耐久性ではタクシー専用車両には勝てない?
それでは、軽自動車の採用について使う側の立場として、タクシー事業者はどう考えているのだろうか。
そこで都内の大手タクシー会社である日の丸交通に軽タクシーの可能性について聞いてみたが、「なによりお客様からの要望がありませんから、今のところ検討のしようがありません」と、つれない答えが返ってきた。
参考までに標準的なタクシー車両であるクラウンセダン(コンフォート)の使用例を挙げておくと、1日の走行距離は最大で約360kmとされ、ドライバーにもよるが年間走行距離は約10万kmに達する。使用年数でいえば4~5年で売却しているとのことだ。
タクシーの車検などの整備については、人の命を預かるサービス事業として、法律によって厳しく義務化されていることは言うまでもない。
もっと細かく見ていくと、バスやタクシーの“旅客自動車運送事業用自動車”の場合は、初回は購入の1年後、以降も1年ごとに実施が義務づけられ、現実のタクシー車両の使用条件としては、年間10万kmで最長耐用距離は30万~50万km、耐用期間は約3~5年、最長では30年ほどと言われていて、大手タクシー会社では4~6年で買い換えによって車両を入れ替えている。
タクシー車両の燃費は、街中でのストップ&ゴーを繰り返す過酷な労働などを強いられているため約10km/Lといわれているが、LPGの価格が都内でリッター約60円とされているから、コストの面での優位性は圧倒的で、現状でタクシーではガソリン、ハイブリッド車は増えているとはいえ、LPG(液化プロパンガス)車が約9割を占めているという。
法改正でよく見るようになった旧型プリウスについては、ハイブリッドゆえの燃費の良さやブレーキパッドの減りが少ないといった利点はあるとはいえ、「タクシー専用設計ではないため、乗り心地の変化など、耐久性などの面では不利でしたね」とのことだった。
街乗りが主な使用用途とされている軽自動車は、平均走行距離は1年間で約8000kmが一般的とされ、普通車の平均走行距離が1年間で約1万kmといわれており、タクシーの走行距離とは比べるべくもない。
タクシー車両が耐久性の確保のために専用設計となる理由がある。例えば、シエンタをベースとするタクシー専用車両であるジャパンタクシーでは、エンジンのLPG化によって燃料タンクを変更したことなどもあって、耐久性に配慮してリアサスペンションをトーションビームから3リンク車軸式に変更。
軽量化のためにルーフの厚みを薄く仕立てるなどの工夫もあったが、それでも車重は1390~1410kg(カタログ値)となり、ベースとなったシエンタの2列仕様ハイブリッドに比べ10~30kg増加した。
全長が荷室スペースなどを稼ぐためにシエンタの4260mmから140mm、全高も75mm増加しているから、これらを考慮すれば、専用車両としてメリットを活かしていることがわかる。
後席が狭いからタクシーに採用されない?
それでも「軽自動車を使用する可能性はありませんか」と食い下がると、やはり後席スペースの不足を指摘された。
「軽自動車ではなにより後席が狭いことで、お客様の乗車時の快適性が確保できないでしょう。乗り降りの容易さや多くの荷物が積めるか、お客様の安全面も配慮すべき点ですから」。
これについてはタントやN-BOXの後席スペースは充分すぎるほど広いと思うので賛成はできかねるが……。
加えて、大手タクシー会社のタクシーで使用されているLPGは燃料費としておよそ60円/L(東京都内の概算値)であれば、140円/前後のレギュラーガソリンに比べれば半分以下のコストで済むのが大きい。
むろんLPGに対応するために軽自動車用エンジンを開発することはもとより、燃料タンクを搭載する改造費が生じるから現実的ではないだろう。
それでも、タントなどではスライドドアが採用され、乗り降りをしやすくできるようにステップ機構をオプションで用意するなど、利便性のうえでは充分対応できるはず。後席空間についても、大人2名乗車であればさほど問題にならないのではないか。
衝突安全性などの面で軽自動車として物理的に限界があることや、耐久性に関して軽自動車がコストを抑えるための設計がなされていることは否定しないが、大手タクシー会社のきめの細かいメンテナンスを考えれば、実際どこまで使えるかを試してみる価値はあるように思える。
それほど現在の軽自動車は過去に比べて性能面で劇的に進化しているのだから、要検討の事案として提案しておきたい。
コメント
コメントの使い方