2018年度、累計販売で131,760台を記録し、国内の登録車販売ランキングトップとなったノート。またセレナも、2018年度の国内販売で100,017台を記録し、ミニバンセグメントで販売ランキング1位を獲得。セレナとして初めての年度販売台数10万台超えを達成した。両車の販売を支えているのは、大好評の「e-POWER」であるのは言うまでもないだろう。
それにしても、これだけ好評なのだから、販売が伸び悩んでいる他の現行車にもe-POWERを水平展開してもよさそうなものだが、日産がそれをしようとしないのは、なぜなのだろうか。メーカーの元開発エンジニアの筆者が考察する
文:吉川賢一 写真:日産
■e-POWERを現行車に簡単には搭載できない理由とは?
まず初めに、現在の日産が持つ3つのハイブリッドシステムをおさらいしよう。
1つ目は、 スカイラインやフーガ、シーマに搭載されている、「1モーター2クラッチ方式インテリジェントデュアルクラッチコントロールハイブリッド」だ。既存の7速ATのトルクコンバーターを廃止し、モーターとクラッチを収めることでコンパクトな構造としたシステムだ。ひとつのモーターが、駆動とエネルギー回生のふたつの役割をこなすので、構成部品を減らすことができ、軽量化を実現させたという。システム最高出力は364psを発生する。
そして2つ目は、エクストレイルに搭載している、FF車(前輪駆動車)用のハイブリッドシステムだ。これは、先述の「1モーター2クラッチ式インテリジェントデュアルクラッチコントロール」を、FF車専用に開発したものである。エンジンとモーターの間に「クラッチ1」を、モーターとCVTの間に「クラッチ2」を設置。「クラッチ1」のON/OFFを選択することで、状況に応じてエンジンとモーターを使い分けることができるハイブリッドシステムだ。中型から大型のFF車、四輪駆動車など、幅広い車種への搭載が可能。システム最高出力は182psを発生する。
そして3つ目が、ノートやセレナに搭載している、お馴染みの「e-POWER」だ。発電用1.2Lガソリンエンジンと発電用のモーター、そして駆動用のモーターを搭載し、駆動に関する動力はすべてモーターとなる。エンジンでの発電時以外は、EVのリーフ等とドライビングフィールは同じだが、最高出力は136psと控えめである。
以下に、エンジンとモーターのスペックを簡単に比較した。
■ジュークやエルグランドにe-POWERを搭載しない理由とは?
販売が伸び悩んでいる日産車で、e-POWERを載せれば売れそうなクルマ、ということで、ここではジュークとエルグランドを例に挙げよう。
まず、ジュークに関しては、間もなく「新型ジューク」がデビュー予定だ。この新型ジュークにe-POWERが搭載されるのは、まず間違いない。コンパクトなボディサイズ、そして走りを重視したキャラクタなど、ジュークには、e-POWERはベストマッチなパワートレインだ。むしろ、e-POWERのグレードのみの可能性さえある。
クルマのフルモデルチェンジの開発には、少なくとも2年は要する。この新型ジュークに搭載されることが決まっていたからこそ、現行のジュークに載せる、という検討はなされなかったのであろう。
次に、エルグランドだが、エルグランドには「どうしてもe-POWERを搭載することができない」理由がある。それは、「エルグランドの車重」だ。
現行エルグランドは、大きく分けると、2.5Lエンジンと3.5Lエンジンを積んだ2つのグレードがある。3.5Lエンジンは、280psを達成するハイパワーを誇り、最大定員乗車すると2.4トン超にもなる車重のクルマを、矢のごとく走らせることができる。また、廉価な2.5Lエンジンは170psであり、こちらも最大定員乗車時で2.3トンにもなる車重のクルマを走らせているエンジンだ。つまり、この重量級ミニバンのエルグランドに、e-POWER(※ハイパワーなセレナe-POWER用EM57モーター)を搭載しても、エルグランドに求められる動力性能を得ることができないのだ。
参考に、現行エルグランドと、仮想としてハイブリッドを積んだエルグランドのパワーウェイトレシオを、定量的に比較したので参照してほしい。
ご覧のとおり、現行エルグランド並の動力性能を満たすためには、e-POWERでは力不足であることが明白である。3.5L並の動力性能を維持するには、スカイラインやフーガに積んでいるHM34モーター並が必要であり、また2.5L並の動力性能を得るには、少なくとも、エクストレイルに積んでいるRM31モーター並が必要だ。
エルグランドに限らず、大人気のe-POWERを最大限活用するために、こうした検討は、もちろん日産社内でも行われていると思われる。そのうえで「エルグランドには搭載しない」と判断しているのであろう。
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