日本車第三勢力、マツダとスバルの「生きる道」…とは?【短期集中連載:第六回 クルマ界はどこへ向かうのか】

■日本は「コンプラなど知ったことか」というスタンスはとれない

 一歩引いてみれば、規制万能派の主張は計画経済思想であり、有能な当局がすべを計画し、規制を作れば世界は計画どおりに変わるという考え方だ。ソビエトがどうやって崩壊したのか、そして中国が鄧小平の改革開放経済で市場経済主義を導入してから経済発展が始まったという歴史と整合が取れない。

 歴史上、計画経済は長期的に成功したことがない。「人類がまだ到達したことのない可能性に賭ける」というなら話は別だが、普通に考えれば、G7各国を筆頭に成功例が圧倒的に多い市場経済の延長で未来を考えるほうが自然である。

 結局のところ、製品そのものが市場に選ばれた結果、競争原理が働いて社会は発展していくものだ。それは「経済学の父」である英国のアダム・スミスが18世紀に説いた経済学の基礎中の基礎である「神の見えざる手」の話であって、それぞれが自己利益を追求することで社会資源の適正な配分が行われるという原則どおりのものである。

 補足をすれば、のちに19世紀に同じく英国の経済学者、アーサー・セシル・ピグーが説いた「外部不経済」の考え方が「神の見えざる手」を補完する役割を果たす。

 たとえば、公害をものともせず、排水や排気で環境をガンガン汚染しながら作られた製品は、それらにきちんと対応した製品より対策コストがないぶん安価になる。生産者と消費者の二者だけで合理的選択をすると、公害は加速度的に蔓延してしまう。

 こういう、二者間の取引の外部に与える「不経済」を当局が税の形で取引に反映し、適正配分を補正する考え方が、ピグーの説いた「ピグー税」である。

 問題は、現在の中国は、世界で決めたルールを無視して「外部不経済」を隠蔽しながらコスト競争を行うことである。これは公害だけでなく、労働基準や製品の安全性など多方面で同時多発的に起こっている可視化できない問題である。

 現実世界ではピグー税や環境規制をコンプライアンスとして課せられる先進諸国と、外部不経済の隠蔽が可能な中国を含む新興国の間で、アンフェアな競争になっている。

 先進国の企業においてはコンプライアンスに抵触すれば大スキャンダルになって企業の存続が危うくなるが、新興国ではほとんど問題にならない。コンプライアンスに対するリスクが国によって異なり過ぎているのだ。

 だからと言って、日本の自動車メーカーは「コンプラなど知ったことか」というスタンスは取れない。きっちりとコンプラを守りつつ、市場経済で戦っていかなくてはならない。

■BEVの開発を支えるのはICE(+ハイブリッド)

 さて話は先ほどのバッテリー生産量の話に戻る。

 3000万台のBEVマーケットと8000万台のICEバリエーションのマーケットを前提として考えれば、たとえばグローバルシェアの11%ほどを持つトヨタは、従来のシェアを保つにはBEVを330万台、ICE系を880万台生産することになる。

 両睨みの戦術が取れるトヨタはそれでよいし、まさに2021年の年末に行ったトヨタの発表でのBEV販売目標台数350万台(2030年時点)はそれを踏まえたものだ。

 では規模がもっと小さく、「資金的にも人的にも限界があるマツダとスバルはどうしていくべきか」となれば、トヨタ並みの両睨み戦術はやりたくともできない。現実的選択肢としては母数の大きいICE系を主戦場にするほかない。

日本自動車工業会が2024年からの重点的に取り組むと発表した「7つの課題」。電動化への布石だけでなく、「⑥競争力のあるクリーンエネルギー」などマルチパスウェイを見込んだ内容
日本自動車工業会が2024年からの重点的に取り組むと発表した「7つの課題」。電動化への布石だけでなく、「⑥競争力のあるクリーンエネルギー」などマルチパスウェイを見込んだ内容

 実は2023年のグローバルな新車販売実績は9000万台弱で、2035年のICE販売台数予測の8000万台と大きくは変わらない。逆に言えば、マツダとスバルはICE系をしっかりやっていれば、充分な勝算が持てることになる。

 ただし、これまで繰り返し述べてきたとおり、BEVは長期的には問題点が解決されるに連れて、ゆっくりとではあるがシェアを上げていくと考えるのが順当で、マツダもスバルも、長期的にBEVのシェアがゼロのままではじりじりとシェアを失っていく可能性がある。

 当然の話として、長期的にはBEVの開発を進め、技術と原材料調達のルートを確保しておかなければならない。

 そのためにどうするべきかといえば、ICE系の商品群をまず充実させ、それらの利益率を高めることで、BEVの研究開発費をしっかり捻出しておくことだ。

 投資には原資が必要である以上、マルチパスウェイ戦略の基本は、EVシフトの進捗ペースに留意しながら、ICE系でしっかり稼ぎ、その利益をBEVに投資するという戦術にならざるをえない。BEVの開発を支えるのはICEなのだ。

 8000万台のICEマーケットを捨てて、BEVに全振りすれば、BEVの時代がやってくる前に息が続かなくなって倒れてしまう。GMやアウディは一足早くそういう状況を迎えて、方針転換を発表しているのだ。

 マツダは、スモールプラットフォームとラージプラットフォームという2つのプラットフォームで戦う。いずれもマルチパスウェイに対応したプラットフォームであり、純ICE、MHEV、PHEV、BEVのどれもがスコープに入ったプラットフォームになっている。

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