバッテリー充電設置問題をどう解決するのか?

 またEVの大量生産に不可欠な、リチウムイオンバッテリーの生産体制についても、1.5兆円の投資を行うとして、200GWh(ギガ・ワット・アワー)の規模も示された。これは、ドイツのフォルクスワーゲンが公表している240GWhに近い水準だ。

 ステランテスが260GWhの数値を示し、ソフトウェア開発と合わせ3.9兆円規模の投資を行うとしている。これらが、どれほどのEV台数になるかというと、一台の搭載バッテリー容量の多少にも左右されるが、およそ400~500万台相当に換算できる。

 これまでトヨタは、全固体電池への期待を示し、その実現によってバッテリー原価も下げながらより高性能化を目指し、一台のEVのバッテリー車載量を減らすことも目論んできた。だが、全固体電池の開発の進捗について「その特性はハイブリッド車(HV)に向いていることがみえてきた」と記者会見で質問に答え、さらにその量産へ向けては「量産に耐え得る電極素材を探す段階だ」と述べている。

 世界的にも全固体電池への期待は高いが、HVに向くとは、バッテリー容量を使い切るEVの使い方では、充放電に支障がある可能性をみたとも考えられる。全固体電池の試作車は、東京オリンピックの先導車などとして走らせたが、量産体制はなお見えない状況にあることを明らかにしたのも、既存のリチウムイオンバッテリーを使いこなすことで、当面のEV導入を促す方向に修正されてきたのではないか。

 ところで国内において、マンションデベロッパーがEV販売に対応した集合住宅の駐車場への普通充電設置の認識を高めつつあるとの情報がある。

 トヨタの販売店の最前線では、EVという選択肢を持たないことが現場の営業活動で不利益になる恐れを覚えはじめている。ことに、これまでクラウンやマークXなどを販売してきたトヨペット店やトヨタ店系列では、富裕層を含めた優良顧客を抱えており、そうした消費者がEVを望んだとき、トヨタ車に選択肢がなければ、競合メーカーや輸入車のEVへ食指を動かす懸念が生じているのだ。

 自動車メーカーは、月販や年間の販売台数から何万台売れるかという規模で、新車企画や原価計算をするだろうが、販売店にとっては1台の新車をいかに売るかに日々奔走しており、そうした積み上げが事業を安定させている。

 トヨタの販売店は、アフターケアも行き届き、長年にわたり新車が出れば乗り換える優良顧客が多い。しかし、EVという選択肢がないことで優良顧客が離れれば、それを再び取り戻すのは容易でない。

 いま何台売れるかも大切だが、優良顧客を逃さないため、一気に販売台数が伸びないとしてもEVを選択肢に加えなければ、結局何年か後にトヨタの市場占有率は下がることになる。

 2022年半ばといえば、まだ半年以上も先のことだ。それでもいま、改めてEVの導入と、その性能の一端をbZ4Xで明らかにしたことは、トヨタがいよいよEV販売に力を入れざるを得ない市場情勢になってきたことを示している。

 では、EV販売で、トヨタは国内において市場占有率50%を維持できるのか。また世界においては、世界一を継続できるのか。

国内EV先駆者 日産の偉業とトヨタEV事業の将来

世界初の量産電気自動車として登場した日産 リーフ。2020年には生産累計台数が50万台に達した
世界初の量産電気自動車として登場した日産 リーフ。2020年には生産累計台数が50万台に達した

 トヨタは、これまで燃料電池車(FCV)の販売においても、よいクルマをつくれば売れるという、過去の経験を踏まえた自動車メーカーとしての姿勢を崩していない。つまり、水素ステーションの展開はエネルギー産業に任せる姿勢だ。

 いっぽう、ホンダは、いわゆる水素ステーションという大規模な水素供給体制に足を踏み入れてはいないが、当面、水素ステーションの整備が追い付かない場所でもFCVが水素を補充できるように簡易型水素ステーションを開発し、実用化している。つまり、単なるいいクルマ作りだけでなく、燃料補給体制も一組にして普及を図らなければ、次世代車の浸透は期待できないということだ。同じことは、EVにもいえる。

 日産自動車は、2010年に初代リーフを発売する際、急速充電器の価格が高く、なかなか充電網の整備が進まない様子をみて、自ら急速充電器を開発し、実用化して、価格を約半分に引き下げた。こうして、全国での急速充電器設置を後押ししたのである。またそうした情勢に対し、経済産業省は1005億円もの補助金を出し、急速充電器の整備を促した。

 また、日産は全国の販売店に急速充電器を設置することに努め、当時の24kWhというバッテリー容量では現実的に200kmを一充電で走行するのが難しいなか、ほぼ40km圏内に急速充電器を設置した日産販売店が存在するようにした。自動車メーカーであれば、従来はやらなくてよかった事業にも足を踏み入れ、投資も行い、それではじめてEV普及の足掛かりができたのである。

 ほかにも、日産は初代リーフ発売前に、EV廃車後のリチウムイオンバッテリーの再利用を行うフォーアールエナジー社を設立した。現在では、EVでの利用限界にきたリチウムイオンバッテリーの載せ替え用中古バッテリーを実現し、新品バッテリーのほぼ半額で二次利用での載せ替えを実現している。新品と同等の性能ではないが、EVを利用できる実用範囲にある中古バッテリーの運用をはじめているのである。

 この事業が適正に行われるようになるまで、日産は10年近い歳月を投じてきた。いま、トヨタが日産と同じようなEV普及を支援する事業をはじめるとするならば、すでに日産での前例があるのでゼロからはじめるより短時間で追いつけるかもしれないが、数年から5年はかかるのではないか。

 欧米の自動車メーカーも、EVはつくりはじめても、日産のようなEVを取り巻くあらゆる出来事に対処することはまだできていない。それでも、たとえばフォルクスワーゲンは、充電網の整備に合弁会社などを通じて投資し、充電の不安解消をEVの販売促進における一つの策としている。

 量産市販のEVをまず売り出すことでトヨタに比べ数年先んじ、なおかつその視野は、自ら充電網へも足を踏み出すことを決意している。つまり、トヨタはあらゆる側面で世界に出遅れている。

 EVにしてもFCVにしても、性能に優れ商品性の高い、それでいて適正な価格の新車を販売すれば売れるというこれまでのエンジン車やハイブリッド車(HV)での事業ではなくなる。そして、日産のような全方位での事業展開は、かつて自動車メーカーが経験してこなかった周辺事業の技術や商習慣を会得しなければ成立しないのである。

 とはいえ、今年半期で過去最高の1.5兆円もの純利益を上げたトヨタである。投資をする腹をくくれば、あっという間に追いつき追い越すのかもしれない。だが、それには競合他社と同等の投資額では差を詰めることが難しいのではないか。それほどEVは、エンジン車の商売感覚では勝ち残れない事業なのである。

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