2019年8月8日、ダイハツが新型タントの発売後1か月間の受注台数を発表。なんと月販目標の約3倍になる3万7000台を、発売後1か月で受注したという。
このように近年、「発売後1か月の受注台数」を発表する新型車が、特に直近10年ほどで大幅に増えている。
自動車評論家の渡辺陽一郎氏は、そこにはさまざまな「カラクリ」が絡んでいると指摘する。新車受注台数の裏にある事情とは? 華々しい受注台数が発表されるようになったきっかけは、“ある大ヒット車”だった!
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
「発売後1ヵ月の受注」は1ヵ月間の台数にあらず!?
まず、注意したいのが受注の開始時期だ。表向きは「発売日」だが実際は違う。販売店では、もっと早い時点で実質的な受注を取り始めることが多い。
短い車種でも発売日から1か月前、長い車種になると3か月以上も前に価格を明らかにして受注を開始する。
【画像ギャラリー】受注台数3万7000台!? 新型タントの詳細をチェック!
タントは受注前倒しの期間が短かったが、それでも発表/発売日の2019年7月9日の時点で、すでに1万6000台を受注していた。
発表資料の詳細には「発売後1か月で、月販目標台数(1万2500台)の約3倍に相当する3万7000台を受注」とされるが、このうち1万6000台は、発売日に達成されていたことになる。そうなると発売後1か月の正味の受注は2万1000台だ。
きっかけはプリウス!? 受注開始が「前倒し」される訳
このように受注開始を前倒しする背景には、複数の理由がある。
筆頭は、受注を早々に開始すれば、生産開始前から販売規模を予想できて売れ筋のグレードやオプションパーツもわかるという理由だ。
そうすれば間違いのない生産計画を立てられる。この後に生産を開始すれば、すでに大量の受注を募ってあるから納車も迅速に行える。
また、先に示したタントのように、膨大な受注を募ることで、その車種の人気が高いこともアピールできる。
このような受注前倒しによる人気ぶりを最初に誇ったのは、2009年に発売された3代目プリウス(先代プリウス)であった。2009年6月19日に「5月18日の発売から約1か月で18万台を受注」と発表した。
3代目プリウスは、エンジン排気量を従来の1.5Lから1.8Lに拡大して、動力性能と燃費の両方を向上させた。なおかつ価格は、同じ2009年の2月に低価格で発売された2代目インサイトに対抗して、割安に抑えている。
販売店は、2代目プリウスがトヨタ店とトヨペット店だったのに対して、3代目はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店も加えて全店で扱うようになった。2代目に比べると、販売網は2.5倍の4900店舗だ。
しかも発売は2009年5月18日なのに、受注は4月初旬から取り始めたため、表向きには約1か月後の受注台数が18万台に達した。
この時には、納期が最長で約10か月まで伸びている。受注の前倒しを含めて複数の条件が重なり、18万台を受注した代わりに、顧客を延々と待たせることになってしまった。
ユーザーに迷惑を掛けたが、3代目プリウスが華々しく1か月後の受注台数を発表したことで、ほかのメーカーも同じように受注開始の前倒しをするようになった。
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