クルマの楽しみ方は人それぞれだが、「おとな」になったらパワーはそろそろ卒業したくなる。
パワーとかスピードとか、それ以外でも毎日が楽しくなるカーライフとは? 「おとな」になった清水草一が「おとな」のためのカーライフを提案する!
文:清水草一
BestCar PLUS 2016年7月18日号
もはやパワーは欲していない
私にとって自動車は、原始人のこん棒、つまり自分を強くしてくれる装置だった。何の武器も持たないひ弱な青年が、ひとたびクルマに乗れば恐るべき速度で突っ走ることができた。
そのことに私の本能は陶酔し、ひたすら速いクルマに憧れた。そしてフェラーリを所有し結実した。
が、五十代になった今、もはやこん棒は欲していない。今の私はクルマに癒しを求めている。例えれば女性の膝枕である。
私が以前に乗っていたBMW335iカブリオレ(先代)、あれはすばらしい膝枕だった。
速いことは速かったが、そんなことはどうでもよく、夜、スロウな音楽を大音量で流しながら、オープンで首都高をゆっくり周回することに熱中した。若かりし頃には想像もできなかった嗜好である。
綿密なる計算のもと、私が狙う次なる膝枕は、イヴォークのコンバーチブルだ。目的はもちろん深夜のオープンドライブ。そのためにはぜひ4座が欲しい。
それは4人乗るためではなく、2座では風が後ろに抜け切らないからだ。優美に風を感じるなら4座に限る。加えて車高はある程度高いほうがいい。
見晴らしがいいほうが気分がいいからだ。もちろんデザインは自己陶酔のために最も重要。これらの条件をすべて満たすのが、イヴォークコンバーチブルなのである。
もうひとつの夢、それは盆栽いじりだ。ちょっと古いクルマを盆栽のようにいじって仕上げて、心ゆくまで愛でてみたい。
盆栽の最有力候補はちょっと古いシトロエンか。例えばボビンメーターのCXはどうだろう。
古いハイドロニューマチックに新しい青い血を注ぎ込み、あのシロナガスクジラのようなボディをピカピカに磨き上げ、金魚鉢に浮かぶ金魚のようなボビンメーターがゆらゆら揺れるのを眺めながら、ゆったりドライブに出かけてみたい。
あまり遠くへ行くと帰って来れなくなるかもしれないと、軽い心配はあるが。
ただ、イヴォークもCXも、近所の用足しにはかさ張りすぎる。可能なら用途に合わせて数台の自家用車を用意したい。私の理想のサンダルは、フィアット500Cツインエアだ。
登場時から憧れていながら、未だに我が物にしていない。無念である。が、時間はまだまだある。いつか必ず手に入れて、自宅から数キロ先のスポーツクラブに通いたい。
スポーツクラブで軽く汗を流すと、それだけで「自分はデキる」と自己満足に浸れる。
駐車場に戻った時、そこにかわゆい500Cツインエアが待っていてくれれば、満足度はさらに高まるだろう。結局人生はいかに自分が満足するかにかかっている。
もうひとつの私の自己満足、それはサイクリング旅だ。前向きでアクティブなオッサンでいるために、愛車に折り畳み式のミニベロを積んで、なるべく平坦な道でのんびり必死にペダルを漕ぐ。
数年前から始めた趣味である。そのためにはワゴンタイプのBMW320dツーリングも1台欲しい。
そして私の最後の希望。それは貴族として人生を終えることだ。貴族が最後に辿り着くのはジャガー。
還暦を過ぎたなら、現代最高の天才、イアン・カラムがデザインしたジャガーXJに乗って、「あのじいさん、貴族的だな」と思われたい。用途なんて気にしていない。
身体にガタがきて、たとえ病院通いのためになろうとも、XJとなら通院の日々もちょっとは素敵になるだろう。
■癒やしのドライブにでかける
Range Rover/イヴォークコンバーチブル
■じっくり付き合いたくなる
CITRON/CX
■日常をわくわくさせる
Fiat/500カブリオレ
■アクティブに過ごしたい
BMW/320dツーリング
■定年したら乗りたい
Jaguar/XJ
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