最近は緊急自動ブレーキなど、軽自動車の安全装備が急速に向上してきた。とても好ましい傾向だ。
軽自動車は市街地を中心に使われ、売れ行きも増加しているから(今は新車として売られるクルマの40%近くを軽自動車が占める)、歩行者を巻き込んだ交通事故の加害者になる可能性も高い。
歩行者に対応した衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる緊急自動ブレーキ)などを装着すれば、優れた効果を発揮できる。
また安全装備を装着すると価格の上昇は避けられないが、軽自動車は販売台数が多いから、量産効果に基づくコスト低減も図れる。
軽自動車の安全装備について、渡辺陽一郎氏が検証する。
文:渡辺陽一郎/写真:HONDA、DAIHATSU、SUZUKI、平野学、ベストカー編集部
エアバッグ
安全装備で特に早い時期に採用されたのがエアバッグだ。
軽自動車ではホンダビートが1991年に初採用した。この時は運転席のみで、価格は8万円だった。今は両側に装着されるサイドエアバッグとカーテンエアバッグがセットで5万〜6万円だ。
ちなみに国産乗用車でエアバッグを最初に装着したのは、初代ホンダレジェンドで1987年に運転席エアバッグを追加している。この時の価格は20万円だったから、4年後のビートが8万円というのは、当時は割安に感じた。
エアバッグの性能は、軽自動車でも小型/普通車でも違いはない。そして軽自動車はボディがコンパクトで特に車幅が狭いから、サイド&カーテンエアバッグによる安心感は、小型/普通車以上に高い。
衝突時に乗員を守る装備として、運転席/助手席/サイド/カーテンエアバッグは、今でも大切な役割を担っている。
4輪ABS
エアバッグは衝突した後で作動する安全装備だが、4輪ABSはその前の段階で効果を発揮する。
例えばカーブを曲がっている最中に急ブレーキを作動させた場合、4輪ABSが非装着であれば、コースアウトする危険性が高い。急ブレーキによってタイヤがロックして車両が曲がらなくなるためだ。
路上でタイヤの回転が止まるブレーキロックを防ぎ、最大限度の減速をしながら、タイヤの回転を維持するのが4輪ABSで、急ブレーキ時でもハンドルを回した方向に車両が進む。
従って急ブレーキを作動させながら、ハンドル操作で障害物を避けることも可能だ。ドライバーのブレーキペダル操作と違って、4輪それぞれの制動力を独立して調節できるため、綿密なブレーキ制御を行える。
4輪ABSがもたらす安心感は高く、軽自動車でも小型/普通車と変わりはない。
なお4輪ABSを軽自動車で最初に採用したのは、1990年に発売されたスズキセルボモードであった。国産乗用車の初採用は、1982年の2代目プレリュードだ。つまり4輪ABSを軽自動車が装着するまでに、約8年間も経過していた。
4輪ABSは事故防止の能力が優れた安全装備だが、1980年代にはユーザーの関心も低かった。メーカーも装着を進めず、販売促進に貢献するエアバッグを優先させる傾向が強かった。4輪ABSはこの残念なパターンの典型であった。
横滑り防止装置
横滑り防止装置は、クルマが横滑りしそうになると、4輪のブレーキを電子制御により独立制動して挙動の乱れを抑える装置だ。4輪ABSの機能をさらに高めたシステムともいえるだろう。
例えば左回りのカーブで後輪が外側に横滑りを生じさせ、スピンに至る動きを見せた時は、外側に位置する右側の前輪を中心にブレーキを作動させる。そうすると右回りの力が発生して左回りのスピンを打ち消し、挙動を安定させる。
軽自動車は道幅の狭い地域でも運転がしやすく、積雪地域で使われることも多い。横滑り防止装置のメリットは小型/普通車と同等か、それ以上に際立つ。
横滑り防止装置を軽自動車で最初に採用したのは、ダイハツの5代目ミラ/2代目ムーヴ/テリオスキッドであった。軽自動車の規格が1998年に現在と同様に刷新され、いっせいにフルモデルチェンジを行った時に設定している。
この機能を国産乗用車で最初に採用したのは、1995年に発売された2代目トヨタクラウンマジェスタだ。4輪を自動的に独立制動させてスピンなどの横滑りを防止するのは、当時では画期的な安全技術だった。
ところが前述の4輪ABSと同様、なかなか普及しない。発売時点でオプション設定しながら、マイナーチェンジで、装着比率の低迷を理由に非設定にする車種まであった。その意味でクラウンマジェスタの初採用から3年後に軽自動車に装着したダイハツは、安全装備に積極的だった。
当時のダイハツは衝撃感知安全システムも採用している。エアバッグのセンサーが衝突を検知すると、ハザードランプを自動点灯させて二次的な事故の発生を抑え、ドアロックの自動解除とルームランプの自動点灯により、乗員の救出性も向上させた。当時のダイハツは、この機能を価格の安いエッセを含めて、全車に標準装着していた。
ちなみに横滑り防止装置は2018年2月以降に新車で購入できる軽自動車には装着が義務化されている。
衝突被害軽減ブレーキ
安全装備の中でも、特に注目度の高いメカニズムが衝突被害軽減ブレーキだ。センサーが歩行者や車両と衝突する危険を検知すると、警報を発して緊急自動ブレーキも作動させる。ドライバーの運転ミスを積極的にカバーする安全装備だ。
衝突被害軽減ブレーキを軽自動車で初採用したのは、5代目ダイハツムーヴだった。2012年のマイナーチェンジで、スマートアシストを設定している。
この時点ではセンサーが赤外線レーザーのみだったから、検知できるのは基本的に車両に限られ、作動速度の上限も30km/hと低かった。それでも市街地を走る機会の多い軽自動車では安心感が高く、注目の装備になった。
それが今では、センサーも安全性能も大きく向上し、すべてとは言わないまでも登録車と遜色ない性能が与えられたモデルが増殖中。
ホンダN-BOXは、センサーにミリ波レーダーと単眼カメラを使う。タントやムーヴなどのダイハツ車は2個のカメラで、スズキは赤外線レーザーと単眼カメラだ。日産は単眼カメラのみで幅広い制御を行う。
ちなみに世界初のプリクラッシュセーフティシステムは、2003年2月に発売された2代目トヨタハリアーが採用した。ミリ波レーダーを搭載して、衝突の危険を検知すると警報を発した。
このハリアーは警報のみだったが、緊急自動ブレーキの機能は、2003年6月に発売された4代目ホンダインスパイアが、追突軽減ブレーキの名称でアバンツァーレに標準装着している(世界初)。
追従走行の可能なクルーズコントロール
最近は車間距離を自動制御できるクルーズコントロールが注目されている。ミリ波レーダーやカメラなど、衝突被害軽減ブレーキのセンサーが先行車をとらえ、設定速度の範囲内で先行車との車間距離を維持しながら追従走行できる。安全装備とセットになる運転支援機能だ。
軽自動車でこの機能を最初に採用したのは、2017年に発売された現行ホンダN-BOXであった。緊急自動ブレーキを作動できるホンダセンシングの機能に組み込まれた。センサーにはミリ波レーダーと単眼カメラを使い、追従走行に加えて、車線の中央を走れるように電動パワーステアリングの操舵も支援する。
N-BOXのクルーズコントロールは、時速30〜100kmで作動する。これが2019年に発売されたデイズとeKシリーズになると、全車速追従型に進化した。パーキングブレーキが電動化され、追従走行によって停車した後も、パーキングブレーキに切り替えて停車状態を保てるようになったからだ。
これらの運転支援機能は、ユニットを小型/普通車と共通化しており、軽自動車でも見劣りしない。そして今後は次期ホンダN-WGN、次期ダイハツタントなども、運転支援機能を採用するだろう。
ヘルプネット
安心感を高める装備として、ヘルプネットもある。緊急時にオペレーターに通報して救援を依頼できるシステムだ。またエアバッグが展開するような事故に見舞われて意識を失った時、自動的に消防や警察への通報を依頼できる機能もある。
このサービスは、カーナビの通信機能を利用して各メーカーが行うが、日産デイズ&三菱eKシリーズは、運転席の天井部分に緊急通報ボタンを装着してSOSコールを可能にした。常に外部と繋げられることで、安心感を一層向上させている。
高級車、高額車専用のイメージのあるヘルプネットが軽自動車に設定されたことは画期的で、性能はもちろん遜色ない。
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このように今の軽自動車の安全装備は、小型/普通車と比べて劣るところはほとんどない。乗員や歩行者を守ることの大切さは、クルマのカテゴリーには関係ないから、当然の発展といえるだろう。
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