「ブレーキは速く走るためにある」史上初の売上高50兆円越えとそれでも減収…トヨタ衝撃決算会見と近社長の「やりきる」覚悟

「ブレーキは速く走るためにある」史上初の売上高50兆円越えとそれでも減収…トヨタ衝撃決算会見と近社長の「やりきる」覚悟

 2026年5月8日、トヨタ自動車は2026年3月期の通期決算を発表した。今期の売上収益は50兆6,849億円と日本企業初の50兆円超えを達成。しかし営業利益は米国関税だけで1兆3,800億円マイナスの打撃を受けたかたちで、前年比約21%減の3兆7,662億円だった(それでもすごい額だが)。来期見通しはさらに厳しく、営業利益3兆円を見込む。一方でBEVは前年比168%増に達し、来期計画では246%増の約60万台と電動化の加速も鮮明だ。社長就任後、初となる決算会見に臨んだトヨタ近健太社長に、「現場を回って予想と違ったこと、驚いたこと」も聞きました。

文:ベストカーWeb編集局長T、画像:トヨタ自動車

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日本企業初・50兆円超えの重さと1兆円減益の正体

 本日、いまや日本経済の牽引役となっているトヨタ自動車の2026年3月期決算発表と記者会見が実施された。今年2月に電撃的な社長交代劇(佐藤恒治社長→近健太社長)が発表され、近健太社長にとっては就任後初めての決算となる。そのうえで、2025年4月から2026年3月のトヨタ連結決算は前期比「増収減益」となった。

トヨタ自動車の2026年3月期決算。国内市場初の売上高50兆円越えを達成するも、約1兆円の減益となった
トヨタ自動車の2026年3月期決算。国内市場初の売上高50兆円越えを達成するも、約1兆円の減益となった

 売上収益は50兆6,849億円。日本企業として史上初めて50兆円の壁を破った。日本のGDPの約9%に相当する規模と考えると、その異次元ぶりが伝わるだろう。一方で、営業利益は3兆7,662億円と、前年の4兆7,955億円から1兆293億円のマイナス。営業利益率は10.0%から7.4%へ落ちた。「増収減益」というギャップを生んだ最大の要因は、言うまでもなく米国関税だ。影響額は1兆3,800億円。仕入先の基盤強化・資材価格高騰を合わせた諸経費の増加は全体で2兆300億円に達した。

 これに対しトヨタは、販売台数の増加・価格改定・バリューチェーン収益拡大などの「稼ぐ努力」で7,100億円を積み上げ、原価改善でも2,750億円を積み上げて対抗。しかしそれでも埋めきれなかった。それほど関税の壁は分厚い。

 来期(2027年3月期)の見通しはさらに厳しい。「営業利益3兆円」と、今期比さらに7,662億円の減少を見込む。関税影響が継続するうえ、中東情勢という新たなリスクが加わり、資材コストへの中東影響だけで4,000億円が追加でのしかかる。この2年間で、トヨタの営業利益はピーク時(2024年3月期の5兆3,529億円)の半分以下になる計算だ。

北米が赤字転落——「ジタバタしない」を支える財務の体力

 所在地別の営業利益では、北米の急落が際立つ。前期は+1,043億円(営業利益率0.5%)だった北米が今期は△2,986億円(同△1.4%)と赤字に転落。前年比で4,030億円の悪化。カムリ、RAV4、カローラといった看板車種を擁する主戦場が、関税一発でこれほど崩れる現実は衝撃的だ。

 宮崎洋一副社長は会見で「関税の影響で1.4兆円のマイナスだが、ジタバタしなきゃいけない状況にはない」と語る。つ…強い。この言葉を支えるのが財務基盤の厚みだ。金融事業を除いた総資金量は17兆4,180億円。来期の研究開発費は1兆6,000億円、設備投資は2兆3,000億円を維持する計画で、嵐の中でも手を緩めるつもりがないことを数字で示している。

2026年3月期の関税影響は1兆3800億円。言っても詮無いことだが、トランプ大統領が就任しなければこの金額が利益に乗っていたのか……
2026年3月期の関税影響は1兆3800億円。言っても詮無いことだが、トランプ大統領が就任しなければこの金額が利益に乗っていたのか……

 近健太社長は会見中、豊田章男会長からのコメントとして「ブレーキは速く走るためにある。いいブレーキがないとアクセルは踏めない。」というアドバイスを紹介。この場合の「アクセル」とは投資のことであり、「成長のための投資は止めず、やりきることが大事」と断言。

 日本経済の大黒柱を背負った発言として、心強いかぎりだ。

BEV168%増でも主役はHEV——マルチパスウェイの現在地

 グローバル販売でも注目すべき変化がある。電動車全体の販売比率は48.1%(前年46.1%)に拡大した、なかでもBEVの伸びが際立つ。前期の14万5,000台から今期は24万3,000台へ、前年比168.4%増。来期計画は59万8,000台、前年比246.1%と、トヨタにしてはまだまだ…という台数だが、徐々に力を入れてゆく目標が垣間見えた(後述)。

 またHEVが462万台(前年比104.4%増)と着実に伸び続けているという事実も見逃せない。電動車販売全体の92%超をいまだHEVが占めており、「ハイブリッドのトヨタ」は現役どころか全盛期と言っていい。北米ではカムリをHEVのみで販売する戦略が奏功しており、中国でもカムリ・アバロンのHEV/ガソリン併売が続く。BEV一辺倒でも、エンジン車だけでもない。トヨタの「マルチパスウェイ戦略」は数字として機能している。

【ベストカー直撃】「悔しくて涙が出る現場」という社員と近社長の驚き

 今回の決算会見、質疑応答のセッションでベストカー編集部からの質問は2点。

 1点目は近社長個人への問いだ。「電撃的にも見えた社長交代発表会見から約4カ月、現場を回られて『見方が変わった』とお話しされましたが、社長になって予想と違ったこと、見え方が変わったことを詳しく伺いたい」。

 近社長は少し間を置いてから、こう答えた。

「正直な感想を言いますと、『皆さん、本当にいろんなことを言ってくれるんだな』というのが、まず驚きでした」

 現場を回ると、トヨタ社員は社長へ率直に声をぶつけてきたそう。なかには「悔しくて涙が出ます」という言葉もあったという。おそらく現在トヨタが国内市場で抱える最大の問題点、クルマが売れすぎて納車待ちが続き、売れているのにユーザーへ届けられない車種が増えていることを指していると思われる。

 近社長はこうした社員の声を拾い、「もっといいクルマを作りたい、お客様に早く届けたい」という純粋な熱量を、どう「活きる仕事、稼げる体制」に繋げられるか、という点に注力している、と読んだ。

「私の役割は、現場のエネルギーを削いでいる無駄な仕事をトップとして止めること」と近社長は続ける。「予想を超えて強く感じたのは、現場の声の重さと、そこに応える責任の大きさです」。正式就任から1カ月、まだまだこれからやるべきことは山ほどある新体制に期待したい。

BEV60万台計画の根拠——中国・欧州・北米で全部やる

 ベストカーからの2点目の質問は、商品・数字に関するもの。

「来期(2027年3月期)の見通しで、BEVが今期比246%、約60万台という数字が出てきました。世界的に踊り場と言われる中、この数字の根拠、どこでどれくらい売るのか、伺える範囲でお願いします」

2027年3月期の販売台数目標と、駆動力別の販売内訳。BEV(前期比)246.1%という衝撃の数字
2027年3月期の販売台数目標と、駆動力別の販売内訳。BEV(前期比)246.1%という衝撃の数字

 これには宮崎洋一副社長が答えた。

「トヨタはこれだけしか売らないのか……という声が多いなかで、こんなに売るのか、というご質問、ありがとうございます(苦笑)」

 というジャブから始まった回答。

「どこでBEVを売るのか、というご質問ですが、地域としては中国、欧州、北米の3つで大半をカバーする計画です」

 中国ではBEVが主流市場になっており、戦える商品の投入が始まり、手応えが出てきているという。欧州ではスズキとの共同開発車も投入の準備が進む。北米はフルラインナップ化を推進する。そして宮崎副社長はこう発言。

「この数字は決して控えめではなく、実需に基づきアジャストした、我々が全力で取り組むべきターゲットです」

「BEVは世界的に踊り場」という見方は確かに一部に存在する。中国勢の価格攻勢、充電インフラの整備遅れ、欧州での補助金縮小——逆風は列挙できる。だがトヨタの246%計画は、その逆風を込みで積み上げた数字だと宮崎副社長は強調した。

いつもクールな宮崎副社長、本誌の質問にはにこやかにお答えいただきました
いつもクールな宮崎副社長、本誌の質問にはにこやかにお答えいただきました

 日本市場では苦戦が続くBEVではあるが、世界情勢に乗り遅れることなく、あらゆる局面に手を打って開発を進めいくトヨタの「横綱相撲」具合が現れた回答だった。

嵐の中で現場が動く——トヨタはどこへ向かうか

 今回の取材を通じて感じたのは、「まったく緩まないトヨタの強さ」だった。

 現場社員が「悔しくて涙が出る」と社長に直言できる組織。その声を受け取った社長が「無駄な仕事は自分の責任でわたしが止める」と宣言する覚悟。章男会長から引き継いだ「ブレーキは速く走るためにある」という哲学。会見場で語られたこれらの言葉は、業績スライドには載らない。

 米国関税は重くのしかかり続け、中東情勢はますます不安定に。対中関係は悪化したままで、国際情勢は混迷を極めている。それでもトヨタは「ジタバタする状況にない」と断言。

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