乗り越えられなかったのは、排ガス規制ではなく、コストの壁
S15シルビアの消滅の直接的な理由は、排ガス規制にあるのだが、エンジンを積み替えて継続させなかったのには理由がある。そのひとつが、衝突安全性だ。
ある年代から、エンジンフード高の低いクルマが極端に減った。これは、前面衝突時の歩行者頭部保護の安全基準をクリアするため、極端に低くできなくなったからだ。ポップアップエンジンフードなどのデバイスを使うことで、基準をクリアすることはできるのだが、エンジンフードだけクリアしても仕方ない。
基準に対応すべき範囲は、側面衝突、後部衝突、オフセット衝突、小ラップ衝突など、全方位に及び、ボディに相当な規模の補強と、クラッシャブルゾーンが存在しないと、各国の保安基準を通過できない。
基準を満たそうとすれば、エンジンフード高も上がり、ドアもぶ厚くなり、ボディは肥大化するか、狭い車内スペースになる。この規制の中で、これぞシルビア、というスタイリングである「低いノーズ」を実現することは難しかった。
「ロードスターや新型BRZは、できているではないか」と思うだろう。確かに不可能でない。スポーツカーを持つことで、企業のブランド力を高め、他のクルマのイメージを引き上げるような「思惑」があれば、多少コストが高くてもやることに価値はある。
しかし、それらがなかったとしたら、企業としては、収益が伴わないスポーツカーは「やらない」道を選ばざるを得ない。痛みを伴ってまで、(比較的安くて手軽な)スポーツカーを作り続けるプライドと体力が、当時の日産にはなかったのだろう。
復活はやはり厳しい
シルビアが「名車」であったのは間違いないが、「クルマとしての性能が素晴らしかった」という意味の名車というよりも、ファンに深く愛されたクルマだった、という意味で「名車」であったのだろう。
日産の中で、フェアレディZ以外の「FRスポーツカー」構想があるのかは分からないが、いまこの時代の流れを考えると、シルビアを復活させたとしても、おそらく出てくるのは「高級なシルビア」だ。安くて手軽なFRスポーツカーをつくることはできても、それをビジネスとして成功させることは難しい。残念ながら、シルビアの復活は期待できない、というのが筆者の考えだ。
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