これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、軽自動車リーザのオープン版として誕生したリーザ スパイダーを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/ダイハツ
軽のバリエーション拡充の波に乗って登場したスペシャリティカー
1980年代後半、軽自動車が一般的な選択肢となったことで定番以外にも個性的なモデルが続々と登場していた。特に軽の販売を主軸とするメーカーはラインナップの強化を図り、セダンをはじめ上級志向のスペシャルティモデルや実用性と居住性に秀でたハイルーフタイプ、そして走りを楽しめるスポーツモデルなど多彩なバリエーションを揃えた。
そんななか、バブル景気を背景に軽の枠を超えたモデルが注目される。ホンダが作り上げたビート、スズキの個性派スポーツモデルのカプチーノ、マツダから発売されたオートザムAZ-1といった車種は、専用ポディやメカニズム、さらに装備を採用することで、軽ながら走りを存分に楽しめることがウケてユーザーから絶大な支持を集めた。
ダイハツがこれらに追従するべく市場へ導入したのが、個性的なオープンモデル「リーザ スパイダー」だ。先行して発売されたライバル車が専用設計で作られたのに対し、リーザ スパイダーは軽自動車のスペシャルティカーとして1986年にデビューしたリーザをベースとしていた。
リーザはパーソナルユースをメインにした3ドアハッチバックタイプの軽自動車で、”エアロヘミサイクル”と呼ぶ半球形のスタイリングを特徴としていた。3ドアボディとあって主に前席重視の作りがなされていた。
オープン化にあたって生じる課題をひとつひとつクリア
リーザのルーフ部分をバッサリとカットしたようなスタイルのオープンモデルに仕上げられたリーザ スパイダーは、次のような特徴を目指し作り込まれていた。
まず開放感たっぷりの運転感覚が味わえること。そして、メカニズムはリーザから継承し、パワーステアリングやオートマチック変速機の採用によってイージードライブが可能で、ターボエンジンを搭載したことで小排気量ながらパワフルに走れることを目指した。
乗り心地はスポーツ性を重視したライバルと一線を画す設定とし、スペシャルティモデルらしく静かでソフトなセッティングが重視されていた。さらにエアコンを標準装備することで、快適性が高められていたこともスペシャリティモデルであることを印象付ける。

リーザスパイダーは、オープンカーとして専用に設計されたわけではない。オープン化によってルーフ部分やBピラー、Cピラーで得られていたボディ剛性がなくなるため、剛性の確保と幌を収納する設計に苦慮したと言われている。
ボディについてはフロアやドア、コクピットまわりにも補強を実施することで、ハッチバックボディほどではないが軽オープンとして十分な剛性を確保。幌は防水性と収納操作性、デザイン性などを踏まえ、ベストな形状を模索した結果、手動式のソフトトップとした。また、耐候性についても考慮されており、特に防水性能では開発の最終段階までシールゴムの形状チューニングを繰り返したと言われている。
外観はリーザをベースにしながら、カラードバンパー、カラードドアアウターハンドルを採用したほか、ベルトラインスポイラーを標準装備。フロントガラスには遮光性に優れたブロンズティンテッドガラスを採用するなど、スペシャルティ軽自動車のオープン版らしい上質感が演出されている。
インテリアも質の高さにこだわった。デザインこそリーザから継承しているが、シートはホールド性に優れた本格的なバケットタイプとし、プリセーム(人工皮革)製シート表皮を採用。運転席まわりはモモ製本革ステアリングホイールを標準装備したほかコンソールボックスが備わるなど、乗るたびにクオリティの高さを実感できるうえ、使い勝手のよさにも配慮されていた。
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