近年はクルマの大型化が止まらない。安全性の確保や、多種の装備による重量増加が大きい。
さらにハイブリッド車やプラグインハイブリッドなど、バッテリーを搭載するクルマの重量は嵩むいっぽうだ。
輸入車ではアルミ素材を巧みに使った軽量な車種も増えたが、この日本マーケットではどうだろうか?
文:片岡英明/写真:編集部
■かつてGT-Rは1100kg!! クルマが年々重くなる理由
2Lの直列6気筒DOHC4バルブエンジンを積むスカイラインGT-Rは今から50年前の1969年にデビューした。4ドアGT-Rの車両重量は、驚いたことに1120kgだ。ハードトップGT-Rは、さらに軽量で、1100kgにとどめられている。
アクアやフィットのハイブリッド車と、車重はほとんど変わらない。2ℓクラスのエンジンを積むクルマに目を向けると、トヨタ86は軽量グレードのGでも1230kgだ。昔のクルマは軽かった。

もちろん、ボディは大きくなっている。排気量は2Lと変わらなくても、最近のクルマは3ナンバーのワイドボディだ。
また、快適装備がたくさん盛り込まれ、安全性を高めるためにボディ骨格を強固にしているから重量はかさむ。
モーターやバッテリーを積むハイブリッド車やEVとなると、1500kgを超えるクルマも珍しくない。当然、車重が重いと加速は悪くなるし、燃費も大きく落ち込む。
だから最近は、世界中の自動車メーカーが軽量化に熱心な取り組みを見せるようになった。
ボディやサスペンション、ホイールなどを軽量化すれば重心を下げられるから、ハンドリングはよくなる。また、同じエンジンでも鋭い加速を得られるし、燃費向上の効果も大きい。ブレーキの制動性能も向上する。
だからスポーツモデルはボンネットやルーフなどに軽量部材のアルミやカーボンファイバーを使い、サスペンションなどもアルミ材に交換しているのだ。
スチールホイールに代えてアルミホイールを装着するのも、バネ下重量を軽減し、操縦性をよくするためである。
■軽量化の”弱点”はどのように克服されているのか?
では軽量化することの弱点はないのだろうか!? 軽いクルマは強度や剛性の点で重いクルマより不利になる。
クルマ同士で衝突したとき、重いクルマのほうが攻撃性は強いから軽いクルマを弾き飛ばす確率は高い。
だが、最新モデルは技術の進歩とエンジニアの努力によって軽量でも剛性が高く、衝突安全性能も高いクルマを造れるようになった。

プラットフォームを刷新し、薄くて丈夫な高張力鋼板(ハイテンションスチール)や構造接着剤などを使って軽量化を図る手法は、今では珍しいものではなくなっている。
また、材料置換によって軽量化するクルマも多い。前述したアルミやカーボン、樹脂素材などの部品に置き換え、軽量化するのである。
軽量化を徹底したクルマづくりは昔からあった。その代表が1965年に登場したトヨタスポーツ800だ。
モノコック構造のボディにはスチールに加え、アルミを使い、エンジンも軽量コンパクト設計の水平対向2気筒OHVを搭載している。
車重は、今の軽自動車よりはるかに軽い580kgだ。当時としては空力性能も優秀だったから、非力なエンジンでもホンダS800と互角に渡りあえた。
初代と二代目のサニーも軽量ボディを武器に痛快な走りを見せている。1970年に登場した二代目のサニーのリーダーはツインキャブ装着の1200GXだ。
このGXのクーペモデルは705kgの車重だった。だから気持ちいい加速を披露し、これを軽量化したレース仕様は10年にわたって第一線で活躍している。
■現在軽量化に最も力を入れているスズキ
21世紀の今、軽量化に強いこだわりをもっているのがスズキだ。グラム単位で軽量化に励み、生産方法にも工夫を凝らした。
軽量モデルの筆頭が、2014年12月にモデルチェンジした現行型アルトである。プラットフォームを一新し、先代のアルトエコから60kgもの軽量化を達成した。廉価グレードのFは、驚異的な610kgの車重だ。
また、ターボ搭載のワークスとRSも670kgに抑え込んだ。それでいて走りはシャキッとしているし、安全装備にも抜かりはない。

ホンダS660やコペンと一緒に走らせても軽量だからスピードのノリがいい。アルトには開発エンジニアの執念が感じられる。
スイフトも軽い。このコンパクトカーは、日本だけでなくハンガリーのマジャールなど、海外の工場でも生産するスズキの主力モデルだ。
そのために生産性を重視している。が、生産方式を工夫し、難易度の高い高張力鋼板などの技術も盛り込みながら海外でも軽量かつ高品質なスイフトを誕生させた。
1.2Lモデルは弟分のイグニスとほとんど違わない860kgの重さに抑えている。ハイブリッド車とターボ搭載のスイフトスポーツでも1トンを難なく切る軽量ボディだ。
上のクラスではインプレッサが軽い。主役のAWDモデルは、2Lエンジン搭載車でも1370kgの軽量である。
しかも運転支援技術のアイサイトと歩行者エアバッグなど、安全装備を標準装備しての重さだ。

マツダ3だと1.5Lモデル、カローラスポーツは1.2LターボのAWDモデルと大差ない重さに抑えているのは高く評価できるところだ。
航空機でモノコック構造に造詣の深いスバルは、スバル360の時代から軽量化に力を注いでいた。
インプレッサからは新世代プラットフォームのSGPを採用し、アルミ合金製の水平対向エンジンも軽量設計だ。
ボンネットなどにはアルミ材も使っている。技術の積み重ねによって先代よりはるかに軽いクルマに仕上げている。
輸入車ではEVのBMWi3を高く評価したい。EVはモーターに加え、重いバッテリーを敷き詰めているために重量がかさむ。
だが、i3は、レーシングカーと同じようにカーボンファイバー製の骨格にアルミ合金製のシャシーを組み合わせ、ボディは強化ガラス繊維のFRPとするなど、徹底して軽量化に努めた。
その結果、最新モデルはリーフと同じ40kWの大容量バッテリーを積みながら1320kgの車重を実現したのだ。
リーフは1490kgだからパワーウエイトレシオは大きく差をつけ、加速も冴えている。
【まとめ】
軽量化がもたらす恩恵は非常に大きいものの、やはり安全性とのトレードオフになりやすい。
そんななかでも軽量化を実施し、なおかつ安全性も確保している車種たちに賛辞を送りたい。