「信号待ちではNレンジに入れると燃費は伸びる」 「下り坂では惰性で走れるためNレンジでもよい」――。先日、タクシーに乗っていた際、運転手の方が、信号待ちでNレンジに入れているのをみました。
「信号待ちでNレンジに入れると燃費が伸びる」というは誤った認識です。そればかりでなく、信号待ちでNレンジに入れることは、事故につながりやすいため危険です。
本稿では、なぜ、信号待ちでNレンジに入れると危険なのか、そして、なぜタクシーの運転手さんはNレンジに入れていたのか、考えてみようと思います。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、DAIHATSU、VW、写真AC
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「Dでブレーキ踏んで待機」が最善
Nレンジを入れると、ブレーキペダルから足を放してもクルマは進むことはなく、また、エンジンが駆動伝達系から切り離されることでアイドル振動も遮断されるため、信号待ちの際、Nレンジに入れてサイドブレーキを引き(足踏み式パーキングブレーキをかけ)、ブレーキペダルから足を外して待つ方もいます。
確かに、Dレンジでアイドリングしながら停車すると、トルクコンバーターに負荷がかかった状態なので、燃費は悪化します。
そのため、Nレンジの方が燃料消費量は少なくて済むのですが、昨今では、Dレンジであっても、クルマがアイドリング中であることを検知すると、CVT内部のクラッチを切り、トルクコンバーター側で発生していた負荷をなくす「ニュートラルアイドル制御(日産は2006年導入)」といった燃費悪化を軽減する技術が導入されています。そのため、必ずしもNレンジにする必要はありません。

むしろ、Nレンジに入れていたのを忘れしまい、発進時にエンジンを思い切りぶん回してしまい、慌ててDレンジへシフトを入れて急発進してしまう、という危険があります。実際に、このような事故の事例は少なくありません。Nレンジは原則、「レッカー車によるけん引の時だけに使うもの」と、考えたほうがいいです。
停止時にフットブレーキを踏み続ける行為は、「今はブレーキを踏んでいる」ということを、自らに意識づける効果もあります。長い渋滞に巻き込まれ、しばらくクルマが動く気配がない場合には、Nではなく、Pレンジを使う方が、誤操作も減ります。
信号待ちでのNレンジについて、ミッションの耐久性を気にされる方もいますが、20~30年以上前のクルマの場合だと、部品劣化や消耗などのトラブルにつながることも考えられますが、最近のクルマでは、たとえ信号待ちのたびにNレンジに入れたとしても、簡単には壊れないように設計されています。
しかしながら、余計な操作をせずにDレンジを使っている方がトラブルは減るので、やらないほうがいいでしょう。
走行中の「N」は、無意味を通り越して危険!!
流れの良い道路で、Nレンジへ入れて惰性で走り続けたり、下り坂でNレンジに入れると、エンジンの回転数がアイドル回転数程度にまで落ちるので、燃費が良くなる、と考える方もいるようですが、むしろ、燃費は悪化しますし、それ以上に、大変危険な行為です。
電子制御インジェクションのエンジンにおいて、アクセルペダルを戻しているのにエンジンの回転数が下がらない、もしくは下り坂などで回転数が上がるようなシーンでは、Dレンジでは、燃料カット制御が入りますので、見かけ上、数千rpmでエンジンが回転していたとしても、燃料消費はごくわずかであるのに対し、Nレンジでは、燃料カット制御が入らないため、無意味どころか、逆に燃費を悪化させてしまうのです。
それだけでなく、エンジンブレーキが効かないため、エンブレによる減速操作ができません。長い坂道でのフットブレーキを多用するとフェードやべーパーロックが起きる可能性もあります。走行中はきちんと走行用レンジを使うべきです。
タクシー専用車には「N」でアイドルストップする機能が
冒頭のタクシーの運転手さんの場合ですが、タクシーには、車両停止時にシフトレバーをNまたはPにするとエンジンが自動停止する、アイドリングストップ機構があり、燃料節約のため、という意味があるようです。クラウンコンフォートのようなタクシー専用車には備わっているようです。
しかしながら、前述したように、一般的なクルマでは「ニュートラルアイドリング制御」のような技術もありますので「Nレンジを使うべきシーンは見当たらない」というのが結論です。