【インサイト ウェイク iQ…】がんばりすぎが仇(アダ)になったクルマ5選

軽さと空力をストイックに追求したホンダインサイト(初代)

オデッセイに代表されるクリエイティブムーバーの成功によって息を吹き返したホンダは、1990年台後半に反撃に出る。特に力を入れたのは環境性能の追求だ。1997年にリース販売の形でEVプラスを送り出した。

これに続く第2弾が量産ハイブリッド車のインサイトである。プリウスに先を越されたが、1999年11月に個性派2シーター・ハッチバッククーペのインサイトを市場に送り出した。

注目したいのは、燃費向上のためにパワートレインだけでなくボディ設計にも並々ならぬ力を注いだことである。NSXと同じように押し出し材を中心としたフレームを採用し、ボンネットやドア、ルーフなどのボディも軽量なアルミ製だ。

また、リアフェンダーにスパッツを被せるなど、空力性能にも徹底してこだわった。空気抵抗係数は当時の量産車としては驚異的なCd=0.25。1Lの3気筒エンジンと薄型ブラシレスDCモーターの効率もよかったから、10.15モード燃費は当時としては世界最高の35.0km/Lをマークしている。
採算を度外視して軽量化と燃費向上に挑んだハイブリッド車の傑作だった。が、個性の強すぎるデザインと実用性の低さが災いしてか、販売は伸び悩んだ。

そのため2代目は5人乗りのセダンとして設計されたが、平成が終わろうとしている今、ホンダ設計陣の心意気を感じるのは初代インサイトである。

デザインはハッチバッククーペスタイルで、リアホイール回りの整流効果のあるスパッツを装着しているのが特徴。デザインよりも2シーターだったのが販売苦戦の最大要因か

シャープなハンドリングを追求したマツダAZ-1

1990年春、軽自動車は排気量を660ccに拡大し、ボディサイズもひと回り大きくした。この時期はバブル期の真っ只中だったから、企画されたクルマは高性能だし、デザインもコンセプトも跳んでいる。

特にスポーツモデルは個性を競い合った。その筆頭にあげられるのが、92年にマツダが発売した過激な軽スポーツカー、AZ-1だ。

ロードスター、コスモ、RX-7(FD3S)と、矢継ぎ早にスポーツモデルを送り出したマツダは、軽自動車にミッドシップのスポーツカーを企画し、市場に放ったのである。

スケルトン・モノコックフレームにスズキ製のパワフルなF6A型3気筒DOHCターボを搭載し、サスペンションは4輪ともストラットとした。ドアはスーパーカーのように開閉するガルウイングドアを採用する。

AZ-1はレーシングカーに近いシャープなハンドリングのマイクロスポーツだ。人馬一体の痛快な走りを存分に楽しめた。

だが、ピーキーな操縦性も顔を覗かせ、ドライバーを選んだのである。当然、ワインディングロードでホットに攻めると手に汗握るドライビングを強いられ、時にはスピンすることもあった。

タイヤが前後で異なるサイズを採用していたなら怖い思いをしなくてすんだはずである。開発陣は頑張りすぎて足元が見えなかったのだろう。

シャープすぎるハンドリング、ガルウイングと、ある意味歴代日本車で最もスパルタンなクルマといえるのがAZ-1。無い物ねだりの典型で、中古はタマ数が少なくいまだに高値安定

背の高さ=快適性を追求したダイハツウェイク

ウェイクはタントをベースに開発され、2014年11月に発売されたダイハツ初のスーパートールワゴンだ。軽自動車は全長と全幅が決まっているから、より広いキャビンスペースを生み出すには全高を高くするしかない。

そこでウェイクは、背をアトレーワゴン並みの1835mmまで引き上げた。フロントウィンドウを遠くに持っていっているし、面も思い切り立てたのでキャビンは軽自動車とは思えないくらい広い。

見晴らしのいい前席だけでなく、後席の足元と頭上も群を抜く広さを誇っている。テレビCMで自慢したように、荷室も驚くほどの広さだ。

開発陣は自信満々ウェイクを送り出した。が、フタを開けてみると販売は低迷したのである。飽きるほどテレビCMを打ったが、カンフル剤にはならなかった。多くの人はNボックスやタント、スペーシアなど、全高が1800mm未満のトールワゴンを選び、乗り換えは進まなかった。

理論的には背の高いほうがキャビンは広く、買い得に感じる。しかし、背が高いと横風にあおられやすいし、コーナリングでの挙動も不安定になりやすい。既存のトールワゴンでも充分に広いし、使い勝手がいいから多くの人はウェイクになびかなかったのだろう。

背の高さの追求が過剰だったためそれが仇となり、ダイハツが想定していたほど売れてはいないが、一部のユーザーには支持を受けているため、失敗作というわけではない

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こうして「やりすぎたクルマ」たちを見てみると、どれも広範な支持こそ得られなかったものの、一部のニーズにはしっかりと応えており、なにより日本の自動車史を彩って強烈な足跡を残したクルマたちだということがわかる。

近年こうした個性的で尖ったクルマを見かける機会が減ったのは、日本の自動車市場全体が痩せてしまってきたからなのかもしれない。そう考えると少し寂しいし、メーカーの皆さんには、(「クルマの楽しさ」を広める意味でも)やや無理をしてでも「やりすぎ」を続けてほしい。

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