大化けした第二期はトヨタ効果がきっかけか?
その後、複数のCEOが就任したが事業は立ち直らず、イーロン・マスク氏が事業活動の先頭に立つことになる。ここからが、テスラの第二期だ。
第二期の冒頭に打ち出したのが、自社オリジナルモデルの投入計画。のちの「モデルS」である。
テスラが活用したのが、オバマ政権が推進していたグリーンニューディール政策による低利子融資制度だ。
アメリカでEVなど次世代車を開発し、その製造をアメリカ国内で行うことが条件だ。テスラの他、日産やフォードが同制度を活用し数百億から数千億規模の融資を受けた。
こうしてテスラは、アメリカ連邦政府から「次世代車ベンチャーの星」としてお墨付きを受けたことが、部品調達先の開拓などで大きな支えとなった。
さらに、工場用地の確保については様々な候補が挙がる中、最終的には当時のアーノルド・シュワルツェネッガー知事が仲介役となり、北カリフォルニアのトヨタ工場をテスラに売却することが決まり、さらにトヨタからテスラへの投資や、同州ZEV法への対策として「RAV4 EV」開発をテスラに委託した。
このトヨタ効果こそが、テスラ大化けのきっかけだった。
10年ほど一気に独走できた2つの側面
では、なぜテスラは、トヨタ効果後にEV市場で独走態勢に入ることができたのか?
筆者は、2つの側面があると考えている。
ひとつは、自動車メーカー各社が「EVは規制ありき」と決めつけ過ぎたことだ。
1900年代初期の自動車創世記、1970年代のオイルショック時など、一時的にEV需要が伸びる可能性があったが、性能面や価格面で本格量産にならず。
1990年にカリフォルニア州がZEV法を施行したことで、それ以降のEV開発は「ZEVありき」と言われてきた。
「ペナルティがないなら、ガソリン車やディーゼル車と比べて動力系部品のコストが極めて高いEVは当面、量産したくない」という大手自動車メーカーの幹部は、2020年時点でも大勢いるのが実情だ。
つまり、ユーザーや販売店から「EVを是非たくさん作ってほしい」という声が少ないのだ。
その中で、大手メーカーで唯一、EVに可能性を見出したのが日産だったが、周知の通りゴーン体制の崩壊によって経営基盤の大幅な見直し中である。
こうして、大手メーカーのほとんどがEVを遠巻きにし「テスラもそのうち失速する」と高を括っていたが、結果的に、テスラ主導でのプレミアムEV市場が形成されてしまい、ポルシェやメルセデスベンツなどが追従せざるを得なくなった。
テスラの上手さ
もうひとつ、テスラ独走には技術的な側面がある。
航続距離を延ばすため、大きな電気容量を持つ電池パックを搭載する手法について「単なるガソリン車の代替的発想であり、根本的にEV開発の思想に反する」と、異論を唱える自動車業界関係者が多かったが、いまではプレミアムEVでの王道となっている。
電池の種類についても、そもそもパソコン向けなど家電向けの需要を想定した開発された、直径18㎜×高さ65㎜の円筒形リチウムイオン二次電池「18650」を数百本単位でモジュール化し、電池パックでは数千本単位で構成することに電池業界から異論が多かった。
その後、パナソニックとの正式な協業体制となり、18650をEV向けとして改良し、さらにひと回り大きな「2170」に拡張。直近では、さらに大きな「4680」の開発に着手している。
それでも、大手メーカーで円筒式リチウムイオン二次電池をEVに使用するケースは少ない。
このように、テスラ第二期では、自社技術の発想を貫くことが結果的に奏功し、テスラブランドの独自色を創出した。
さらにいえば、自動運転技術や太陽光パネル事業、大型EVトラックやピックアップトラックEVなど、企業イメージを上げるためのマーケティングでも、大手自動車メーカーではリスキーと思われる領域まで踏み込んだ演出を行うところが、ユーザー目線で、または投資家目線でテスラファンを生む要因になっていると思う。
第一期、第二期での紆余曲折を経て、今後はマスマーケットに挑戦するテスラ。第三期へと、新たる成長軌道に乗れるか?
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