日本の基幹産業である「自動車」に政府も社会も冷たすぎる【短期集中連載:最終回 クルマ界はどこへ向かうのか】

日本の基幹産業である「自動車」に政府も社会も冷たすぎる【短期集中連載:最終回 クルマ界はどこへ向かうのか】

 短期集中連載を続けてきたこの企画も最終回。最後の打ち合わせで編集部が何をやりたかったのかがあらためてよくわかった。「日本政府や日本社会は、日本経済の大黒柱である【自動車のユーザーやメーカーを含む自動車産業全体】に対して、諸外国に比べて冷たすぎないか」と訴求したかったらしい。

 前回の「日本の政治に物申す」と結構被るのだが、それでも重ねて言ってくるということは、ここが極めて大事だと思っているということだ。

文/池田直渡、画像/AdobeStock、日本自動車工業会

■池田直渡の「脱炭素の闇と光」シリーズ

■自動車産業はめちゃくちゃ儲かる

 さて、国内に自動車メーカーの本拠地があり、自動車を作れるのが当たり前の日本で暮らしていると感じにくいが、そもそもの話として、自動車生産国は世界的に見ても圧倒的少数派。自動車産業は、電気、水、原材料産業、輸送、金融などのインフラが整っていてはじめて成立する。自動車を生産することは工業国として一流の証。というか一流にならないとできないことなのだ。

 そして下世話な話だが、クルマは非常に儲かる。JAMA(日本自動車工業会)の資料によれば2023年の我が国の自動車製品製造出荷額は56兆円。ちなみに日本の国家予算は補正予算を除外して約100兆円である。設備投資は主要製造業の25.9%にあたる1兆3940億円。研究開発費は同じく30.2%で3兆5768億円。自動車産業関連就業人口は554万人で人口の8.2%。新興国から見たら、「ぜひともあやかりたい」と切望する憧れである。

自動車産業を根付かせるためにはさまざまな条件が必要だが、国家の雇用や財政基盤を支えるほどの巨大な産業でもある
自動車産業を根付かせるためにはさまざまな条件が必要だが、国家の雇用や財政基盤を支えるほどの巨大な産業でもある

 自動車産業は、どの国であっても自国経済を支える大黒柱なので、通常、国策企業に位置づけられる。たとえば中国やインド、インドネシアなどでは、歴史的に国営もしくは国営に準ずる形で自動車メーカーを立ち上げ、政府が大規模なバックアップを行ってきた。米国や欧州も自国の自動車産業を守るためのルール作りを怠らない。

 そうした世界各国の官民一体でのグローバル戦略に対して、日本は状況をだいぶ異にする。日本の自動車メーカーは、むしろ自国政府をまったく頼りにせずに、徒手空拳で世界の官民一体事業と渡り合い、世界トップの自動車王国を築き上げてきた。

 過去数年繰り広げられてきた「EV戦争」についても、日本政府は国内自動車メーカーに有利になるルールづくりどころか、むしろ日本のメーカーに不利なルール設定を推し進めようとするなど、世界的に見て異様な動きを見せてきた。

 あまつさえ、一部の政治家は「ものづくりの時代は終わった。これから日本はGAFAの世界に進むべきだ」などという世迷ごとを言いだす始末。そんな萌芽すら出ていないものを当てにして、自国経済の大黒柱を切り捨てる経済政策などあり得ない。

 新しい産業を育てるのはよいが、当てにするのは何よりもまずそれを育ててからだ。新しい橋ができる前に古い橋を壊すなどという酔狂には付き合っていられない。

 そうやって今の日本経済を支えている自動車産業を軽んじ、妙な規制を作って締めつける夢見がちな政策は、国民に悪夢を見せるだけだ。

■自動車の保有にかかる税金はアメリカの29倍

 ものづくりを軽視する一方で、税収だけは大いに当てにする。日本政府は自動車に対して、世界的に類例を見ない多種・多額な自動車関係諸税を課し続けている。グラフを見てもらえばわかるように、自動車の保有にかかる税負担は、米国の29倍、ドイツの5.5倍、イギリスの1.8倍である。

日本自動車工業会が政府に対して毎年「減税を」と呼び掛けているのに、一向に下がる気配がない、諸外国と比べると高すぎる日本の自動車関連税制
日本自動車工業会が政府に対して毎年「減税を」と呼び掛けているのに、一向に下がる気配がない、諸外国と比べると高すぎる日本の自動車関連税制

 これだけ多額の税を課せられれば、 ユーザーは「わざわざ政府のカモにされるためにクルマを持ちたくない」という気持ちになるのは当然で、若者のクルマ離れというが、むしろ税という罰金で自動車の保有を若者から遠ざける政策になっている。

 少子化へ向かう我が国で、自動車販売が上向くことはないと言われているが、この馬鹿げた税制が変わり、アメリカ並みとは言わないまでも、せめてドイツ並みになれば、そこに改善代(のびしろ)があるのは明らかだ。

 日本政府はどうしてこんな体たらくなのか。

 実は筆者は政治家に求められてEVの現状について何度かレクを行ったことがあるが、彼ら彼女らは驚くほど現状を理解していない。「えっ? 世界はEVになっていくんじゃないの?」という程度の理解である。

 そういう無邪気な政治家がいる一方で、全部が全部「無邪気と無知」というわけでもない。一部には投資マネーと結びついての利益誘導ともとれる動きも見受けられる。

 すでに「そのトレンド」は欧米でペチャンコに潰れた後だが、世界最大の投資会社である米国のブラックロックを中心に、ESG(環境・社会・企業統治)投資で儲けようという動きが活発だった時期があり、再エネ系の政治家の多くはこことつるんでいるという噂は絶えなかった。

 欧米ではあまりの利回りの悪さから機関投資家がESGを基準に投資することを禁止し始めている。ESGは投資に対するリターンとまったく関係のない指標なので、そんなものを当てにして投資すれば損して当然だ。だからアメリカを筆頭に年金などの運用にESG銘柄を選択することが禁止されたのだ。

 しかしながら、御多分に漏れず、日本はまだ周回遅れでそれに邁進中である。

 あるいは最近ネットで大いに炎上した再エネタスクフォース(「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」)の話も、魑魅魍魎が跋扈する世界である。

 河野太郎氏が立ち上げたとされる再エネタスクフォースには、構成メンバー4名のうち2名が、孫正義氏が立ち上げた自然エネルギー財団のスタッフであることが取り沙汰されている。その2名のうちのひとりである大林ミカ氏が、政府の関連会合に提出した次期再エネ調達にかかる固定買い取り価格の提言資料に、中国の国営送配電企業である国家電網公司のロゴが「透かし」で入っていたことが発覚して、大問題になっている。

 結果的に大林氏は辞任したが、日本国民の全員に負担を負わせる再エネ負荷金の審議過程で、不審な資料が使われたことはしっかり追及されるべきだろう。

次ページは : ■エネルギー安全保障上「中国頼り」はアリなのか?

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