■「運転支援技術」の先にあるもの
国土交通省による先進安全自動車(ASV)では、ASV4(2006~2010年度)の時代に策定された基本理念として「ASV技術の本格的普及促進」(原文まま)が掲げられていました。
運転支援技術のひとつである「衝突被害軽減ブレーキ」を普及させることで、1991年度からスタートしたASV構想を自律自動運転へとつなげていきたいという考え方がここで改めて示されたのです。
その衝突被害軽減ブレーキの普及で大きな役割を担ったのがご存じスバル「アイサイト」です。
“ぶつからないクルマ”という明確でシンプルなメッセージ性に加え、スバルの企業努力による20万円(2008年当時)という手が届く価格帯で世に送り出したことも普及を後推しし、今ではグローバル市場で100万台の装着車を数えるまでに成長しています。
2017年6月19日には「アイサイト」の進化版である「アイサイト・ツーリングアシスト」が発表され、ステアリング制御可能な速度域が~120km/hまで引き上げられました。
衝突被害軽減ブレーキ機能と並んでアイサイトの代表的な運転支援技術であるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)機能とステアリング制御機能によって、より高度な運転支援技術が実現したといえるでしょう。
ちなみに、2015年の日本におけるACC普及率は国産乗用車で約17.4%(767,688台/国土交通省調べ)にまで高まっています。
では、高度な運転支援技術の先にはなにがあるのでしょうか? ボタンをひとつ押せば目的地へと自動走行してくれる技術なのか、はたまたドライバーは運転する必要がなくなる世界観なのか……。
答えはいずれもNOです。各所のインフラが整備され自動運転を官制するセンターの存在が具現化すれば2050年頃にはボタンひとつで~、という世界が地域を限定した状態で提供される可能性はあります。
しかし、少なくとも2030年頃をターゲットにした自律自動運転の将来像は、たとえばACCがそうであるように、ドライバーの任意操作によって機能する領域に落ち着くはずです。
これをSAE(編集部註/SAE=自動車や航空機、宇宙事業などの製品についての標準規格を提案するアメリカの非営利団体)やSIP-adusでは「自動化レベル3=Conditional Automation条件付運転自動化」と呼び、ドライバーの介在が必要で、交通環境の変化により運転支援や自動走行状態が継続できない場合には、
ドライバーが運転操作を引き継ぎ手動で運転を行うことを、自動化レベル3を機能させる前提条件と定めています。
とはいえ、自動車メーカーが行っている開発の方向性は同じであってもアプローチは違います。
トヨタでは「Mobility Teammate Concept」という人とクルマが相互に助け合う世界を描き、日産は「インテリジェント モビリティ」として、Hondaでは「任せられる信頼感」と「心地よい乗車フィーリング」を目指しています。
またマツダではドライバーが1日でも長く運転するための運転支援技術として自動運転を捉えていると言います。
いずれの場合も共通項は「人と機械の協調運転」と呼ばれる世界です。人の些細なミスを運転支援技術でサポートしながらドライバーのクセを学習し、
人工知能によってそもそも危険な領域に近づかないように前もってドライバーにそれを知らせるといった内容です。
このように順風満帆に見える自動運転の開発現場ですが、ユーザー側からすると課題が見えてきました。
早急に解決すべきは、自動走行状態の精度を向上させる手段の開発で、これはHMI(ヒューマンマシンインタラクション/ヒューマンマシンインターフェース)と呼ばれています。
ここで期待されるのが、たとえば「オムロン」など人を化学するヒューマンヘルスケアの分野で優れた実績をもつ企業です。
どのような解決策があるのかについては、拙著である「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス刊)をお読みいただければ幸いです。
これまで自動車の歴史は技術昇華の歴史でした。しかし、自動運転を見据えたこの先は、人が機械の状態を知ると同時に、機械にも人の状態を知ることが求められているのです。
文:西村直人 写真:shtterstock.com
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