【ロータリーがあったから実現した夢の新技術】SKYACTIV-Xの凄さとは?

従来のエンジンとは格段に難しい2種類のガソリンへの対応

SKYACTIV-X:2L、直4DOHCスーパーチャージャー+マイルドハイブリッド。ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm。圧縮比:15.0。最高出力:180ps/6000rpm。最大トルク:22.8kgm/3000rpm。使用燃料:ハイオクガソリン(推奨)、レギュラーガソリンにも対応
SKYACTIV-X:2L、直4DOHCスーパーチャージャー+マイルドハイブリッド。ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm。圧縮比:15.0。最高出力:180ps/6000rpm。最大トルク:22.8kgm/3000rpm。使用燃料:ハイオクガソリン(推奨)、レギュラーガソリンにも対応

 さて、レギュラー専用仕様からハイオクガソリンも使える仕様への変更について、話を戻そう。

 これは従来のガソリンエンジンであれば、開発エンジニアにとってはなんてことはない作業である。

 点火タイミングのマップを拡大し、ノックセンサーによってフィードバック制御(出てきた結果から判断して、入力するデータを変更して正しい方向へと調整する制御方法)を行なうことで対応させている。

 ところがSKYACTIV-Xの場合、アイドリング近辺と4500rpm以上の回転域では従来の火花点火で燃焼を制御するが、それ以外の常用回転域ではSPCCI(火花点火制御式圧縮着火)で燃焼しているため、燃焼速度が火花点火と比べ、格段に速い。

 いくらプラグ点火を燃焼のきっかけに利用しているといっても、わずかでも狂えば狙った通りの燃焼にならずスムーズな運転にはならないばかりか、加速不良や燃費低下、最悪の場合エンジンブローにつながる可能性すらある。

 何しろ、従来のガソリンエンジンで言えばSPCCIはノッキングしている状態なのだ。それを避けるのではなく、制御して狙った通りに圧縮着火させるのだから、制御のレベルが段違いに難しいのは誰でも想像できる。

ロータリーで苦労した点火制御がSKYACTIV-X開発で役立った

左が95オクタン、右が91オクタンのガソリンを入れてテストしたグラフ。走りはじめの1000~2000rpm付近のトルクの出方が違い、91オクタンのほうがトルク感が細い。圧縮比15のまま、ハイオクを使用すれば欧州向けと同じ180ps/22.8kgmのスペックを確保。日本のレギュラーを入れた場合の性能も当初の狙いどおりで、パワーは10馬力ほど落ちるがトルクは変わらないという
左が95オクタン、右が91オクタンのガソリンを入れてテストしたグラフ。走りはじめの1000~2000rpm付近のトルクの出方が違い、91オクタンのほうがトルク感が細い。圧縮比15のまま、ハイオクを使用すれば欧州向けと同じ180ps/22.8kgmのスペックを確保。日本のレギュラーを入れた場合の性能も当初の狙いどおりで、パワーは10馬力ほど落ちるがトルクは変わらないという

 そんなSKYACTIV-Xの開発について、先代アクセラの開発主査で、現在は商品本部長の猿渡健一郎氏から、意外な裏話が聞けた。

 「欧州では一般的に95オクタン以下のガソリンが給油される可能性はないため、自然とハイオクガソリン仕様になっています。日本でも熱効率を求めればハイオクガソリンを使いたいんです(日本はおおよそレギュラーが91オクタン、ハイオクが100オクタン)。

 しかしレギュラーガソリンを使いたいユーザーもいます。そのため圧縮比は15.0のままで、ハイオクに対応する仕様を開発することになったので、時間が掛かってしまいました。

 実はハイオクでも16.3でやるより15.0でやったほうが、欧州仕様と比べた時に低開度から全負荷にかけてのつながりがよくなるのです。

 低開度から全負荷につないでいく時に、うまくトルクを出しつつ、燃費をよくしたい。いろんなつながりをよくできるので、あえて16.3にせず、15.0にしました 」。

 ところが、両方のガソリンに対応することで、開発のハードルは大きく上がってしまった。前述の通り、圧縮着火のトリガーとなる点火のタイミングがシビアなSPCCIでは、オクタン価の違いは制御に大きな影響を与える。

 しかも実際にはハイオクとレギュラーが混ざった状態での使用も考えられる。ということは点火マップは物凄く幅広いものになっているのでは、と尋ねてみた。

 マツダRX-8。小型化・高性能化を進めた自然吸気の新世代ロータリーエンジン「RENESIS(レネシス)」を搭載
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東京モーターショー2007で、次世代ロータリーエンジンとして出品された16X。排気量を800cc×2とアップと直噴化で、低速トルクと燃費を改善  <br>
東京モーターショー2007で、次世代ロータリーエンジンとして出品された16X。排気量を800cc×2とアップと直噴化で、低速トルクと燃費を改善
RX-8発表時の13Bロータリーエンジンの資料より
RX-8発表時の13Bロータリーエンジンの資料より

「実はロータリーエンジンを開発するなかで培ったノウハウが、ここに活かされています」。

 レシプロエンジンと異なり、吸排気バルブのないロータリーエンジンには、制御因子が点火時期とスロットルバルブ開度くらいしか存在しない。そんななかでスロットル・バイ・ワイヤが確立していなかった時代は、点火による制御が重要だったのだ。

 ロータリーエンジンが1ローターあたり2本のプラグをもつのは、燃焼室が周方向に長く火炎伝播(点火から混合気全体への燃焼の伝わり具合)が難しいからだ。

 しかし、単純に2箇所で点火するだけでなく、燃焼室が移動していくことも考えて点火を制御すれば、燃焼の状態をより緻密に制御できる可能性もある。

 CAE(コンピュータ上で仮想の試験を行なうシミュレーション)も十分でない当時から、パワーと燃費を追求し、排ガス規制をクリアするために悪戦苦闘してきたロータリー開発エンジニアはこの時、試行錯誤によって膨大なノウハウを手に入れていたのであろう。

 「ミスターエンジン」と呼ばれる人見光夫常務執行役員からは、SKYACTIV-Xの開発には、SKYACTIV-Dで培った圧縮着火のノウハウが活かされているとも聞いた。ディーゼルエンジンはそもそも圧縮着火だ。正確には圧縮して高温高圧になった空気中に軽油を噴射することで自己着火させる。

 ガソリンは自己着火しにくいため、ディーゼルの軽油のように噴射するそばから燃焼してくれないから、燃料噴射によって燃焼のタイミングを調整することは難しい。

 それだけにSPCCI(火花点火制御圧縮着火)のスーパーリーンバーンは、薄い混合気を作って高圧縮しておいて、プラグ周辺に濃い混合気を作って点火させ、瞬時に高まった圧力によって、一気に全体を燃焼させる方法を選択したのだ。

 しかしSKYACTIV-Dも、尿素水を用いるSCR触媒を使わずに排ガス規制をクリアするために、燃料噴射とEGRくらいしか制御因子がない状況で、工夫と制御の熟成を続けて、ここまでモノにした。

 つまりSKYACTIV-Xは、SKYACTIV-Dをやってきたエンジニア、ロータリーをやってきたエンジニアが、持てるノウハウを注ぎ込んで開発に挑み、完成させた夢のエンジンなのである。

 SKYACTIV-Xは、ガソリンと空気の混合気を圧縮して自己着火させるHCCI(予混合圧縮着火)を、SPCCIとして世界で初めて実用化したエンジンだ。

 SPCCIの概念自体はSKYACTIV-X以前に存在していたというが、やはりロータリーエンジンを実用化させたマツダでしか実現することができなかった、独創的なパワーユニットであることがお分かりいただけただろうか。

 来年で100周年を迎えるマツダのエンジン技術の集大成、それがSKYACTIV-Xなのである。

2021年に発売予定のMX-30にはロータリーエンジンのレンジエクステンダーが追加予定
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