テインはサスペンション専門メーカー。自社製サスペンションでラリー、レースの世界で大活躍しつつ、ストリート用車高調から純正形状サスペンションまで幅広く製造している。注目なのはその独自技術。これまでもさまざまな技術を開発し、サスペンションに新たなムーブメントを起こしてきた。そこで今回体感したハイドロ・リバウンド・ストッパーという機構をご紹介。
文:加茂 新/写真:加茂 新、テイン
■中国で日産のDNAが!!
今回体感したのはハイドロ・リバウンド・ストッパーという機構だ。この機構が採用されたサスペンションに乗るべく、中国は鄭州(ていしゅう)に向かった。
鄭州は中国に4度ほど渡航したことのある自身も初めて聞いた地名。だが、鄭州市の人口は1282万人と東京都に匹敵する恐るべし中国。
そこには鄭州日産という自動車メーカーがある。こちらは東風汽車という中国の自動車メーカーと日産自動車の合弁会社。日産のDNAが入った独自のクルマを生産している。
そのオリジナルSUV「パラディン」の特別仕様車にテインのオフロード向け車高調が純正採用されたというのがニュースなのだ。200台限定の特別仕様車で中国の自動車メーカーとはいえ、テキトーに作っているようなメーカーではなく、日産自動車からの技術者が管理するちゃんとした自動車メーカーなのだ。
その「パラディン」に採用されたのは「4✕4 DAMPER GRAVEL2」というモデル。単筒式の別タンク付き車高調で減衰力は伸縮別の2WAY調整式。
自動車メーカーが純正部品として採用するからには、耐久性など高いクオリティが要求される。しかも、オフロード向け車高調である。中国のSUVはいわゆる丘サーファー的に存在ではなく、郊外で本当に悪路を走る必要がある人が購入するのがメイン。オフロード性能が高く、悪路で激しい入力を繰り返したときにもオイル漏れがなく、継続的に使えなければならない。そのうえで性能も要求されるのだ。その厳しい要求を乗り越えての純正採用に至ったのである。
■ハイドロ・リバウンド・ストッパーって…
そして、そこに採用されたハイドロ・リバウンド・ストッパーに注目したい。テインにはすでに数多く採用されている機構としてハイドロ・バンプ・ストッパーがある。
これはサスペンションが沈んで行くとき、最後はフルバンプに至る。そのときに通常はバンプラバーやバンプストッパーと呼ばれるクッションに当たる。ウレタン製やゴム製のカヌレのようなものに当たり、物理的にそれ以上ストロークできなくするのだ。そうしないと大きく沈んだ時にサスペンションのピストンバルブとケースが当たったりして物理的に壊れてしまうから。
そのバンプラバーに当たると、バネレートとしては急速に上がったようになる。ぎゅ~っと沈んでいって最後にドン!! とバンプラバーに当たってしまう。これを「底付き」と呼ぶ。
車高調でバネレートを上げていくとバネが硬くて乗り心地が悪い。逆にバネレートを下げていくと乗り心地は良くなるが、大きなギャップに乗った時に底付きを起こしてこれまた乗り心地が悪い、となる。
そこで生み出されたのがハイドロ・バンプ・ストッパーだ。こちらはサスペンションが沈み込んでいってバンプラバーに当たるところまでいくと、内部のオイルの行き場がなくなり油圧でピストンバルブがそれ以上沈み込まなくなる機構。
そのためドンとバンプラバーに当たるのではなく、ジワッと減衰力が高まってフルバンプに至る。そのジワッとした感じが乗り心地を悪化させず、快適性を保つのだ。ミニバンのリアサスなど、底付きが気になる車種では圧倒的に乗り心地が改善すると支持されている。
ちなみにこういった機構はラリーカーでも採用されている。だからこそ、ラリーカーはジャンプしてもスッと着地してそのまま走り続けられる。サファリラリーを制した藤本吉郎さんと、様々なラリーでコ・ドライバーをしていた市野 諮さんが立ち上げた会社らしい競技生まれのスペシャルな技術なのだ。
そして、今回「パラディン」に採用されたのはハイドロ・リバウンド・ストッパー。それはいわばハイドロ・バンプ・ストッパーの逆。サスペンションが伸び切る直前に内部の油圧が高まって、最後にジワッとサスが伸びるという。
サスペンションは伸びるときも重要。というのも例えば右に曲がるとき、左側のサスペンションは縮むが右側のサスペンションは伸びる。この内側のサスペンションが伸びるスピードも重要で、ここで減衰力が弱くスッとサスが伸びてしまうと、内側サスが伸びるとその分クルマはロールしてしまう。内側サスが伸びて持ち上がってしまうイメージ。
オフロードではコーナリングというよりも、さまざまなギャップを乗り越えていく中で、サスペンションが素早く伸びてしまうと不安定になることがある。そこでこのハイドロ・リバウンド・ストッパーが効く。
実際に鄭州郊外のオフロードコースで乗ってみると、純正サスペンションに比べて、大きなギャップを乗り越えた際に車体全体の安定度が高い。足まわりが常にジワッと動いている感触がある、それによってタイヤが路面を掴んでいるので安心してペースを上げられる。慣れない悪路だったが明らかに安心して走ることができた。
今回のサスペンションについてはハイドロ・リバウンド・ストッパーのみを採用。ハイドロ・バンプ・ストッパーはスペース的な都合などもあり採用されていないとのこと。
テインではこうした内部パーツの新技術に加えて、室内から減衰力を自動で調整できるEFDCも好評を得ている。こちらも「パラディン」にはスペース的な問題で未採用だが、市販車用のテインのサスの多くに適合する。速度や前後左右のG、さらにクルマがロールしていく途中を制御するジャークという機能を併せ持ち、より乗り心地とハンドリングをレベルアップしてくれる機構。こうした新機構に挑み続けるのがテインの社風なんだという。
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