技術の責任者がマーケティングも担当する
本郷 市場として重視しているのはどの地域ですか?
吉永 市場として伸ばしたいのは中国とロシアです。ただし、中国は販売供給過多で、値引き合戦になっています。そこに現地生産工場もないスバルが販売に力を入れるわけにはいきません。
ロシアもAWDのスバルと合いそうで、やりたいんですが、こちらもいろいろな意味で落ち着くのを待ってからだと思います。むしろ、伸びる可能性があるのが、アメリカのサンベルト地域です。
本郷 サンベルトというと暖かい南の地域ですね。
吉永 そうです。アメリカ全体のスバルのシェアは3.5%ですが、サンベルトは1.8%と半分ですからまだまだ伸びます。昔は雪の降る北で4WDが理由で売れていましたが、現在はアイサイトを中心とした安全性で売れているので雪が降る、降らないは関係ないんです。
本郷 そうなんですね。これから生まれてくる商品にも注目です。専務で技術系トップの日月丈志(たちもりたけし)さんをCTOマーケティング担当とした狙いを教えてください。というのも、CTOというと最高技術責任者ですよね。それがマーケティングも担当するのは少し違和感があります。
吉永 むしろそこが狙いです。普通ありえませんよね。ご存じのようにSTIの社長もやったし、アメリカの現地法人の社長もやりました。
技術も市場もわかっているんです。お客さんのニーズを受けた技術開発と商品企画をするために、あえてそういう役職になってもらったんです。そういった意味で彼はスバルのキーマンです。
本郷 まさに英断ですね。これから生まれてくる商品が楽しみになってきました。本日はお忙しいところありがとうございました。
「気合いや根性も大事ですが、それだけで開発力が高まることはありません」
続いては現在の絶好調スバルの牽引役、吉永泰之社長の名言集からいってみよう。この名言集から、絶好調の秘密が見つかるかもしれない。
■売り出すクルマがみな売れているが、こうした状況が実は恐ろしい。売れてしまうと次も同じコンセプトになりがちだから。
■自動車産業もファッション産業と一緒で、飽きられたら終わり。社員には「守りに入るな、感度を高めよ、安心するな」と訴えています。
■物事がうまく回っているときほど、本当の危機は訪れるもの。突然、怒ってみせて組織に緊張感を与えたりしています。
■経営は科学です。気合や根性も大事ですが、それだけで開発力が高まることはありません。
■私はよく、「百花繚乱」という言葉を使います。1本1本の花は形も色も違います。ただそれが集まるとひとつの色になり、同じ花が集まったのとは違う独特の美しさが生まれます。そのような会社にしたいのです。
■歴史に根ざしていない「強さ」は長続きしません。それがどんなに立派なものであっても、いずれ他社に真似されてしまうからです。
■米国向けと日本向けを足して2で割ったような中途半端な商品はやめよう。
■我々の世界シェアは1%ですから、100人のうち1人のお客さまがそちらを選んでいただければ、そこで頑張ればいい。
■大手メーカーさんのような戦略を当社が選択することはできない。大手さんと違うことをやるのは怖い。それでも突っ込んでいくしかない。
■一般的には、商品数の少なさは弱点です。ただ、少ないからこそひとつひとつをどこにも負けないほど作り込んでいけば、それは長所に変わります。
■強制されなくても、ついていきたくなる。一緒に仕事がしたくなる。それこそ、本物のリーダーだと思います。
■何を言われても、どんなしがらみがあっても、トップが素直に課題を直視できるかどうかが重要。「勝てるかどうか」という軸をブラさず、正しいと思ったら本音で話し、実行する。
■技術陣にはすべてを私に報告しなくてもいい、ある程度のブラックボックスをつくっていい、と言っています。何から何までチェックしようとしても、技術陣の見識のほうがはるかに優れていますし。
■現代人には、私も含めて厚みのある人間が少ないですよね。明治時代には、もっと気骨のある人間が多かったように思います。だから、いまはもっぱら昔の経営者が書いた本や歴史の本を読んでいます。読書を通して桁違いにすごい人に出会いたいのです。桁違いにすごい人に会うと、刺激を受けますからね。
■ウチには個性的というよりもとにかく真面目な社員が多いですね。生真面目というか真面目すぎるというか……。もちろん、真面目であることは悪いことではありません。しかし私は、もう少し伸び伸びと仕事をしてほしいと思っているのです。もっとハチャメチャでいいんだよと、いつも言っています。
いかがでしたか、今のスバルが見えてきたような気がしませんか?
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