■コスト競争力が低いフルハイブリッド
フルハイブリッドの価格は、マイルドハイブリッドに比べて割高だ。ソリオの場合、消費税が8%で22万4640円、10%では22万8800円高い。JC08モード燃費は、マイルドハイブリッドが27.8km/L、フルハイブリッドは32km/Lになる。
実用燃費がJC08モード燃費の85%、レギュラーガソリン価格が1L当たり145円で計算すると、1kmを走るのに要するガソリン価格はマイルドハイブリッドが6.1円、フルハイブリッドは5.3円だ。フルハイブリッドを選ぶと、1km当たり0.8円を節約できる。
この節約によって22万円を超える価格差を取り戻すには、27万kmを走らねばならない。現実的には、フルハイブリッドの価格上昇分を燃料代の節約で取り戻すのは困難だ。
フルハイブリッドの損得勘定を成立させるには、マイルドハイブリッドとの価格差を半額以下に抑えねばならない(フルハイブリッドの燃費を大幅に高めるのは無理だ)。
仮に価格差が10万円であれば、12~13万kmで取り戻せるから、1年間に1.5万km以上を走るユーザーにとっては現実的な選択になり得る。
それができない理由はふたつある。まずはISGを使ったマイルドハイブリッドが軽自動車にも普及して大量に売られ、低価格を実現できたことだ。
量産効果に基づくコスト低減により、マイルドハイブリッドと非装着車の価格差が実質約10万円に縮まった。マイルドハイブリッドは、燃費性能を割安に向上させている。
ふたつ目の理由はフルハイブリッドが高コストなことだ。
開発者によると「フルハイブリッドが装着している5速AGSは、スズキの内製だから、燃費だけでなくコストを低減させる効果も大きい」というが、それでもなお、フルハイブリッドはマイルドハイブリッドに比べて22万円以上高い。生産台数が少ないこともあり、価格を下げられない。
このほか5速AGSの変速フィーリングも売れ行きに影響を与えた。前述のようにフルハイブリッドの5速AGSは、変速タイミングを見計らってエンジン出力を高める制御を行い、シングルクラッチの欠点を抑えている。それでもCVTに比べれば違和感が生じるから、販売店の説明を聞いてCVTのマイルドハイブリッドを選ぶユーザーもいる。
バリエーションも異なる。マイルドハイブリッドでは、前輪駆動の2WDと4WDを選べるが、フルハイブリッドは2WDだけだ。駆動方式の選びやすさでもフルハイブリッドは不利になり、量産効果の向上を妨げる。
以上のような事情に基づいて、スズキのフルハイブリッドは高価格だが、トヨタとの資本提携によって安くなる可能性はないのか。
■トヨタと組むことでハイブリッド戦略に変化はあるか?
トヨタのTHSIIは低コストのシステムとはいえず、排気量が最も小さなタイプでも1.5Lだ。全長が3.7~3.9mに収まる1.2Lエンジンを主力としたスズキのコンパクトカーに、そのまま搭載するのは難しいだろう。
しかし、将来的にモーターや駆動用リチウムイオン電池をトヨタ車と共通化できれば、量産効果によるコスト低減が可能になる。現状で22万円に達するマイルドハイブリッドとの価格差を、10万円に近づけることも可能になるかも知れない。
それでも主力はマイルドハイブリッドであり続ける。コンパクトカーはボディが軽く、ノーマルエンジンの段階から低燃費を開発の柱に据えている。そうなるとマイルドハイブリッドでも優れた燃費性能が達成され、フルハイブリッドを用意しても大幅に向上させるのは難しい。
トヨタを含めた他メーカーのように、ノーマルエンジンとフルハイブリッドの2種類だけを用意するなら成立するが、スズキのようにノーマルエンジン/マイルドハイブリッド/フルハイブリッドの3種類では、フルハイブリッドに割高感が生じてしまう。
またコンパクトカーは、営業車などを除くと、1年間の走行距離が伸びにくい。買い物などの日常的な移動に使われ、1年間に走る距離が5000km以下の車両も多い。これではフルハイブリッドのメリットを得にくい。
以上の点を踏まえると、トヨタとの提携も、マイルドハイブリッドの燃費向上やさらなるコスト低減に生かすのが得策だろう。
ユーザーにとっても、トヨタ車とスズキ車が同じハイブリッドを搭載したところで、大きなメリットは生じない。
トヨタのTHSIIを搭載したアクセラハイブリッドも販売面で失敗した。スズキの独自性と、トヨタとの提携効果を両立させてほしい。
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