廃止された首都高速KK線を舞台に、世界的な空冷ポルシェの祭典「Luftgekuhlt (ルフトゲクールト)」が日本に初上陸。非現実的な景色が現実になった1日限りのエモーショナルな熱狂を綴る。
文:ベストカー編集部 鈴村朋己/写真:小塚大樹
【画像ギャラリー】料金所にポルシェとか湾岸ミッドナイトじゃん!! 夢のような空冷ポルシェイベントの臨場感を味わい尽くせ!!(29枚)画像ギャラリーアンリアルな妄想が現実になった日
かつて、机の上に広げた道路の上で、夢を見ていたことがある。 ミニカーを手に取り、現実にはあり得ない並べ方で静止させる。あるいは、情景模型のジオラマのなかに、お気に入りを置いてみる。そこには渋滞も信号待ちもない、自分だけの特等席だった。
少し時が経ち、遊び場はテレビ画面の中へと移った。大人気ゲームソフト「グランツーリスモ」のフォトモード。本来なら猛スピードで駆け抜けるはずのレーシングカーを、あえて夜の高速道路のど真ん中に停止させる。ファインダー越しに覗くその光景は、静寂と躍動が同居する、あまりに非現実的で、そして美しいものだった。
「本来、動いているべきものが、あるはずのない場所に、美しく静止している」。その違和感にロマンを感じるのは、きっと自分だけではないはずだ。
2026年3月14日。あの頃の妄想が、東京のど真ん中で現実となった。 カリフォルニアから初上陸した空冷ポルシェの祭典「Luftgekuhlt(ルフトゲクールト)。
ドイツ語で「空冷」を意味するこのイベントは、単なる旧車の展示会ではない。ポルシェの歴史とアートを融合させ、その場所が持つ物語ごと切り取る、世界で最もスタイリッシュなカーイベントだ。
その舞台に選ばれたのは、2025年4月に惜しまれつつも廃止された「首都高速KK線(東京高速道路)」だった。
廃道となったKK線に伝説の鼓動が灯る
少し前までは絶え間なくタイヤのロードノイズが響き、ビジネスと欲望が交錯した場所。銀座の街を見下ろしながら駆け抜けたあの高架橋が、この日、巨大な屋外美術館へと変貌した。
自らの足でKK線に立ち、展示車両を見つめる。かつて時速60kmや100kmで通り過ぎていた景色の中に、動かないポルシェが並んでいる。その事実だけで、胸の奥が熱くなる。
会場に集まったのは、ポルシェが水冷エンジンへと舵を切る前の、356や歴代の911たち。 新車のように輝くフルノーマル、使い込まれた空気が漂うストリート仕様、あるいは地を這うようなシャコ上げや独創的なカスタム、そしてサーキットの死闘を潜り抜けたレーシングカー。
そのなかには、日本のミュージシャン兼俳優の長瀬智也氏の愛車や、アメリカのカリスマビルダー「ガンサーワークス」が持ち込んだ芸術的なモディファイド・ポルシェがあり、訪れたファンの視線を釘付けにしていた。
【画像ギャラリー】料金所にポルシェとか湾岸ミッドナイトじゃん!! 夢のような空冷ポルシェイベントの臨場感を味わい尽くせ!!(29枚)画像ギャラリー魅せ方の美学
Luft Tokyoが何より素晴らしかったのは、見せ方のセンスだ。 単にモデルごとに整列させるのではない。西銀座の料金所跡、あの見慣れた看板に沿って、ストリート仕様の911が2列に並べられていた。その姿は、人気漫画「湾岸ミッドナイト」で読み耽った、あのストイックな世界観そのものだ。
ポルシェの造形の醍醐味といえば、あの豊潤なリアフェンダー。いわゆる「お尻」が向かい合うように配置された光景には、思わずゾクッとするような色気が漂っていた。
さらに、最大の見所はコーナーエリアに用意されていた。 そこには、ル・マンの王者である3台の962C、そして1998年の全日本GT選手権(JGTC)で勇名を馳せた「ナインテン ポルシェ993RSR」、さらには伝説の904カレラGTSといった計5台のレーシングカーが集結していた。
彼らは止まっている。エンジンもかかっていない。しかし、コーナーにノーズを向けたその姿は、今にもタイヤを軋ませて縁石を蹴り、限界を攻め始めそうな殺気に満ちていた。その「静」の中に潜む「動」の気配に、多くの観客が立ち尽くし、自分も鳥肌を立てたひとりだった。




































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