ライバルは新型フィットだけにあらず!? 新型ヤリスは、本格派国産コンパクトNo.1の実力を持つ?
2020年2月に発売された新型ヤリス。ヴィッツから改名し、中身も従来とは打って変わって欧州テイストの本格派志向に変貌したことでも注目を浴びている。
その対抗馬筆頭にあげられるのは、同月発売の新型フィットながら、両車のコンセプトは明らかに異なる。
さらに、コンパクトカーとしてはスズキのスイフト、マツダ2なども実力派の呼び声高い。
果たして、新型ヤリスはこれらの強豪を越える“良いクルマ”なのか。そして、それぞれどのような魅力とストロングポイントを持つのかを中心に解説していきたい。
文:松田秀士
写真:平野学、ベストカー編集部
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新型ヤリスと新型フィットは対照的なコンセプト

ヤリス! 名前変えなきゃヴィッツ。もしも、ヴィッツのままのモデル名だったらこんなに売れたのだろうか? ヤリス、名前からしてアグレッシブですね。このエクステリアでヴィッツと呼ばれてもピンとこなかったような気がする。
ヤリスはここ最近のフルモデルチェンジにおけるサイズアップというルーティーンに反して全長が-5mm(僅かですが)の3940mm、全幅は変わらず1695mm、全高は約-15mmの1500~1515mm(ヴィッツは1500~1530mm)。新プラットフォームの採用によって-50㎏の軽量化とねじり剛性30%アップを達成。
注目なのは運転席のヒップポイントは50mm後退し35mm下げられていること。つまり新型ヤリスはドライバーオリエンテッドなコンパクトへとシフトしている。
いっぽう新型フィットは、ヤリスより全長が+55mmの3995mm、全幅は同じ1695mm、全高は約+40mm高い1515~1540mm(クロススター除く)。見た目ゆったり感が漂う。
それもそのはずでフィットのコンセプトは「心地よさ」。「気持ち良い」を売りにするヤリスとは対照的なエクステリアだ。
インテリアも対照的でフィットは2本スポークのステアリング、低反射ディスプレーを採用してダッシュボード上面をフラットにするなど、ヤリスの航空機調コクピット感よりもアットホームな雰囲気。
ヤリスとフィットはエンジン構成にも違いあり!

ヤリスは、いわゆる欧州テイストなハッチバックを目指していて、搭載されるドライブトレーンも3気筒1.5L(ポート噴射アトキンソンサイクル)+ハイブリッド、3気筒1.5L(直噴アトキンソンサイクル)、3気筒1.0L(ポート噴射)の3種類。
トランスミッションは、3気筒1.5LにCVT(発進ギア付き)と6速MT、1.0LにはCVTを組み合わせる。
また、4WDも2種類設定されていて、ハイブリッド用にリアモーターを追加したE-FOURと一般的な4WD(1.5Lエンジン用)と、トヨタらしく多種多彩。いまどきこんなに選択肢を数揃えることはトヨタ以外のメーカーには不可能だろう。
この点フィットはe:HEVと呼んでいる1.5L+モーター走行主体のハイブリッドと1.3L+CVTのコンベンショナルエンジン仕様の2種類にそれぞれ4WDが設定されている。
ここで興味深いのはヤリスがすべて3気筒エンジンなのに対して、フィットは4気筒を採用していること。両エンジンともアトキンソンサイクルエンジンだ。
また、4WDでは、ヤリスはハイブリッド用に後輪を独立したモーターで駆動するE-FOURを採用しているのに対して、フィットは両方ともセンターデフ(ビスカスカップリング式)を持ちプロペラシャフトで後輪を駆動するベーシックな方式。
E-FOURモーター式は、発進時等など有効速度域が低いというデメリットがある。そのためRAV4ハイブリッドはリアモーターを大幅にパワーアップさせて対応している。
これに対して前後輪を連結するフィットの方式は全速度域有効だ。ただし、この連結方式は駆動系のフリクションが増えるので燃費が落ちることと、プロペラシャフトを通すためのレイアウトが複雑化する。
ただ、フィットは元々センタータンクレイアウトを採用しているのでスペース的に有利だったという。このあたりシンプルでいわゆる都市部でのちょい雪レベルなら事足りる利便性はヤリスハイブリッドのE-FOURだろう。つまり使用地域によってチョイスは変わる。
フィットは柔らかくヤリスは締まっている

その走りは、e:HEVのフィットが100km/hあたりまではモーターでの走行のため発進時からテンションが一定で滑らかな加減速フィール。
ヤリスもスムーズだがハイブリッドシステムのTHS IIにリチウムイオン電池を採用し、新開発の補器類によって電気の出し入れが向上したことでモーターのパワー&レスポンスがアップ。しっかりアクセルを踏み込んだ時の加速感が力強い。
ハンドリング面では方向性がハッキリしている。ヤリスはステアリングを切り込んだ瞬間からフロントがハッキリと反応。
さらに、サスペンションのホイールトラベル初期のフリクション軽減をテーマに開発されているのでスムーズ。市街地レベルでの乗り心地は良い。
しかし、速度を上げたコーナリングではロールを抑えている。ジオメトリーでロールを抑える方向性だがバンプストッピングラバーにも頼っている。
また、基本FFなのに深い操舵角までフロントが良く曲がり込む。反面リアが若干軽い。
フィットもサスペンションの初期ホイールトラベルはスッキリ動くが、ヤリスとの違いはよりロールさせてコーナリングする。
サスペンションのストローク量が大きいのだ。高速でのギャップを乗り越えるとき、またコーナリング中の不整地でのタイヤ接地性は高く乗り心地も良い。
普通に乗って感じる2車の違いは、フィットは柔らかくヤリスは締まっている、というもの。また、ロードノイズによる室内静粛性はフィットに軍配が上がる。
こう見るとヤリスは時間を惜しむ“行動派”に向いていて、フィットは家族のいるON/OFFを大切にする“ファミリー”に向いていると思う。
“第三の選択肢”スイフトはどうか?

そこで考えてみよう。この2車、性格が大きく違う。しかし、この2台を折衷したようなコンパクトはないものか?
そこで引き合いに出したいのがスイフトとマツダ2だ。各ディメンションデータはここでは割愛するが、実用面でいうならこの2車ともにスペースユーティリティは充分に持ち合わせている。
ハンドリングでは、スイフトはフィットに似た、しなやかでスムーズなサスペンションストローク。とても乗りやすくハンドリング性能も初心者から玄人まで満足させる。
ロードノイズはちょっと大きい。ま、スイフト買う人はそんなの「ダイジョウブダあ!」のはず。
ただし、4WDはハイブリッド仕様には設定がなく、マイルドハイブリッドかエンジン車になる。しかし、スイフトは値段が安い! 4気筒1.3Lエンジンはスズキらしい全回転域でスムーズでアクセルコントロールに従順だ。
では、マツダ2はどうか? 明らかに内外デザインの質感が高い。そのぶん値段も、、。サスペンションはこの3車中いちばんハード系。しかし、静粛性も高く乗り心地もバウンシング(上下動)を抑えた今風の快適を追求している。
高級路線のマツダ2の評価&総合評価は果たして?

以上の中で3車(ヤリス・フィット・スイフト)のハイブリッドは燃費も良い。特にヤリスは史上最高という噂もある。この点、マツダ2にはディーゼルエンジンがあり燃料コストではメリットがあるだろう。
最後に運転支援技術(ADAS)はどうか。全車ともにACC(アダプティブクルーズコントロール)は装備している。フィットとマツダ2は0km/h~全車速域で設定が可能、つまり渋滞に対応する。ヤリスとスイフト30km/h以上だ。
また、レーンキープアシストの車線内維持に関しては、フィットとヤリスが対応していてマツダ2とスイフトは車線から逸脱しそうになった時に警告等を与えるシステムだ。
他にヤリスには高度駐車支援システムがありこれは駐車嫌いにはありがたい。また運転席の乗降時に座面が回転するオプションはタイトスカートや着物の時に便利だ。
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さあ、コンパクトのお勧めは?つまり用途、機能そして価格など自分に合ったコンパクトがイチバンという結論になる。答えを出せなくて申し訳ないのだが。実際、それほどにそれぞれ個性的で魅力がある。