■経済地域丸ごと全滅は想定外
低コストで高品質なクルマを作るということはこういう緻密なパズルで成り立っている。そういう精密な仕組みに新型コロナが襲いかかった。インドネシア、タイ、ベトナムなどのASEANの自動車部品生産国を中心に、ワクチン不足でパンデミックが発生し、ロックダウンや、移動の制限、極端なケースでは戒厳令に近い状態に陥ったのだ。
それらの国の中には「移動するからダメなのだ」と工場に従業員を寝泊まりさせてまで、蔓延防止措置を取ったところもあったのだが、それでも防ぎきれず、今やいつ終わるともわからない生産停止状態の最中にある。
先進各国は部品不足に慌てふためいて、ワクチンの援助などを開始してはいるのだが、それがどの程度の効果をあげるのかまだわからない。
では、ほかの地域で、と言っても、それぞれの部品を製造するのに適切な人件費と熟練度が適宜分散した域内経済エリアなどほかにそう簡単に見つからない。
個別の部品に関しては、インドネシアでダメな場合はタイで、とかタイでダメならベトナムで、というバックアップ体制は取られていたのだが、域内経済圏が丸ごと全滅となると想定外である。
識者と名乗る人たちは簡単に「ジャストインタイムを見直せ」と言うが、それをやったらコストが激増する。調達価格さえ考えなければ、上位互換的に技術的熟練度が高い国で作ればなんでも作れるが、それはコストを度外視した話にしかならないのである。
ということで、今自動車だけでなくあらゆる製品が品不足に襲われている。それこそサンダルや洗濯ばさみ、バッグや靴下のような、安い労働力がないと価格競争に勝ち残れない製品、生産難易度の低い製品がどんどん作れなくなっており、その結果先進国での物価高が進行中である。
一方で、自動車生産で部品が足りず最終製品が作れなければ、先進国で不景気が進行するのは当然で、そこにさらに日用品の不足に起因する物価高が加わると、それはスタグフレーションである。という意味では、今自動車のみならず世界経済にアラームが鳴り響いている最中とも言える。
■今後も起こるリスクと考えるかどうか
もうひとつ、現在の減産問題とは直接的因果関係は薄いのだが、半導体不足も構造は似ている。自動車に使う半導体は最先端部品ではない。どちらかと言えば安く枯れた製品で、調達的には価格が最も重視される商品だ。いわゆる汎用品で、だからこそコストが安く、それをわざわざ専用設計していたのでは価格的に太刀打ちできない。
半導体チップというのは、シリコンの周囲に無数の足型の端子が生えている形状なのだが、この足の太さ、間隔、数はそれぞれ多くの規格があり、どの足がどの役割を果たすかという極性もサプライヤーごとにそれぞれ異なっている。これまで作っていたサプライヤーの生産が止まったからといって他社製の同等性能のチップに変えようとしても、当然物理的に端子が合わない。
技術的には他社にも簡単に作れる難易度であっても、汎用品だから安く調達できていたところが大きなポイントだ。端子の取り回しを従来製品と互換できるようにわざわざ再設計してもらったら、それはもう専用品で、価格的にどうにもならない。
もちろん値段を度外視すればどうにでもなるのだが、それこそ3万点のクルマの部品単価をそうやっていちいち見直したら、トータルでいくらになるかわかったのものではない。結局元のサプライヤーの生産が回復するのを待つしかないのが実態なのだ。
つまり部品不足の話の根底にあるのは、そのほとんどがコストの話である。安く、かつ適正な性能、つまりコストパフォーマンスのいい製品を作れる理由は、生産地の適切な選択によって達成されており、その地域が丸ごとロックダウンにあうような事態が発生すれば、それを避けるためにはコストを見直し、製品価格が上がることを許容するしかなくなる。
問題は新型コロナのような、極めてレアで被害が大きい事態を、今後も起こり得るリスクとして考えるかどうかにある。起こり得るとするならば、コストが上がることを許容してもより贅沢な地域でもの作りの冗長化を図るしかないのだが、競合他社がリスクを無視して、安い地域だけでもの作りを続けたら、確実にコストパフォーマンスで負ける。自動車メーカーにとっては極めて悩ましい状態なのである。
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