耐震基準は阪神大震災を機に見直されている
1995年に発生した阪神大震災で、阪神高速が倒壊したことで、高速道路の耐震基準は大幅に見直され、順次耐震補強工事が行われた。
最も老朽化が進んでいる首都高でも、全線でその工事が完了している。
もちろん、次の大地震に全線が耐えられる保証はないが、「ここが危ない」と指摘できる個所があったら大変で、そういう個所がないように、道路管理者は日々点検を続けているわけだ。
『盛土区間』には耐震基準がない
それでも、あえて危険度の高い個所を指摘すると、「盛土区間全般」だとは言える。
盛土とは、文字通り平野部に土を盛り、その上に道路を通している部分のことだ。首都高などの都市高速にはほとんどないが、東名などの都市間高速道路では一般的な構造だ。
首都高の高架などの「橋梁」には、明確な耐震基準があるが、盛土に関しては、材料や構造、突き固めの圧力など造り方の基準はあれど、いわゆる耐震基準はない。
なにせモノが土だから、材料の品質にどうしてもばらつきが出る。しかも地面の上に造っているから、元の地盤によっても強度は左右される。
元の地盤に関しても、さまざまな対策(サンドバイルによって地下水を抜く等)を取った後に土を盛るのだが、個所ごとの強度は、正直、大地震が来てみないとわからない。
よって、先般の東日本大震災や熊本地震でも、崩れたのは盛土区間だった。
耐震基準はコストとの兼ね合いによる『見切り』
「そんなの危ない! 崩れないようにできないの?」
そう思われるだろう。しかし世の中に絶対はなく、絶対に崩れない盛土は造れない。
では「現在の3倍の強度を持つ盛土はできないのか」と言うと、そうなると盛土という構造自体が不適で、連続高架構造にするしかないだろう。実際、軟弱地盤地帯では盛土ではなく高架構造が採用されている。
なぜ崩壊のリスクが高い盛土構造があるのかというと、コストが安いからである。
日本の高速道路の建設コストは猛烈に高い。主な理由は「地価の高さ」「地形の険しさ」「地震の多さ」「地盤の軟弱さ」「人口の多さ」などだ。
ただでさえ世界一コストがかかる上に、今の3倍地震に強い高速道路にしようと思ったら、建設コストはいったいどこまで上がるか見当もつかない。
建設コストが上がれば、それだけ料金も上げなくてはならない。「安全がなによりも優先だ! 税金でなんとかしろ!」となれば、税金を上げなくてはならない。
つまり現状、大地震が来た時は、高速道路のどこかが被害を受け、崩壊する可能性はある。それを完全に防ぐことはできない。
耐震基準とは、コストとの兼ね合いによる「見切り」なのである。耐震基準を今より低くしてコストを下げる、という選択肢もあるにはあるのだ。
民主党政権で国土交通大臣を務めた馬淵澄夫氏は、政権交代直前のインタビューで、
「日本の高速道路の建設費は高すぎる。耐震基準が厳しすぎるからだ。政権を取ったらそれを下げることを検討し、実行する」
と私に明言した。それはそれでひとつの考え方なのである。東日本大震災で、そんな提案は跡形もなく消えたが……。
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