もう「BEV開発が遅れている」とは言えなくなった… 決意と覚悟を全面に トヨタ先進技術説明会に見た恐るべき「チップ全置き」戦略

■「多様性」を守るところがトヨタ流

〇それぞれの電池を搭載したBEVのラインアップはどうなるのか?

 トヨタ社内に設立されたワンチームの独立組織「BEVファクトリー」が、2026年から新型車を順次発表し、4年後の2030年までに5車種、合計170万台のBEVを販売する…という計画を明らかにした。またトヨタ全体では2030年の時点で年間BEV販売台数350万台を計画しており、(BEVファクトリー製ではない)180万台のBEVは、既存のモデルをBEV化するなどしてラインアップを拡充してゆく予定。

トヨタとBEVファクトリーが、2023年から2030年までに発売するBEVの規模感とスケジュール。MPV(ミニバン)もラインアップされており、12万台を売る予定とのこと。ラージSUVは月販5万台ペースで売る予定。北米狙いでしょうが、すごい計画ですね…
トヨタとBEVファクトリーが、2023年から2030年までに発売するBEVの規模感とスケジュール。MPV(ミニバン)もラインアップされており、12万台を売る予定とのこと。ラージSUVは月販5万台ペースで売る予定。北米狙いでしょうが、すごい計画ですね…

 この多様で豊富なラインアップのなかで、それぞれのモデルの特性に合った電池を搭載してゆくことになる。なお、この「多様性を守ろうとする姿勢」こそが、スマホとクルマの違いであり、テスラやBYDとトヨタの「会社として目指すモビリティの違い」の最大のポイントだと見受けられる。だからこそトヨタは「チップ全置き戦略」(≒マルチパスウェイ)をとることになったわけだし、そもそもの話として、クルマは生活や地域や年代の違いに合わせてたくさん選べたほうがいいですよね。

(なお本企画担当編集者は「いきなりこんなにたくさん作れるんですか」とBEVファクトリーの加藤武郎代表に聞いたところ、「できる見通しは立てましたし、やらないと追いつけませんし、やるしかないです」と仰ってました。が…がんばってください!!)

〇いきなりBEVを大量に作れたとしても充電インフラが足りなくなる、または従来の急速充電器が性能的に追いつかなくなる可能性があるのではないか?

 この懸念についてはトヨタも認識しており、上述した開発中の次世代電池でいうと(1)次世代電池(パフォーマンス版)くらいまでは従来の350kW級急速充電器で対応できるものの、それ以降はなかなか難しくなっており、現在各充電器メーカーとともに500kW級、600kW級の急速充電器を開発中とのこと。これはもちろん性能面もさることながら、価格面でも(安価でないとどのみち普及しない)共同で検討を重ねているそう。

〇内燃機関車からBEVにシフトしていくと、たとえば工場ラインなどで人員が「あまる」のではないか?(雇用が減少するのでは?)

 今回の先行技術説明会の最重要点のひとつが、新しい思想により構築された(「BEVを作る」という前提で組み立てられた)工場ラインの確立であり、この工場は製造工程が1/2になる見込みだという。当然そこにあてられる人員も半分になる計算で、この点に関して参加した記者からも質問が飛んだが、トヨタとしては「現時点での作業が楽になる、スムーズになる、という点を大事にしたいのと、ここで人員が余った場合は、より価値の高い作業、人間でしかできない領域の仕事で活躍していただく」との回答があった。

(写真はイメージ)今回トヨタが公開した新技術には「生産技術」も含まれており、「組み立て中の車両が自走で工場を移動する」という仕組みも発表された。
(写真はイメージ)今回トヨタが公開した新技術には「生産技術」も含まれており、「組み立て中の車両が自走で工場を移動する」という仕組みも発表された。

 人員が余るというよりも、別の作業へ従事すること、「クルマ」から「モビリティ」へ転換してゆくなかで、製作に携わる人の作業内容や配置が大きく変化することになるが、それは「人員削減」「雇用減少」という話にはならない、と理解した。

 ここまで一気に紹介したトヨタの新技術説明会。実はこれだけでなく「ギガキャスト構造」、「空力」、「水素」、「代替燃料」、「知能化技術」なども合わせて説明があったのだが、一気に紹介するのはとても無理なので、順次お知らせします。

 今回のトヨタの先行技術説明会は、おそらく2023年3月2日に開催された「Tesla’s 2023 Investor Day」(投資家向けのテスラの説明会イベント、イーロン・マスクCEOが筆頭に立って約4時間にわたって開催された)に刺激を受けたものだろう。それを考慮しても、技術説明や情報開示、開発中の技術内容に関して「攻め」の姿勢を見せたことを高く評価したい。すくなくとも各種メディアは、最低限この技術をすべて学んだ上でないと、もう「(業界標準に比べて)遅れている」だとか「説明不足」とは言えなくなりました。はい。

【画像ギャラリー】グラフと表で見るトヨタの次世代BEV戦略(5枚)画像ギャラリー

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