1980年代後半、日産は初代マーチをベースとしたパイクカーを登場させた。パイク」とは槍のように尖った武器のことで、パイクカーは常識や流行にとらわれない“尖ったクルマ”を意味する。
その先鞭をつけたのは1987年に初代マーチをベースにして発売された日産Be-1。日産はその後、パオ、エスカルゴ、フィガロ、ラシーンと同じテイストのモデルを連発し、それぞれ大ヒット車となっている。
前回、本サイトで日産フィガロの中古車記事を紹介したところ反響が大きかった。それを受けて、今回はパイクカーのなかでフィガロと人気を二分するパオを取り上げてみたいと思う。
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パオはBe-1が発売された年、1987年の東京モーターショーで発表された。受注期間を3カ月間のみに限定し、予約数分を生産する方法を採用。
最終的には5万1657台の申し込みを受け、1989年の販売開始からすべての納車が完了するまでに1年半もかかったそうだ。
そのパオ専門店が横浜にあるというので、中古車事情に詳しいライターの伊達軍曹が突撃取材。
今いくらで買えるのか? 発売から31年が経つだけに、メンテナンスや購入後に注意すべき点はあるのか、徹底レポート!
文/伊達軍曹
写真/日産自動車 伊達軍曹
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発売から31年経っても色褪せないデザインが魅力

パオというのは、1989年に日産が期間限定車として発売したレトロなデザインのコンパクトカー。
当時日産が展開してた「マーチをベースとするパイクカーシリーズ」の第2弾として登場したのがこのパオ(PAO)で、どことなくシトロエン 2CVやルノー4などを思わせるデザインではあった。
だが決して「単なる真似」では終わらない何かが確実にあったそのデザインは、人々の心をつかんだ。
その結果、日産パイクカーシリーズの第1弾であったBe-1を上回る5万1657台もの受注を、パオはわずか3カ月間で獲得した。ちなみにエンジンは1Lの直4SOHCで、トランスミッションは5MTまたは3速ATである。
そんな日産パオは今見ても魅力的なデザインであり、周りの小型車がみんないかつい系デザインになってしまったことで、逆にその魅力を増しているようにも思える。
とはいえ、パオが製造販売された1989年といえばはるか昔のことであり、具体的には31年もの歳月が経過している。
パオの中古車は中古車検索サイト、カーセンサーでの流通台数は56台、価格帯は19万円~153 万円、平均価格は85.3万円。
最高価格は約150万円と、31年前のクルマが新車価格(152.4万円~169.4万円)とほぼ変わらない価格で売られていることに改めて驚かされる。
横浜にあるパオ専門店に突撃取材!
……人間の0歳が31歳になるのは立派な「成長」といえるが、クルマの31歳というのは、ほぼ完全に「おじいちゃんまたはおばあちゃん」。そんなお年寄りCARに、今でもフツーに乗れるのか? ていうか、今でもエアコンはちゃんと効くのか?
そのあたりの疑問を解明するため、約20年前から横浜市内で日産パオとフィガロを専門的に扱っている販売店『オレンジロード』を訪ね、代表取締役の毛利雅之氏に根掘り葉掘り聞いてみた。
――ということで毛利社長、いきなり核心部分からお尋ねしますが、約30年前の日産パオって今でもフツーに乗れるものなんですか?
毛利社長 ええ、ごくフツーにお乗りいただけますよ。少なくとも、弊社で販売させていただいているパオはそうです。
――そうなんですか?
毛利社長 ええ。パオというクルマは、カーマニアの方がお買いになる場合もなくはないですが、基本的には「クルマに詳しいわけではないが、そのデザインにビビビと来た」という方が、まずはカタチに惹かれて買われるクルマじゃないですか?
弊社では、そういった方でも特に苦労や工夫をすることなく、そのまま普段使いできるレベルに仕上げたものだけを販売していますからね。
――具体的にはどんな感じで仕上げるのですか?
毛利社長 まずは「お売りするに値する個体」だけを、販売用の車両として選びます。それ以外の難アリな個体は、仕上げて販売するのではなく「部品取り車」として、ウチのストックヤードに保管します。
――なるほど。それで?
毛利社長 そのうえで、まだ手に入る一部の新品パーツと、何台もの部品取り車からはぎ取った部品を複雑に組み合わせながら販売用車両に“移植”し、クルマの各部が普通に作動するように整備します。
で、そのうえでさらに徹底的なクリーニングと点検をしているのが弊社の販売車両です。店頭に並べる前には、すぐ近くを走っている高速道路(第三京浜道路)でテスト走行も行ってますよ。
――販売車両を拝見しますと、内装とか、めちゃめちゃキレイですが、これってファブリックの張り替えをしてるんですか?
毛利社長 シートの張り替えはやってません。「張り替えないと売り物にならない」というレベルの個体は、そもそも販売車両にしないんですよ。
そういったコンディションの個体は、お売りするのではなく「部品取り車」にしちゃいますね。
――ボディの塗装もけっこうキレイですけど、これはオールペン(全塗装)ですか?
毛利社長 ウチはオールペンもやってません。販売車両の塗装はすべて新車時のオリジナル塗装です。
……まぁ全塗装をしてもいいのですが、ちゃんとしたオールペンをしようとすると、どうしても100万円ぐらいかかるんですよ。そうすると、車両価格が高くなっちゃうじゃないですか? それはちょっとどうなんだろう……と。
――例えばこちらの販売車両の価格は税込み149.6万円とのことですが、これが「249.6万円」とかだったら、正直ちょっと嫌ですね。
毛利社長 ですよね。パオのプライスというのは、ある程度は手頃じゃないと意味がないと、私も思っています。まぁ格安オールペンなら10万円とか20万円ぐらいでもできるのですが、アレはさすがにちょっと……。
――えーと、10万円ぐらいの超格安オールペンは、見た目というか仕上がりが非常にダサいです。いかにも安っぽい感じで。あと、数年するとハゲることもあります。
毛利社長 まぁ私からはノーコメントですが(笑)。とにかく弊社は全塗装はやっておらず、すべて新車時のペイントのままです。もちろん古いクルマですから、一部に「補修塗装」がされている場合はありますけどね。