日産 ゴーン氏 CEO退任の裏に三菱とトランプ大統領

日産 ゴーン氏 CEO退任の裏に三菱とトランプ大統領

日産自動車が17年ぶりに社長交代人事を発表したのは今年2月のこと。そのあまりに突然だった退任劇の裏にはどんな背景があったのか。 そして、この退任が日産にもたらす影響とは。

文:福田俊之/写真:編集部、NISSAN



サプライズ人事を連発したゴーン氏ながら後任選定は“順当”に


カルロス・ゴーン氏といえば1999年、日産の仏ルノー傘下入りに伴い再建請負人として派遣され、無理難題に近い「コミットメント(必達目標)」を掲げ、大胆なリストラを断行して業績を「V字回復」させた功績は大きい。

また、「ゴーン流経営」の手法の一つでもある「ダイバシティ(多様性)」に取り組み、年功序列を重んじる日本的経営を打ち破り、いち早く女性の管理職や役員を誕生させたほか、有能な若手社員を大抜擢するなど、時代を先取りするサプライズ人事を連発してきたことでも知られるカリスマ経営者だ。

そのゴーン氏が2017年4月1日付で日産の経営のかじ取りを任せる後継社長兼CEOに指名した人物は、「全幅の信頼」を寄せるナンバー2の西川廣人(さいかわひろと)副会長。


ゴーン氏の後任として日産の新CEOに就任した西川氏(スカイライン200GT-tの発表会にて)

西川氏は東大経済学部を卒業後、1977年日産に入社した生え抜きのエリート。バブル崩壊後の経営難の最中、座間工場(神奈川)などの閉鎖を決断した当時の辻義文社長時代には役員秘書を務めたこともあった。

ゴーン政権下では米州、欧州地域のマネジメントコミッティの議長や部品調達などの購買部門を統括する副社長などを歴任し、持ち前の緻密な仕事ぶりと粘り強い交渉力で実績を積み頭角を現わした。

特に日産・ルノーのアライアンスでは、想定以上のシナジー効果をあげた評価は高く、三菱自動車との資本提携でも“黒子役”に徹して素早く交渉をまとめた。


2016年10月に三菱株を34%取得し、日産は三菱の筆頭株主となったが、その際に交渉の取りまとめを行ったのがゴーン氏の右腕であり、現CEOの西川氏だった

2016年5月からは自動車メーカー団体の日本自動車工業会の会長職を務めるなど、多忙極まるゴーン社長の右腕として社内外の重責を背負うようになった。

しかも、11月から共同CEOに昇格し、“仮免許”での見習い運転もそつなくこなす。西川氏の才能やキャリアから判断しても“ポスト・ゴーン”の最有力候補だったことは言うまでもない。

その意味では順当過ぎるほどの“交代劇”であり、サプライズを期待していた社内外で“シラケ鳥”が飛んだのもよくわかる。

ゴーン氏も日産の社長とCEOのポストを譲るが、会長を兼務するルノーと三菱自動車の経営改革に軸足を移しながら、日産でも代表権のある会長にとどまって引き続き実権を維持する。

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今後も日産はゴーン体制の踏襲が基本


10億円を超えた巨額の役員報酬は、株主からの批判を避けるためにも多少減額されるとみられるが、日産にかぎらず日本では外国人役員を厚遇する傾向があり、西川氏を下回ることはないだろう。さらに、新たに三菱からの報酬も加われば減額分の補てんにもなる。

見方を変えると、今後、トランプ米大統領によるNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しや日本車批判などで影響を受けるリスクに対して西川氏の身に経営責任がより重く降りかかる以外は、この先も日産セレナに搭載された自動運転技術「プロパイロット」のように従来どおりの路線を“追随走行”することになるだろう。


日産はセレナに搭載される「プロパイロット」や「e-POWER」を推し進めているが、ゴーン氏のCEO退任で何かが劇的に変わることはなさそう?

しかも、西川氏は1953年11月生まれの63歳。1954年3月生まれのゴーン氏よりも5カ月ほど年上であり、“賞味期限切れ”寸前と揶揄されたゴーン政権を若返らせる組織改革とは逆行する。

「ゴーン社長退任」発表後、日産の株価が反落してさえなかったのも投資家の間では失望感のほうが先行したからだろう。

ゴーン氏にとって三菱復活は“覇権への野望”を果たすラストチャンス



日産のCEOは退任したゴーン氏だが、引き続き会長を務め、ルノー、日産、三菱を全体に深く携わる

では、ゴーン氏はなぜ、このタイミングで日産の社長兼CEOを退くことを決断したのか。

まさかのトランプ米大統領の就任でこの先風当たりが強まるとの見方も考えられる。

日産はメキシコで年80万台以上生産し、米国にも輸出しており、トランプ政権の通商政策の見直し次第では大きな痛手となる。

ゴーン氏自身は「引き続き日産の会長として、またルノー・日産・三菱自のアライアンスの枠組みのなかで監督・指導する」とコメントした。

だが、直接リスクを問われる社長兼CEOにしがみつくよりも、影響力を保持しつつ大所高所からグループを統括するトップリーダーとして、将来の合併・統合を視野に入れながら3社の連携をより強化する道を選んだ。晩節を汚さないためにも賢い選択をしたとも受け止められる。

その背景には、傘下に収めた三菱自の存在が大きい。

燃費不正で経営不振に陥ったとはいえ、三菱自を支える三菱グループ首脳の「金曜会」には日本経済を動かす有力企業29社が加盟している。

その圧倒的な「財閥パワー」を目の当たりにして、三菱自の再建に並々ならぬ意欲を示すのは、執念を燃やし続ける「覇権への野望」を成し遂げる最後のチャンスとみて大勝負に出たからだ。

この先、日産の販売台数や利益率などの「現状維持」とともに三菱自の「完全復活」こそが、世界制覇のカギを握ることになるだろう。

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