決断は正しかったのか間違いだったのか? 【自動車業界の大鉈(おおなた)事件史】

■トヨタ自動車が導入したカンパニー制は正解だったのか!?

2016年4月に始まったトヨタの大鉈、7カンパニー制の概要

■佃 義夫の判定:まだ成否を判断する時期ではない

 結論から言うと、トヨタのカンパニー制の成否はまだ判断する時期ではない。トヨタグループを含めてこの大転換期に生き残りを賭けて動いた結果は、2020年以降にトヨタグループが世界で勝ち残っていけるかどうか? で、はっきりするだろう。

 トヨタ製品群別の7カンパニー制度を導入したのが2016年の4月。当初は、「先進技術開発カンパニー」「トヨタコンパクトカーカンパニー」「ミッドサイズヴィークルカンパニー」「CV(商用車)カンパニー」「レクサスインターナショナルCo」「パワートレーンカンパニー」「コネクティッドカンパニー」でスタートした。

 従来、トヨタでは機能軸の組織であった技術と生産技術を先行・量産で分け、各カンパニーに振り分けて、カンパニーごとにプレジデントを置き、責任と権限を集約することとした。

 豊田章男社長は「この組織改正は『ソリューション』でなく、『オポチュニティ』である。皆で力を合わせ、この新しい体制を『もっといいクルマづくり』と『人材育成』を促進する『オポチュニティ』にしていきたい。この組織改正を将来の正解にするのも、間違いにするのも私たち自身である」とコメントした。

 『オポチュニティ』とは好機と訳されるが、むしろ目的や願望に対して達成するのに都合のよい機会ということである。トヨタとしては、自動車産業が大きな転換期を迎えるなかで、自らが変えていきグループを含む異業種との連携もスピード感を持って機動的に動ける体制に踏み切った。

 これは、ある意味で豊田章男トヨタ体制の盤石化が基盤にある。というのもリーマンショックや東日本大震災などを乗り越えて、リーマン前の業績を超える流れを示してトヨタのトップとして自信を深めた章男社長の決断にある。

 電動化、自動運転、シェアリングビジネスなど次世代へのモビリティへの転換が進む方向に、多面的な取り組みを求めるトヨタの新たなチャレンジが具現化されたということなのだ。

 トヨタの社内カンパニー制への移行は、ダイハツ・日野の子会社との連動にマツダ、スバル、スズキと提携し自動車各社の参画に結びついている。さらに、デンソーやアイシン精機を主力とするグループサプライヤー部品企業の連携にも進んでいる。

 世界を眺めると、米中貿易戦争も製造大国への主導権争いが根底にある。日本では、トヨタを中心とする日本連合軍としての方向がトヨタ社内カンパニー制で大きな一歩を進めることになったのは間違いない。

■国沢光宏の判定:答えは出ていない

 結論から書くと、正解だったのかそうじゃないのか、いまだに答えなど出ていない。というかトヨタほど大きな企業だと、外から見た場合、変わり始めたのがわかるまでに最短で3年。変化が見えてから結果が出るまで2年くらいかかると思う。

 例えばGAZOOレーシングカンパニーで新型車を企画するとしよう。実車できるまで4年くらいかかります。出た新型車の評価が定まるまでさらに時間必要。合計5年だ。

 ちなみにカンパニー制を始めたのは2016年4月。この時点以降に開発を始めた車種は、どのカンパニーからも出ていない。逆に考えるなら、TNGAだってカンパニー制を始める前に仕込まれた技術だ。

 ただ「変わっていない」かと聞かれれば明確に「いいえ」です。トヨタ内部の動きを見ていると、カンパニー制にする前と直近じゃ大きく変わっている。わかりやすく言えば、情熱みたいな気合いを感じるのだった。

 そもそもカンパニー制とは何か? 導入する前も似たような役割分担制度を行っていた。コンパクトカーやミドルクラスカー、商用車など独立した開発センターを持っており、それぞれセンター長がいた。

 現在も同じ。強いていえば、カンパニー制になって「プレジデント」と呼ばれる責任者の権限が大きくなったことくらいです。そして今まで存在しなかった『GAZOOレーシング』というカンパニーを2017年に立ち上げたこと。

 ここからは私だけが考えていることかもしれないけれど、おそらくGAZOO部門に独立性を持たせるためカンパニー制を立ち上げたんだと思う。というのも章男社長はクルマに対し、たくさんの「夢」を持っている。けれど開発現場に進言しても素直に「はい」と聞いてくれなかったらしい。

 業を煮やし、自分の希望を叶えてくれる部門を作り、最も自分を理解してくれている友山さんをプレジデントにした、ということです。

 結果、今やGAZOOのイメージがトヨタを引っ張り始めた。新しいことを始めたり、クルマ好きの興味を引くことを行っているのはすべてGAZOOだったりする。そして、ほかのカンパニーも勢いに引っ張られつつある状況。

 カンパニー制というより、GAZOOというトヨタに新しい風を吹かせる部門を立ち上げたことが最も大きな変革だと思う。そして今のところ上手くいきつつあります。本格的な動きが見えるのは2019年か?

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