マツダがいまCX-30を発売したワケ
そして第3世代(あるいは第2.5世代)とされるのが、CX-30のような全高を1550mm以下に抑えた新しいタイプだ。
注目すべきは1550mm(正確には1500~1550mm)の全高にある。この数値は「全高の最良値」で、必要な室内高と最低地上高を確保して無駄を抑えると、ちょうど1500~1550mmに収まる。
居住性や走破性能を十分に確保できて、なおかつ天井がむやみに高まらないから、重心高も適度で走行安定性が低下しにくい。車の重さや空気抵抗も増えにくく、動力性能や燃費も含めて1500~1550mmの全高にはメリットが多い。日本では立体駐車場も利用しやすい。
普通のハッチバックでも、フィット、ノート、ヴィッツ、パッソなどの全高は1500~1550mmに収まり、優れた実用性を発揮するが、外観はミニバン的というかズングリした印象になってしまう。
この見栄えをピリッと引き締めるスパイスが、SUVの定番とされるボディの下まわりやホイールアーチに装着されるブラックの樹脂パーツと大径アルミホイールだ。これらを加えれば、見栄えが力強くなって、よほどの失敗をしない限り堅調な売れ行きを保てる。
つまり、SUVは「何でもアリ」のカテゴリーだ。既存のワゴンやハッチバックボディの活用も含め、外観をそれらしくアレンジすればSUVに当てはめられる。最低地上高を高めると、悪路を走る機会も増えて耐久性を補強する必要が生じるが、ほかのカテゴリーの車を新規開発するのに比べると、低コストで販売不振には陥りにくい。SUVは手堅く稼げるのだ。
これが今頃になって過熱しているのは、SUVが「付加価値を備えた最後の売れ筋カテゴリー」になったからだ。セダンやクーペはもはや中高年齢層向けとされ、ワゴンはSUVに押されて車種数を減らした。
ミニバンやピックアップトラックは販売できる市場が限られる。5ドアハッチバックは堅調だが、ベーシックな車だから儲かりにくい。そうなるとSUVは、付加価値を備えた儲けに繋がりやすい最後の、そして貴重なカテゴリーなのだ。
そのため、ロールスロイスのような悪路が似合わない場違いなプレミアムブランドまで、世界中のメーカーが、SUVのカテゴリーにギッシリと群がっている。
変わるマツダが狙う新たなポジション
マツダがCX-30を投入する背景にも、このSUVを中心とした乗用車の市場構造がある。欧州メーカーの積極参入も含めて、SUVの第2世代が人気を得てから約20年が経過した。マツダの「魂動デザイン」を初採用した初代CX-5から数えても7年を経過しており、技術も進化してスカイアクティブXが実用化された。
そこでマツダ3のフルモデルチェンジと併せて、第3世代SUVのCX-30を加えるわけだ。CX-30は前述のようにCX-3とCX-5の中間車種だが、車両のサイズではCX-3と重複が多い。全幅は1800mm以下でほぼ同じだ。CX-3はCX-30に吸収され、ミドルサイズでは、CX-5と都会的なCX-50を用意する可能性もある。
また、現在のマツダは「魂動デザインとスカイアクティブ技術」で統一され、良い面もあるが、デミオからCX-8まで商品の見栄えや性格が硬直化している。外装のテーマカラーまで統一したから、全部同じ車に見えてしまう。今のままでは、もはや今後の広がりを期待しにくい。
そこでマツダは新しいシリーズの構築を考えている。魂動デザインのスポーツ路線ではなく、もう少し落ち着いたプレミアム感覚のマツダ車だ。そこに後輪駆動を加える可能性もある。
CX-30は魂動デザインの流れに沿うが、コンパクトなボディで余裕のある室内空間を備えた商品開発は、新しいシリーズの姿を予見させるものでもある。CX-30はマツダ車にとって、大切な通過点になりそうだ。
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