■「経済被害が兆単位に達する」
オリンピック組織委員会が政府に導入を進言し、政府与党が「検討する」としている「サマータイム」。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの酷暑対策として、夏季に日本全体の時計を2時間繰り上げる制度。
2018年8月7日に報道されたNHKによる世論調査では、サマータイム導入に関して「賛成」が51%、「反対」が12%、「どちらともいえない」が29%と、一般世論では賛成のほうが多数派となる状況だった。
こうしたなか、システム管理、情報セキュリティを専門とする立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授が「(サマータイム導入は)社会的な大混乱なく実施することは不可能」、「対応する企業には見かけ以上の負担が出る」、「経済被害が兆単位に達する」と反論。
論点をまとめたスライドが公開され、SNS等で大きな話題となっている。
スライドでは、「多くの情報システム機器が【時間】を基準に動作しており、これらの変更工数が膨大なものになる」と説明。「国・自治体、重要インフラ企業の情報システム修正には4〜5年が必要」、「家庭用機器の買い替えは10年程度かかる」とし、2年後の実施は「(「是非」ではなく)不可能」と指摘。
役所やメーカー、消費者センターには問い合わせが殺到し、この対応コストも甚大なものになり、さらに「サマータイム騒ぎは(「あなたの✕✕は修正が必要だから」といった偽の修正プログラム等の)ウィルスやスパム、いわゆるマルウェア(ウィルス入り)が蔓延し、サイバーテロ等を目論む攻撃者にとって絶好の機会を与える」と解説。
上原教授のスライドは、カーナビやETC等各種情報機器の破綻例を含む、今後明らかになるであろう不具合例を「今後追記予定」と締められている(2018年8月11日時点)。
■カーナビ、ETC、タクシーに大きな影響
もちろん、このサマータイム導入は自動車界にも大きな影響を及ぼす。日本で保有されている約8170万台(2018年4月時点/軽、二輪、貨物、特殊車両含む)の車両は、すべてサマータイムに対応していない。それぞれの車載時計(カーナビ含む)を夏季限定で修正することになる。それ自体で運転等への影響は考えにくいが、不便このうえないし、なにより愛車の車載時計の変更方法を知っているドライバーがどれほどいるかは疑問。
またカーナビの時計・到着時間表示は修正プログラムを各車にあてる必要があるが、その手間と費用は誰かが負担することになる(サマータイムは五輪期間限定だというが、そうなると終了後には再修正プログラムが必要)。
さらに大きな影響が考えられるのはETC(高速道路の電子料金収受システム)における深夜割引だろう。
現在、NEXCO東日本/中日本/西日本を中心に全国の高速道路では毎日午前0〜4時に割引率30%の深夜割引制度が実施されているが、この時間帯修正プログラムを、すべてのETCゲートに組み込む必要がある。導入するとなれば当然テスト、検証が必要となるが、毎日700万台が利用するETCを止めて実施するとなると大混乱は必至。そもそもオリンピックは東京以外あまり関係ない話だが、全国規模の改修は必要なのか。
さらに、深夜割引は多くの(空港等)駐車場でも実施されており、これらも修正が必要。
また、全国約25万台のタクシー車両の多くには深夜割増(夜22時〜早朝5時まで距離が2割短く計算される)の自動切り替え装置がメーターに内蔵されているが、サマータイム導入にあたり、タクシー1台1台に対して修正が必要になる。夜間点滅式の信号や、全国の幹線道路約1500カ所に配置されているNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の改修も必要になるだろう。
「海外では対応しているじゃないか」という指摘があるかもしれないが、上原教授のスライドによれば、サマータイム導入国の多くはあらかじめサマータイムに対応した機器設計となっているが、日本はそうではないと指摘。
「(導入に賛成する多くの国民は負担や不具合の程度を理解しておらず)実施すると絶対に【こんなはずではなかった】になる」と断言する。
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