■戦車の黎明期だった第一次世界大戦
サン・シャモンは1917年から1918年にかけて、およそ400両が生産されている。
駆動機構はガソリンと電気モーター式の、いまでいうシリーズハイブリット車だったのだが、走行能力が低く、実戦でほぼ能力を発揮出来なかったため短命に終わってしまった。これまで映画にあまり登場したことがないのは、そういう事実もあるからなのかもしれない。
第一次大戦の戦車としてもっとも知名度が高いのは世界で初めて実戦に使用されたイギリス軍のマークIになるのだが、これも映画で観られるのは、そう多くはない。
記憶に新しいのは、西部戦線をイギリス兵の視点で見た『1917 命をかけた伝令』(2019)なのだが、これにはチラリと登場するだけで、動いてはいない。
意外なところで出て来たのは、人気舞台を映画に移し替えたスティーブン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』(2011)。第一大戦に駆り出された愛馬を探す青年の物語だが、ここにマークIの改良戦車、マークIVが登場するのだ。
オリジナルは舞台だし、戦争映画というより人間ドラマなので、戦車等が出てくる必然性は少ないのだが、『プライベート・ライアン』を観ればわかるように、実はかなりの戦争オタクでもあるスピルバーグである。こだわって登場させたに違いないのだ。
実際、この戦車は実際のマークIVを参考に作られた精密なレプリカ。現在はイギリスのドーセットにあるボービントン戦車博物館に、本物の戦車とともに展示されているというから凄い。
残念ながら、『西部戦線異状なし』のサン・シャモンに関する情報や資料がないため、この戦車を再現するためにどうしたのかがわからないのだが、おそらくオリジナルに忠実にレプリカを作ったのだろう。
現存するサン・シャモンは一両だけで、それは現在フランスのソミュール戦車博物館に展示されているという。
●解説●
1917年のドイツ。高校を卒業したばかりのパウルは、友だちに背中を押され、先生らに鼓舞されて志願兵となる。すぐに前線に送られるが、そこには栄光も名誉も、慈悲も安らぎもなかった。一方、ドイツ軍人のエルツベルガーは連合軍との休戦協定のために奔走していたが、それに強く反対する将軍がいた。
2時間28分に及ぶ上映時間の半分以上が塹壕戦。主人公の青年パウルがその目に焼き付ける地獄を、われわれ観客が一緒に目撃するかのような構成になっていて、まさに息詰まるシーンの連続。体力があるときの鑑賞をお勧めしたい。
ちなみに原作はパウルの一人称になっていて、エルツベルガー等のドイツ軍上層部の人間は登場していない。彼が休戦のために奔走するというエピソードはこの映画のオリジナルになっている。
マイルストンの1回目の作品が有名になったのは、強烈な印象を残すラストのせいで、二度目のTVドラマ化もそれをほぼ踏襲。が、本作はそれとは違う表現を用い、もっとタイトルの『西部戦線異状なし』に近い演出になっている。マイルストン版と本作、くらべてみると面白いと思う。
また、レマルクは第一大戦に出兵した自身の経験をもとに本作を書いたので、武器の扱いや塹壕等の描写は極めてリアル。そのリアリティを本作がもっとも見事に再現しているといっていい。
今回のアカデミー賞での技術部門における大量ノミネート(作品賞・脚色賞・視覚効果賞・美術賞・撮影賞・音響賞・国際長編映画賞・メイクアップ&スタイリング賞・作曲賞)も、その徹底がモノをいったからだろう。
本作の功労者、監督・共同製作・共同脚本のエドワード・ベルガーはドイツ生まれのドイツ人。『ぼくらの旅路』(2013)や、ベネディクト・カンバーバッチが主演したドラマシリーズ『パトリック・メルローズ』(2018)を手掛け、本作で才能が大きく開花した。
次回作は、『ゴーストライター』等の作家、ロバート・ハリスのスリラー『Conclave』や、ヒッチコックの『三十九夜』(1935)のドラマリメイクと目白押し。ハリウッドから熱い視線を浴びている。
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