W13は姿勢変化をさせないセッティングが基本。特にリアウイングには重要な役割がある
ゼロポッドの趣旨は、ドラッグの削減と後方エアロの高効率化のはずだ。そもそもメルセデスのエアロコンセプトはフロアからのダウンフォースをベースとして固定し、スピードに応じたダウンフォースを計算通りに発生させ、足りないダウンフォースや前後のエアロバランスの調整は前後のウイングに負わせており、特にリアウイングは重要なバランス構成の役割を担っている。
メルセデスのエアロコンセプトはライドハイトの大きな動きによるフロアダウンフォースの変化を嫌い、サスペンションの稼働を思い切り抑え、姿勢変化をさせないセッティングを基本とし、昨年までは左右のロールを殺したロールロックなども使われていた。このコンセプトの基本はW13にも継承されたようで、ベンチュリーフロアはライドハイトが前後ともに低く設定され、そのハイトを維持させるサスペンションが組まれていそうだ。
予想外にダウンフォースが大きく、ポーポシングが止められない
残念ながら新ベンチュリーフロアは、予想以上にダウンフォースの発生が大きいようだ。低いライドハイトのW13は巨大なダウンフォースが発生するとサスペンションがかなりハードにもかかわらずダウンフォースで押付けられ、ベンチュリーフロアの最低部分が路面に近づき過ぎ、あるいは接触してベンチュリーを閉ざしてしまい、前方からの空気流がフロア下に大きな圧力となってフロアを持ち上げる。これと同時に後方への空気流は閉ざされダウンフォースを急激に無くし、後方はスプリングの反力で上へ跳ね返る。
さらにライドハイトが持ち上がるとそこに前方からの空気流が急激に流れ込み、再び大きなダウンフォースを発生させ車体を押し下げる……この繰り返しがバスケットボールのドリブルの如く車体をバウンスさせる。これがW13を悩ませるポーポシングなのだ。
車高を上げればポーポシングは収まるが、まるでグリップのないマシンに
解決策はライドハイトを上げるとか、スプリングを硬くしてハイダウンフォースに負けないようにするなどだが……しかしこれらの対処を行えば絶対ダウンフォースの削減は必至で、そうなると開幕戦のバーレーン、第2戦のサウジアラビアの様な高速コーナーの多いサーキットでは高速で駆け抜けるわけにはいかなくなる。
開発コンセプトのライドハイトを確保できなければ、シミュレートした全てのデータを書き換えなければならない。既にこの先の第3戦や第4戦、あるいはそれ以上のシミュレーションは出来ているはずで、その全てをやり直し、セッティングも書き換えなければならない。
現在その作業がCFDと風洞を使って必死に続けられているはずだ。さらにポーポシング対策のサスペンションセッティングも解明作業がされているはずだ。
W13が速くないもうひとつの理由にメルセデスPUがありそうだ
昨年の開幕からホンダパワーに押され、メルセデスパワーは一昨年までのアドバンテージを失った。しかしシーズン中盤で新PUを投入すると、一気にそのパフォーマンスを取り戻してきた。この理由をメルセデスはチャージテンプラチャー、すなわち圧縮空気の冷却効率の向上に成功したといっている。
この開発が今シーズンの冷却系の小型軽量化に繋がっている様だ。しかし昨シーズン終盤にいたると、エンジンの耐久性の問題と称して6基もの新エンジンが換装された。もちろんレギュレーションに准じてグリッドペナルティが課せられたので問題はなく、ここからメルセデスPUは一気にパワーアップしてきたが、メルセデスの言葉通りならばその分信頼性を失ったというわけだ。
今シーズンのW13には、このハイパーエンジンを基礎に信頼性を得る開発がなされたはずだ。しかし残念ながら信頼性は向上したかもしれないが、パワーアップとはならなかったようだ。それは今シーズンのメルセデスチームの状況を観れば十分に考えられることだ。
エアロ、サスペンション、そしてPUと三重苦のW13。しかしメルセデスの開発力ならば、いずれ立て直してくるはずだ。
【画像ギャラリー】ポーポシングに苦しむメルセデスW13。エンジニアの離脱もPUに影響が?(2枚)画像ギャラリー津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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