最近、夜間での対向車や後続車のヘッドライトが眩しいという話題を取り上げてきました。
その要因として、ハイビームの切り替え忘れやロービームの配光特性の変化、道路の構造によるもの、光軸の狂いなどを挙げました。
しかし、それだけではありません。ヘッドライト自体が明るくなっているのです。
はたして、ヘッドライトはどこまで進化しているのか? 最新のヘッドライト事情を自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸(自動車テクノロジーライター)
写真/ベストカーWEB編集部
■今思えば、けっして明るいとはいえなかったハロゲンヘッドライト
昔はヘッドライトの光源といえばハロゲンバルブだけだった。これは白熱球と同じくタングステンという耐熱性の高い金属をフィラメントにして、点灯によりフィラメントが発熱して蒸発するため内部に不活性ガスのハロゲンガスを封入して蒸発したタングステンを再びフィラメントに還元させることにより、耐久性を高め、光量と耐久性を両立していた。
しかし、ヘッドライトの電流は比較的大きく、それでいて昔はスイッチにまで生の電流が流れていたため、ロスも大きかった。
そこで、ランプメーカーはスイッチ回路にリレーを組み込み、スイッチには信号としての電流を流すことでヘッドライトを明るくすることを後付けキットとして提案する。
これにより、ハイワッテージバルブの使用が可能になり、より明るいヘッドライトを実現することができた。これが今から四半世紀前の話だ。
■HIDランプの登場でヘッドライトが進化
そこから10年ほどでヘッドライトは大きく進化する。HIDランプの登場だ。電灯の一種で、エンジンのスパークプラグのように電極間を放電させて火花を出させて発光する。
高い電圧が必要だが、フィラメントのように電気抵抗により光(熱)を発生させるより、はるかに効率が高い。省電力(35w)で大光量を実現し、青白い高い色温度の光でたちまち人気となったのである。
しかし、HIDには欠点もあって、スイッチを入れてもすぐには明るくならない。運動場のナイター設備に使われている水銀灯はHIDとほぼ同じ構造だが、やはり通電させてから十分に明るくなるまで数分は掛かる。
エンジンを始動させてすぐに走り出すような使い方には向いていないし、ライトをパッシングするにも使えない。そのためロービームはHIDだが、ハイビームはハロゲン、という組み合わせが一般的だ。
また、ライト本体も進化していく。従来は光源が発する光を表面のガラスに施されたレンズカットにより配光が定められていた。光源の奥のリフレクターは単に前方に光を反射させるだけのものだった。
光を絞り込むようにして配光して明るさを高めたのがプロジェクタータイプのランプで、これは効率が高いがコストも高いことから、高級車を中心に普及していく。
それに対して比較的コストが安く明るさを高められるとして登場したのが、マルチリフレクタータイプのライトだ。
これはリフレクターを複雑に組み合わせて配光するもので、表面のレンズは透明なカバーになっており、昼間もキラキラとリフレクターが反射して輝くことからフロントマスクを印象付けられる。
■LEDの出現でさらに進化!

2007年になると、またもヘッドライトは大きな進化を果たす。LEDヘッドランプの登場である。LEDは省電力で明るいのがメリットだが、それまではヘッドライトに使えるほどの光量は発揮できなかった。
世界初のLEDヘッドライトを採用したレクサスLSは、その当時まだ光量はHIDには負けていた。
しかし開発が進み、よりハイパワーなLEDチップが開発されたことによって今では省電力でHID並みの明るさとハロゲン以上の反応性を実現している。
LEDヘッドライトの登場で、ライト本体もまた進化できるようになった。光源を細かく分けることによって配光を細分化することが可能になったのだ。
これにより、マルチリフレクターよりもキラキラと輝くゴージャスなヘッドライトユニットが作れるようになっただけでなく、ALH(アダプティブLEDヘッドライト)、スマートヘッドライトと呼ばれる配光が変幻自在に制御できるシステムが開発された。
これはカメラにより前方にクルマなどがいると認識すると、その方向の配光だけをカットして、ハイビームの幅広い照射範囲と対向車ドライバーへの幻惑防止を両立してくれるもの。
単にハイビーム/ロービームの切り替えを自動で行なってくれるオートハイビーム、ハイビームアシストと呼ばれる装備より、ずっと安全で快適だ。
クルマのヘッドライトの進化の歴史としては以上が主だったものだ。ノーマルのまま使用するなら、車種やグレードを選べば他に選択肢はないが、光源自体は後付けキットを利用することでヘッドライトの明るさを高めることができる。ハロゲンバルブのヘッドライトをHID化したり、LED化することができるのだ。
HIDもLEDも中国で製造しているメーカーが多く、価格競争もあってかなり手頃な金額で買えるようになった。
1台分で5000円を切るような、ハロゲンバルブと変わらない価格から手に入れることができる。しかしHIDは高電圧を利用するし、LEDは精密電子機器なので、品質には十分注意して選びたい。
粗悪品になると最初は明るくても、半年、1年ほどで壊れてしまうものも多い。HIDの場合はハンダや部品の品質以外に防水性なども大きく関わってくる。だからバラストの装着位置などの工夫も必要だ。LEDの場合は熱による劣化が大きい。
LEDはそもそも発熱が少ない光源なのだが、ハイパワー化したことで発熱量も大きくなり、チップの冷却が問題になってきている。
ちなみに純正のLEDヘッドライトはチップを載せる基盤の冷却性を高めるなど、10年10万kmに耐えるほどの信頼性を確保している(それでも実際にはもっと早く壊れる個体もある)。


■後付けキットでヘッドライトを明るくする際の注意点
LEDヘッドライト化は、ハロゲンバルブと交換するだけなので、HIDと比べても簡単でDIY初心者でも作業できる。
しかし、製品によってサイズが異なったり、輸入車は同じバルブ形状でもソケットの規格が違うものもある。
自分のクルマに装着可能なものであるか、バルブの規格だけでなく装着方法やサイズ、ソケット形状なども調べて購入することが大事だ。
さらにヘッドライトが明るくなることが、メリットばかりとは限らないことにも注意が必要だ。まずは周囲のドライバーへの配慮。
配光特性をそのままに光量だけアップすると、ロービームでも路面を照らす光だけでなく、周囲に散る光も強くなるので、周囲のドライバーは眩しさを感じることになるのである。
そんなの自分には関係ない、自分の交通事故さえ防げればいいと思う人もいるかもしれないが、今はドライブレコーダーの装着率が高まっている状況で、万が一自分のヘッドライトが眩しいことが事故の一因ということがドライブレコーダーの映像から証明されれば、全く接触などしていなくても、交通事故の当事者として責任を追及される可能性も出てくる。
また配光の輪郭がクッキリとしている最近のクルマでは、街灯など周囲の灯りが少ない環境では自車のヘッドライトで照らしている範囲を超えると途端に暗くなるため、周囲の状況が余計に見えにくくなる危険性もある。
自転車などが、小さな灯りで思わぬ方向から接近してくると気付かない可能性が高まるのだ。
ハロゲンバルブからHID、LEDに交換すると消費電力が下がるため、車種によって(特に輸入車)はバルブ切れ警告灯が点灯してしまうことがある。
これを解消させるにはキャンセラーの装着か、加工が必要になるので、良く調べてから購入し、作業に臨もう。
■ヘッドライトは今後どうなる?

最後にヘッドライトの未来について語らせてもらおう。HID、LEDへと進化したヘッドライトは、より効率の高い灯りを求めて開発が続けられている。
その一つがレーザー光を使ったヘッドライトで、これはLEDで作り出したレーザー光を利用している。
レーザー光はプロジェクター以上に光の広がりが少なく、500m先まで照らすことが可能だ。
こういった先進技術を導入することに積極的なアウディはすでに2014年にR8の限定車に採用し、現行モデルのA8にも搭載されている。
非常に強い光なので、高速時のハイビーム使用時のみ動作するなど、使い道は限定される。
2020年4月から周囲の明るさを検知してヘッドライトが自動で点灯するオートヘッドライト(AHL)が義務化されるが、今後はAHLも普及して、より夜間の走行を安全なものにしてくれるようになっていくだろう。
