それから、いまグローバルの新車販売台数って、だいたい年間1億台くらいありまして、それを全部いきなりBEVにするとなると、そのぶんのバッテリー原材料を調達することは、即時には不可能だ……ってこともはっきりしていたわけですよ。4年くらい前だと、全世界でのバッテリーの調達能力は、だいたい10分の1以下、1000万台分ぐらいしか原材料がなかった。
司会(角田): 10分の1。
池田: だからこれ、「長篠の合戦」に例えると、武田の騎馬隊が来るのを織田の軍隊が火縄銃で撃ちますと。で、敵は10万人いるのに、弾が1万発しかないんですよ。で、火縄銃は素晴らしいけど、1万発しかなかったら刀と槍を持って戦うしかないじゃないですか。
司会(角田): 分かりやすいですね。それは無理だわ。
池田: 無理でしょ。だからこれはバッテリーの増産、原材料の増産をやらなきゃならないんだけど、レアアースは相場物だし、そもそも鉱山の開発って10年単位でかかるので、簡単じゃないんですよ。
ところがそういう問題をすべて置き去りにしたまま「オールEV化だ」って言ったって、ちょっときみたち、待て待てと。補給線もないのに戦争するなと。合戦始めても弾がないでしょと。それは無理だよねっていう話が二つ目。
それからもう一つ、これも結構致命的なんですけど、いわゆる「急速充電器ビジネス」。この充電ビジネスって、採算を合わせる方法ができてないんですよ。世界中のどこの国でも成立していません。
司会(角田): ほう。
池田: 例えばテスラはクルマの販売利益の中から(充電ビジネスの予算を)出している。つまり、充電事業だけでは採算が合わない。日本でも、自治体だとか国が予算を出している。そういう状況なので、最初の設置費用だけ(自治体や国の予算から)出しても、壊れた時に修理ができない。だからいったん壊れたらそのまま放置されたり撤退したり、ということが日本中で起きています。本来は充電ビジネス自体で利益が出なきゃいけないんですが、ではいくらかかるのか。「e-Mobility Power」っていう日本の充電インフラをまとめてる会社の前社長に伺った時、「例えばEVオーナーに1人あたり月額2万円ぐらいもらったら全国に充電器を整備できる」と仰っていた。なるほど。月2万円。でもそれってガソリン代より高いじゃないですか。
司会(角田): そうですね。月に2万円のガソリン代を使ってる人って、そういないですよね。
池田: 今の燃料供給体制、安くて便利な環境を、そのままEV化できると考えるのは極めて難しくて、そこには多大な維持管理コストがかかる。それをいろんな補助金で橋渡ししている、過渡的な状態が今だよ、ということですね。
司会(角田): そういう状況でありながら、EU(欧州)は無茶な政策判断をしたわけですね。
池田: まあだから、「理念」が先行していたわけです。基本的に(走行時のCO2削減は)いいことなんだけど、「いいことだからみんなやろう」っていう話をしているんですよね。でも、いいことであっても、みんなそれぞれ生活があって現実があって、その中でいいことだからってできることばっかりじゃないわけです。そこが全部見落とされてた。なので、最終的には、時間をかけて現実路線に戻らざるを得ない。理想的な目標はわかったけれど「それはできないよね」っていう話ですね。
EV急進派の現状と日本・欧州の視点
池田: 今までのところで質問があれば。
司会(角田): 「BEV急進派は負けたのか」っていう今回のタイトルだったんですけども、「負けた」とかそういうことではないんですね。いまは勝った負けたを論じるってことではない、と。
池田: そうですね。これはBEV急進派の「勝ち」がどこに想定されてたかっていう話で、もし彼らの「勝ち」が、あの時の大騒動みたいに「そのうち全部がEVになって内燃機関がなくなる」ってことを「勝ち」だとするならば、それは負けたんです。
けれども、現実的な、要するにマルチパスウェイ派が言っていたのは、「いやEVはEVでやるべきことがありますよ」と。「受け持つべきジャンルがありますよ」と。そのほかにハイブリッドなりPHEVなり、それぞれがみんないろんな受け持つべきジャンルがあるということで考えれば、むしろ、BEVも、いま世界的に見れば20%ぐらいまで増えてきた国も多いですし、順当に進んでいるよね、と。別に負けたわけじゃないけど、最初に威勢のいいことを言いすぎた、なのでその通りになっていない。そういう意味で言うと、わかっている人からすると「予想通りの結論になってるよね」という話だと思います。
司会(角田): なるほど。僕は日本生まれの日本人ですけど、欧州の人たちの肌感、特に、温暖化に対する温度感っていうのが、なんか違うような気もしているんですけど、そのあたりはどうですか?
池田: そこは「断絶がある」としか言いようがないんですよね。自動車メーカーの人たちに聞くと、欧州のそういう、まあ環境団体の人たちと話し合っているらしいんですけども、そこで出てくるのは、その「現実にできない」という話をいくら論理的にしても、「論理の話はそうかもしれないけれども、それとこれとは話が別だ」と言われてしまうと。だから噛み合う気配がないんですよね。
司会(角田):噛み合う気配がない。
池田:だからこのあたりは、我々がどう読み解くかの話なんだろうなと思います。一方で、内燃機関の競争では、もう日本のクルマに欧州のクルマは勝てない。なので、違うジャンルに土俵を移して、勝負のルールを変えましょうっていうのがひとつの見方だって言う、まあ現実派からの見方もあります。
司会(角田):それはわかりやすいですね。
池田:それともう一方で、「いやもう地球環境を守っていくためには、待ったなしなんだ」、「これから先は環境をよくしなきゃいけないんだから、無理だとか何だとか言ってる場合じゃない」という話もあるんです。例えば……えー、「お酒をやめないとあなた肝硬変で死んじゃいますよ」という話があったとします。肝臓がおかしくなってるのにお酒をやめないのはどういうことだって、その人たちからは見えるわけですよ。
司会(角田):それもまたわかりやすいです。
池田:ただ、お酒とかタバコの話って、すごくわかりやすいんだけど、わかりやすすぎるんですよね。そんな簡単な話じゃないと。「みんなの生活の話」でもあるので。じゃあBEVに変えたら皆さんの生活はどうなるんですか。例えば、いま日本国内の新車販売が、年間500万台弱、450万台ぐらいありますけども、これに対してBEVの販売って6万台くらいじゃないですか(編集部注/2025年の乗用車だとBEV販売台数は3万9885台で全体の1.57%)。
司会(角田):そうですね。
池田: その状況で「BEV以外は売ってはいけません」となると、440万台くらい販売台数が減っちゃうわけです。そうするとエッセンシャルワーカーもクルマで移動できなくなる。例えば救急病院のお医者さんが深夜に当直へ行くための足はどうなるんですか。BEVじゃなきゃダメなんですか。介護の人が乗るクルマはどうするか。予算が厳しいからEVは買えないですよね。
予算と販売価格の話は深刻です。BEVが、例えばヤリスの一番安いモデルと同じくらいになるまで、まあ200万をきる、できれば150万円以下で買えるくらいまで下がってくれば話は変わってくるけれど、今のままではどうやったって(社会的にどうしても必要なのに)買えない人が出てきます。
それと、先ほど言った三つのポイントの最後の一つ、充電のインフラがきちんと維持できるような、採算バランスの取り方ができるようになれば、まあ話は変わるかもしれないけど、今の段階でそういうものが揃わない。
そういう時に、いくら「環境が大事」と言っても、現実的に、もう非常に大きな欠損が社会全体から出てきてしまう。それはやっぱり社会が回らなくなりますよねっていうのが、重大なポイントだと思うんですよね。
司会(角田): なるほど。さきほど、欧州から内燃機関の主導権が奪われつつある、という話がありましたけど、そのあたりの欧州なりのこだわり、「いや俺たちは内燃機関を産んだ国、地域なんだから、モビリティの未来は俺たちが決める」というような思い入れがあるんですかね?
池田: まあ、そこは政治的なやり取りっていうか……、これを言うとちょっと厳しすぎるかもしれないんですけど、例えば欧州のメーカーは、自国内では(政府に働きかけて)「EVじゃなきゃダメ」みたいな規制を敷きながら、途上国にはガソリンエンジンとかディーゼルエンジンのクルマをバンバン売ってるわけですよ。「それはいいのか」って話ですよね。
司会(角田):たしかに。
池田: あともう一つ言うと、例えば……有名なノルウェーがね、EV普及率がもう90数パーセントですと。で、充電設備も再生可能エネルギーで全部できました。だけど、その再生可能エネルギーは、まあメインは水力発電なんですけども、その仕組みが成り立つ最大の理由は、あの国ってエネルギー自給率が600%なんですよね。自国分は水力で100%使いきっちゃうんですけど、あとの500%ぶんは北海油田の石油を海外に輸出してるわけです。その石油輸出の利益で、自国内のEVにいっぱいメリットをつけている。
司会(角田):ははぁ……。
池田:そうすると、見えてくる絵柄がちょっと変わってきませんか。隣の家にゴミを全部放り込んで「うちは綺麗ですよ」っていう話じゃないですか。そんなことを言うならまず油田の開発やめなさいっていう話になるわけですよ。石油を海外に売るのをやめなさいって。そういう問題を孕みながらやってるので、やっぱりどこかこう、不自然さを感じる。逆に言えば、彼らも理想主義を言いつつ、片側ではそういうことしないと辻褄が合わないことを知っているってことだと思うんですけど。
司会(角田): なるほど。うーん。今回タイトル、BEVが負けたってことではなく、池田さんに言わせれば、終わったわけでもではないんだけども、まあ、速度感とか、意思決定が頭脳寄り、脳みそ寄りというか、そんな感じだったっていうことですかね。
池田: はい、まあ気が早すぎた。ということなんですかね。我々が挑んでるのは「化石燃料」っていう、非常に優秀な、人類の進歩に大きく貢献し、役立ったものの代替物を探す、というプロジェクトなわけです。産業革命以来の我々の文明は、ほとんどが石油とか石炭に由来してるわけで、そういうものと戦うに対しては、1年や2年でできると思ったのが大きな間違いでしょう。そりゃ長い戦いになるわけで、その代替物は、5種類になるのか10種類になるのか20種類になるのかわかりませんけど、たくさんの手段でいろんなジャンルごとに支えて、化石燃料と戦える形にしていくしかないんだろうなあという話でございます。
司会(角田):ありがとうございます。それでは「第2部」は、「ではどんな代替物がいい具合なのか」という話をできればと思います。引き続き、よろしくお願いします。

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