日本の基幹産業である「自動車」に政府も社会も冷たすぎる【短期集中連載:最終回 クルマ界はどこへ向かうのか】

■エネルギー安全保障上「中国頼り」はアリなのか?

 この界隈はいろいろおかしい。まず河野太郎氏は所管外のエネルギー問題になぜ介入しているのか。そして再エネタスクフォースそのものの位置づけとして、なぜ買い取り価格の提言をする立場にあるのかなど不明瞭な点が多い中で、さらにその提言資料の一部に中国国有企業のロゴが入っていた。つまり出所として不適切な資料が採用されていたということである。

2024年3月に問題となった、再エネタスクフォースの資料における中国企業の「透かし」(内閣府公式サイトより)
2024年3月に問題となった、再エネタスクフォースの資料における中国企業の「透かし」(内閣府公式サイトより)

 自然エネルギー財団は、アジアスーパーグリッド(ASG)構想を打ち出している。このASGは、アジア各国を送電線で結び国家間で電力を融通しあう構想だが、日本への中継点となるのは中国とロシアである。韓国からも融通されるかもしれないが、その韓国へ供給するのは中国なのがポイントだ。
少し説明が必要だろう。

 電力には「同時同量の法則」というのがあって、電力需要と発電量は常に釣り合っていないといけない。足りないと停電するのは想像できるだろうが、余っても停電する。だから需要を睨んで常に発電量を調整しなければならない。

 再生可能エネルギーはお日様任せ、風任せの発電なので、その調整ができない。

 だからバックアップとして火力発電が必須なのだ。蓄電池の利用プランはあるが、その総額が電気料金に与える影響を考慮した話にはまだなっていない。

 ところが自然エネルギー財団はASG利用を前提に、完全再エネ化を進めようとしている。「日本の原発と火力を完全廃止しても、ASGを通じて国外から電力が供給されるから大丈夫だ」という主張だ。
しかし一国のエネルギー安全保障として、現在進行形で国際的に大いに摩擦を起こしている中国とロシアに生命線を委ねるエネルギー計画を本気で進めようとしているのであれば、それは意図を疑う事態ではないか。

自然エネルギー財団が構想する「アジアスーパーグリッド戦略」。ロシアと中国が入っている時点でかなり無理筋では……(自然エネルギー財団資料より)
自然エネルギー財団が構想する「アジアスーパーグリッド戦略」。ロシアと中国が入っている時点でかなり無理筋では……(自然エネルギー財団資料より)

 そういう動きにあまりにも無警戒なのが日本の政府であり、そういう怪しげな人たちのロビー活動によって世論は構成されていた。

 今になって振り返れば、あの再エネとEVの熱病のような世論は明らかにおかしかったと言えるが、その渦中にあっては、なかなか疑義の挟みようがなかったのである。

■日本は世界的に稀なマーケット

 さて、日本の自動車メーカーが政府の助けを期待せずに自力で必死に未来を切り開いているなかで、こういう怪しげな動きが繰り広げられている。

 EVシフトのペースダウンのおかげで少しトーンダウンしているものの、1年ほど前まで、トヨタが「もしも2035年に我が国で内燃機関の販売が禁止されるのであれば、場合によっては日本を出ていく覚悟をしなければならない」と判断し、その準備に10年かかるとすれば、2025年までに決断を要すると考えていたのは本当だ。

 トヨタがいなくなった日本で、オールBEV化でもオール太陽光でも、できるのならば好きにやってくれと。そんなギャンブルに全世界36万人のトヨタ社員の命運は賭けられないので、トヨタは出て行く。そういう話だった。

 筆者は、2023年の元日にこれを記事にしたのだが、永田町でも霞ヶ関でも激震が起きたと言う。タカを括って自分たちの都合ばかり振り回していた政治家と役人が、ちょっと我に返る機会になったようである。

 すでにあちこちで話題になっているとおり、この間の大手メディアの報道も明らかに異常だった。日本はオワコンでテスラが新たな盟主になるとか、BYDにやられるとか、最近ではシャオミーの脅威とか。なんだか知らないが常に日本がやられるというポルノを書きまくっているのだが、そんなことにはならない。

 日本市場は、フォルクスワーゲンやメルセデス、BMW、アウディが束になって掛かってきても輸入車シェアが10%を超えたことがない世界的にも稀なマーケットだ。実際フタを開けてみれば黒船と騒いだテスラもBYDも売れていない。普通に考えれば予想の範疇だったはずである。

 というと今度は「いや海外でボロ負けするのだ」と言うが、欧州でも米国でもPHEVやHEVが売り上げを伸ばしており、併せて中国製EV排除の準備が着々と進んでいる。

中国BYDは日本法人を設置し、日本各地に販売店をオープン。健闘してはいるが、販売台数はなかなか伸びていない。日本市場を攻略できるか、注目されている
中国BYDは日本法人を設置し、日本各地に販売店をオープン。健闘してはいるが、販売台数はなかなか伸びていない。日本市場を攻略できるか、注目されている

 それでも日本を下げたい向きは、タイで日本の牙城が崩されると騒ぐのが最新トレンドだが、日本がやられる、アメリカがやられる、欧州がやられると騒いだわりに、全部外してきて、今度は当たるのだろうか。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)も一帯一路構想も、今や中国の新帝国主義であるという批判が世界で広がっている中で、それらの戦略の延長にあるEV輸出がそうそう上手くいくとは考えにくい

 ASEAN諸国もそれはすでに気づいているはずである。

 最後の最後に念を押すが、別に「未来永劫EVの時代は来ない」という話ではないし、おそらくは30%くらいまでは時間をかけて増えていくと思うが、世界がEV一色になることは当分ない。それはもう普通に考えれば想像できる未来だと思う。

【画像ギャラリー】日本の基幹産業である「自動車」に政府も社会も冷たすぎる【短期集中連載:最終回 クルマ界はどこへ向かうのか】(5枚)画像ギャラリー

PR:かんたん5分! 自動車保険を今すぐ見積もり ≫

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

話題のGRヤリスMコンセプト、新型セリカと関係あり!! オートサロン特報も掲載のベストカー2/26号発売中!

話題のGRヤリスMコンセプト、新型セリカと関係あり!! オートサロン特報も掲載のベストカー2/26号発売中!

ベストカーWebをご覧の皆さま、こんにちは!愛車のブレーキがエア抜きから2週間でふかふかになった編集…