3列目まで続く大きなサンルーフ、2列目を回転して3列目と対面になるシートアレンジ――。どちらも少し前に見かけた、ミニバンの装備ですが、近年これらの装備はあまり見かけなくなっています。
クルマの中にいるとは思えない明るくオープンエアな雰囲気や、対面で話すことができたシートアレンジは、とても魅力的な装備に思えますが、なぜ廃れてしまったのでしょうか。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、SUBARU、MITSUBISHI、HONDA、Mercedes-Benz、DAIHATSU、TOYOTA、Adobe Stock
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大型サンルーフは「使わないのに高い」
三菱のデリカスターワゴンに採用されていた大型のサンルーフ。明るさが不足しがちな3列目の乗員も、太陽光を受けることができ、まるでスイスの登山電車、ベルニナ急行やゴールデンパスラインのような雰囲気もありました。いま見ても良いアイディアだなと思います。
しかし近年のミニバンでは、ここまで大きなサンルーフを見かけることはなくなりました。
一般的にサンルーフには、チルトアップサンルーフ(後方が浮き上がるタイプ。開放面積は僅かですが、換気には十分)と、スライディングサンルーフ(屋根に設置されているガラス面と開口部が後方にスライドするタイプ)があります。近年設定されているサンルーフは、このチルトアップとスライディング両方できるものが多いようです。
以前は、大きなサンルーフについては、重量増加がデメリットとして指摘されていましたが、プリウスαで採用された、樹脂製のパノラマルーフでは、ガラスに比べておよそ半分程度の軽量化を実現するなど、技術の進化によって、デメリットは解消されつつあります。
しかしながら、サンルーフは「飽きて使わなくなる装備」の代表。ミニバン以外の他のクルマでも、以前ほど装備されていません。
それよりも、ミニバンとしては、両側スライドドアや電動オープンスライド機構に対しての要望が高く、また、緊急時の自動ブレーキなどの先進安全装備、ACCやレーンキープアシストのような先進運転支援などに、限られたコストを使っている、というのが現状でしょう。大型のサンルーフとなれば、なおさらのことです。
自動車メーカーは未来のトレンドを予測して、優先順位を検討しています。その優先順位の上位に挙がってこなければ採用にはつながらない、というのが現状なのでしょう。
このような、派手なサンルーフはなくなりましたが、最近増えてきたのが、開かないタイプのサンルーフ。電動開閉機能を省くことで、開くタイプより多少コストを抑えることができます。
例えば、ダイハツ「タフト」のスカイフィールトップは、軽自動車としては異例なほどに大きなガラスを採用したことで、クルマのキャラクターに合わせた世界観を作り上げています。
また、トヨタハリアーに採用された調光パノラマルーフも、ガラスの間に液晶の膜を通し、障子越しのような色味も持たせることができました。ミニバンにも今後このかたちで、例えばアルファードなどに搭載されてくる可能性はあると考えられます。
結局落ち着くのは、通常のシートレイアウト
2列目を回転して3列目と対面になるミニバン特有のシートアレンジも、最近はほとんど見なくなりました。筆者も子供のころ、家にあった初代エスティマの2列目シートを回転させ、車内でトランプなどをして遊んでいた記憶があります。クルマなのに、まるで家の中のような居心地は、子供にとって、とても楽しいものでした。
こうした2列目回転シートは、過去には初代アルファード(2002-2008)や、2代目エルグランド(2002-2010)、エリシオン(2004-2012)、に採用されていましたが、ある時からそのシートアレンジも消えていきました。
その理由は、サンルーフと同じく、色々と試してみるものの、最終的に落ち着くのは、通常のシートレイアウトであり、ユーザーからの需要が減少したことが原因だと考えられます。
需要の少ないシート回転機能にコストをかけるよりも、前述したような、より魅力的なアイテムに費やしたほうが、クルマとしての魅力があがる、ということなのでしょう。
高級車では生き残っている
ちなみに、メルセデスのVクラスには、今でも2列目の回転シートが採用されており、さらにV 220dアバンギャルドロングには、3列目シートの頭上まで開く、パノラミックスライディングルーフがパッケージオプション設定されており、「2列目シートが回転できる、大型サンルーフ付きのミニバン」は、現状ギリギリ絶滅を免れている状況です。
Vクラスは車両本体価格が900万円を超えており、予算が潤沢にある高級ミニバンですので、かつてのような贅沢な電動サンルーフや2列目の回転式シートも装備することができているのでしょう。うらやましい限りです。