遅すぎた取引停止 悪いのはビッグモーターだけなのか? 損保ジャパンの過失と責任

■損保会社と修理工場の「ビジネスの常識」とは?

 著者の知り合いの中古車販売店オーナーは「一般的な修理工場や中古車販売店と損害保険会社との関係では、損害保険会社が強い」と、口を揃えて話す。今回ビッグモーターの件のように、「アジャスターも来ずに保険金請求が満額回答されるということ自体、特別な関係性であったと考えられる」と話す。

 ビッグモーター急成長の裏には、このような損害保険会社に対する不適切な請求をはじめとしたブラックな業態だったことが容易に想像できる。

急成長した中古車大手販売店ビッグモーター。従業員は公式サイトによると約6000名(2021年2月時点)。中古車の販売、買い取り、車検、整備、保険代理店と、カーライフサービスを一貫して受け持っていた
急成長した中古車大手販売店ビッグモーター。従業員は公式サイトによると約6000名(2021年2月時点)。中古車の販売、買い取り、車検、整備、保険代理店と、カーライフサービスを一貫して受け持っていた

 ビッグモーターは、中古車の売買だけでなく車検・整備、自動車保険の代理店というワンストップでカーライフを支えてくれるクルマの総合デパートだ。

 だからこそ、売買の手数料に加えて、今回問題となっている車検・整備における不正請求が可能だった。

 これはあくまでも個人的な経験だが、自分がかつて事故の被害者となったとき、知り合いの整備工場に「キズついたリアバンパーだけでなく、マフラーも曲がったからそれも保険金で交換しようか」と聞かれたことがある。厳密にいえばこれも不正請求にあたるかもしれないが、こうしたやりとりにはまだ(「修理して元通りにするか、新品に交換するか」という判断の余地がある点で)「ユーザーの意思」が反映されている。

 しかし今回のビッグモーターの騒動は、修理代に一件あたり14万円というノルマを設けたうえ、ユーザーのクルマを勝手に傷つけて不適切な請求をしていたわけで、つまりユーザーの関与がまったくないところで行われていたのだ。

 東京海上HDの永野毅会長は、今回の案件が表沙汰になったとき、マスコミのインタビューで「ビジネスの常識を超えている」という言葉を使った。この常識という言葉をポジティブに捉えれば、先ほど書いたようなマフラー交換のように、使用には問題ないが見た目が悪くなったパーツを交換するのはこの範疇と考えられる。しかし、わざとキズを付けて請求額を増やすのはさすがに度を超していると言っていると思われる。

 そして、そうした悪行を「気がつかなかった」と言っているのが、社員を大量に出向している損害保険会社なのだ。

 まだビッグモーターが記者会見を行う前に、「ビッグモーターと損害保険会社がズブズブの関係だったのではないか」と書いたところ、一般読者からお叱りの連絡があった。

 しかし現実にはそういった関係性があったと考えられる状況なのだ。

■二度と起こらないようなシステム作りを

 今回の件、取材した様々な人の意見をまとめると、「ビッグモーターはやりすぎた、そして損害保険会社はビッグモーターとの関係を重視して忖度した」というのが結論である。

 損害保険会社のなかでも最もビッグモーターと関係が深かった損保ジャパンの過失は見逃すことはできないだろう。

 自民党金融調査会では「クルマの修理工場が保険の代理店になれないように法改正する」という話が出ていようだが、まずは今回のビッグモーターの騒動をしっかりと検証して、なんでこのようなことが起きてしまったのかという原因調査、関連の深い企業にはペナルティを課すこと、そしてユーザーの救済を行ってから法改正の検討…、という順序が筋だと考えている。

 そして二度とこのような騒動が中古車業界で起きないようなシステム作りをお願いしたい。

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