かつてはF1も開催された世界屈指の難コース、ニュルブルクリンク。現代では、日産GT-Rなど市販車開発の舞台としても知られ、ニュルにおける「市販車最速ラップタイム」がひとつの称号にもなってきた。
そのニュルで今、最も熱い戦いが繰り広げられているのが「FF車最速」の座だ。FF最速の座をかけて、ホンダシビックタイプRとルノーメガーヌR.S.トロフィーR、そしてVWゴルフGTIが凌ぎを削っている。
2020年10月9日にマイナーチェンジ版のシビックタイプRが発売となり、本国では10月14日に新型VWゴルフGTIクラブスポーツが登場している。
さて、2020年12月現在、FF最速の座はどうなっているのか? モータージャーナリストの大音安弘氏が解説する。
文/大音安弘
写真/ベストカーweb編集部 ホンダ ルノー VW
【画像ギャラリー】FF最速を狙う三つ巴決戦! シビックタイプR対メガーヌR.S.対ゴルフGTIクラブスポーツの雄姿
FF最速の座をかけてホンダとルノー、VWがバトル!
近年、量産FF最速の座を巡り、ホンダシビックタイプR、ルノーメガーヌR.S.、VWゴルフGTIクラブスポーツがバトルを繰り広げている。
その舞台となっているのは、多くの新型車開発にも活用されるドイツの名門サーキット「ニュルブルクリンク北コース」だ。
現時点でのニュルのFF最速ホルダーは、ルノーメガーヌR.S.トロフィーRが2019年4月に打ち立てた7分40秒100であり、現行型シビックタイプRが2017年4月に打ち立てた7分43秒80を大きく超えてきた。
ルノーはホンダの地元、鈴鹿サーキットに殴り込みをかけてきた
さらにメガーヌR.S.トロフィーRは、ホンダのホームグラウンドであり、F1日本GPの舞台である鈴鹿サーキットでもタイムアタックを実施。いってみれば道場破り。ホンダのホームコースに殴り込みをかけてきたのだ。
2019年11月26日、メガーヌR.S.トロフィーRは鈴鹿最速ラップ(当時)となる2分25秒454をマークし、大きな話題となった。
このニュースは、着々とバージョンアップの準備を進めていたホンダのシビックタイプR開発チームを大いに刺激したことだろう。
ホンダは、改良型シビックタイプRをベースに、よりサーキット指向を強めた限定車「ホンダシビックタイプRリミテッドエディション」の最終テストを鈴鹿サーキットで実施。
2分23秒993を記録し、見事メガーヌR.S.を打ち破り、鈴鹿FF最速の座を奪還。改良型シビックタイプRの実力を世界へと示した。
本来ならば、メガーヌR.S.トロフィーRとの決着をつけるべく、シビックタイプRをニュルへと乗り込むはずだが、その夢もコロナ禍の世界的な感染拡大により阻まれている。
現時点では、全く計画も立てられない状況のようだ。どちらが最速なのか、それはニュルでの結果を待つしかないが、ここは両者の基本性能を振り返り、予測をしてみたい。
フランスのアタッカー、ルノーメガーヌR.S.トロフィーR(カーボン・セラミックパック)は、1.8Lの4気筒ターボエンジンを搭載し、300ps/400Nmを発揮。6速MTを組み合わせている。
エンジンスペックは、ベース車と共通だが、チタンエキゾーストやセラミックボールベアリングシステムのターボチャージャーでレスポンスを向上している。
トロフィーRでは、徹底した軽量化を図るべく、2名乗員仕様となるのも大きな特徴だ。
さらに足元には、オーリンズ製調整式ダンパーや専用仕様のブレンボ製ブレーキシステムやブリヂストンポテンザS007タイヤで武装する。
具体的な軽量化対策として、カーボン製ボンネット&リアディフューザー、リアシートの削除、軽量な専用ウィンドウガラスなどを採用し、メガーヌR.S.の新機能である4WS「4コントロール」まで取り払うことで、リアアクスルの軽量化まで行っている。
ここまでで120㎏の削減に成功するが、さらにアタック仕様となるカーボンセラミックパック仕様では、さらに10kg減を実現し、1320kgまで抑えた。これは19インチのカーボンホイールの恩恵だ。
またブレーキシステムもノーマルと同じブレンボ製だが、カーボンセラミックブレーキディスクに換装され、ストッピングパワーも強化されている。
軽量化のためにコストも高騰しており、なんと価格は、トロフィーRの689万円に対して、カーボンセラミックパックは、260万円高の949万円もするのだ。
対する日本代表のシビックタイプRは、2L直列4気筒ターボエンジンを搭載し、320ps/400Nmを発揮。ライバル同様に、6速MTを積む。パワートレインのスペック変更はなく、ベースのタイプRと同じだ。
ニュルアタッカーとなるリミテッドエディションでは、軽量化が実施されるが、メガーヌR.S.と比べると控えめで、一部の防音材などの省くことで13kg減。
さらにBBSと共同開発した専用鍛造アルミホイールへの換装により、10kg減のトータル23㎏の軽量化により車両重量を1370㎏とした。
また専用仕様として、タイヤをミシュランパイロットスポーツカップ2へとし、アダクティブダンパーシステムとEPSに専用チューニングを施すことで、性能に磨きをかけている。乗車定員は、ベース同様に5人乗りで、車内装備についても違いはない。
変更点が限られるため、標準車の475.2万円の74.8万円差にとどめた550万円とお買い得なプライスを維持。このため、リミテッドエディションは発表とともに即完売(10台の抽選販売も受け付け終了)となった。
標準車と大幅な部品と仕様の変更を行ったメガーヌR.S.トロフィーRに対して、シビックタイプRリミテッドエディションは、あくまでベース車の延長にとどめているのが、強く印象に残る。
当然、開発地のひとつであるニュルでのアタックは、このリミテッドエディションで行うことを前提にしているだろうから、鈴鹿の結果を踏まえると、ニュルの優勢が伺える。
しかし、メガーヌR.SトロフィーRカーボンセラミックパックは、ルノー・スポールのウェポンのトロフィーRを強化したニュルスペシャルである。
あくまでベース車との共通性に拘るホンダと、負けられない勝負として、あえて専用仕様としたルノー・スポールの決断が、どのような結果につながるか楽しみだ。
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