2015年3月、「もっといいクルマづくり」について、報道説明会を開いたトヨタ。
プラットフォーム「TNGA」による開発と生産技術の進化を目指すというものだが、あれから6年、その目標の達成度はいかほどなのか?
トヨタ&レクサスの主力モデルと競合する輸入車とを比較し検証していく。
●ラインナップ
・GRヤリス VS メルセデスベンツ AMG 45
・ヤリス VS プジョー208
・カローラスポーツ VS BMW1シリーズ
・RAV4 VS ジープレネゲード
・ハリアー VS BMW X4
・シエンタ VS BMW2シリーズグランツアラー
・C-HR VS DS3クロスバック
・クラウン VS ベンツEクラス
・カムリ VS ボルボS60
・グランエース VS ベンツVクラス
・レクサスIS VS BMW3シリーズ
・レクサスRC F VS BMW M4
・レクサスUX VS アウディQ3
※本稿は2021年3月のものです
文/松田秀士、渡辺陽一郎、岡本幸一郎 写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』 2021年4月26日号
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■GRヤリス VS メルセデスベンツ AMG 45
どちらもFFベースのエンジン横置き4WD。まずエンジン。A45は2L直4ターボで421ps、GRヤリスは1.6L直3ターボで272ps。圧倒的にA45。特にピックアップの素晴らしさでA45はレーシーな仕上がり。ブリッピング音も気分を掻き立てる。
では4WD。前後トルク配分コントロールは両車ともFr=100:Rr=0。これはFFベースなら容易。問題は後輪への配分。A45は最大Fr=50:Rr=50なのに対して、リアを増速できる機構を持つGRヤリスはFr=0:Rr=100が可能。
完全に0:100になるとは思えないが、シンプルな機構でかなり後輪にトルクをかけていることは事実。一方、A45はブレーキ制御のトルクベクタリングだ。これらを考慮して最後はコスパ。GRヤリスでしょ!
(TEXT/松田秀士)
●いいクルマ指数
・GRヤリス…9
・AMG A45…8
■ヤリス VS プジョー208
驚異的燃費のヤリスハイブリッド。とにかくコンパクト。ほとんど前席のこと以外考えてない。でも統計をとると7割以上ひとりで移動していることが判明。つまり、かなりの人がヤリスや208のサイズで充分と考えている。
では、どちらが無駄省きのチャンピオンなのか? エンジンはヤリスが1.5L直3ハイブリッドで、208は1.2L直3ターボの8速ATだ。
市街地などの実用域では電気モーターのアシスト鋭くヤリスの加速性能はかなり気持ちいい。208もいいけどキビキビ感はヤリス! しかも燃費がよくレギュラーガソリン。
ただし、内外のデザインは208が圧倒! 特にコックピットのあの独特な世界観がたまらない。超ソフトなサスが病みつきになり、コスパなんかどうでもよくなる!
(TEXT/松田秀士)
●いいクルマ指数
・ヤリス…7
・プジョー208…8
■カローラスポーツ VS BMW1シリーズ
レスポンスがよくないと評されてきたTHSが、ここまでよくなるとはビックリ。発売わずか1年で早くも改良されて走りもより洗練された。あとは直進性や操舵感や静粛性がもう少しよくなれば、けっこういいセンいくと思う。
かたや1シリーズは、FFになって得たものよりも失ったもののほうが大きい感があるのは否めず。こちらも操縦性や音や振動など煮詰められておらず気になる点多し。現状は微妙にカローラに軍配だ。
(TEXT/岡本幸一郎)
●いいクルマ指数
・カローラスポーツ…8
・BMW 1シリーズ…7
■RAV4 VS ジープレネゲード
どちらも都市型SUVだが、生い立ちはまったく逆だ。
小柄で乗用車的でとっつきやすかったRAV4は、いつしか「トヨタブランドのクロスオーバーSUVを力強く牽引する」と位置づけられて、いかにもSUVな感じのクルマになった。それが功を奏して世界中で売れまくっている。
かたやレネゲードは、もともと本格オフローダーを代表するブランドであるジープの一番下のエントリーモデルとして企画されたクルマ。これまで培ってきた絶対的なイメージを持つジープだからこそ、こうしてデザインで遊ぶこともできて、それがまた人気の大きな要因になっている。
1.3Lターボも2WDと4WDでは全然違って、出力も違えばDCTとATという違いもあり、ドライバビリティは圧倒的に4WDが上。未舗装路では見た目とは裏腹にけっこうガチな走破性を披露するのも侮れない。
そんな感じでレネゲードもかなり健闘するが、ハンドリングや快適性や実用性などクルマとしての基本性能や作り込みはやっぱりRAV4に軍配だ。特にアドベンチャーのコスパの高さには感心する。
(TEXT/岡本幸一郎)
●いいクルマ指数
・RAV4…9
・ジープ レネゲード…7
■ハリアー VS BMW X4


この組み合わせは「いいクルマ」の基準をどうするかが問題。
X4はクーペであることを前面に打ち出したBMWならではの自称「SAC=スポーツアクティビティクーペ」だ。スタイリングが命なので、視界や車内の広さはそれなりに制約を受けているし、走りもかなりスポーティに味つけされていて乗り心地は硬め。それらが気になるという点では、「いいクルマ」の条件から外れるといえなくない。
かたやハリアーも、X4ほど奇抜ではないにせよ、かつてないほど思い切った。とはいえ基本的には万人向けのキャラなので、乗り心地や広さの面でそれほど気になることもない。
走りもX4ほどスポーティさを追求しているわけではないが、TNGAも効いて、「走りがよい」という印象ががぜん高まった。そのあたりは積極的に評価してよいと思う。
一部の層に「欲しい!」と思わせる力や、乗った人に「凄い!」と感じさせるなどクルマとしての面白味ではX4が上回り、完成度も高いことには違いないのだが、いわゆる「いいクルマ」のイメージに近いのはハリアーのほうかな。
(TEXT/岡本幸一郎)
●いいクルマ指数
・ハリアー…9
・BMW X4…8
■シエンタ VS BMW2シリーズグランツアラー

走行安定性、操舵に対する車両の反応、内装の質、シートの座り心地はグランツアラーの圧勝だ。その代わりシエンタは、薄型燃料タンクによって床が低く、3列目の居住性も快適だ。
3列目を2列目の下側に格納すると、広い荷室になる。乗降性もスライドドアのシエンタが優れている。つまり走り関連はグランツアラー、使い勝手はシエンタが勝る。さらにシエンタの価格は、グランツアラーの約半額だから買い得だ。
(TEXT/渡辺陽一郎)
●いいクルマ指数
・シエンタ…8
・BMW 2シリーズ…5
■C-HR VS DS3クロスバック

今日のSUVは、カッコよさと実用性を両立させて人気を高めた。特にC-HRとDS3クロスバックは、デザインの楽しさを大切にしている。
C-HRも外観はスポーティで個性的だが、真横から見た時の姿などは、DS3クロスバックのセンスに負ける。C-HRの外観は、塊感を伴う正統的なカッコよさだが、DS3クロスバックには絶妙に崩した遊びもある。
DS3クロスバックでは、インパネを筆頭に内装も遊んでデザインされたが、悪ふざけには陥っていない。対するC-HRは、視認性や操作性は優れているが、デザインは平凡だ。
C-HRの外観は、DS3クロスバックほどではないものの相応に踏み込んだのに、内装では全然遊んでいない。そして外観は乗員から見えないので、運転中のC-HRは普通のSUVだ。
その点でDS3クロスバックなら、常に個性的なクルマに乗っている実感を味わえる。愛車で出かける時は、服装にもこだわりたい気分にさせる。
この2車種にとって、機能以上に大切なデザインで、DS3クロスバックはC-HRの先を走っている。
(TEXT/渡辺陽一郎)
●いいクルマ指数
・C-HR…5
・DS3クロスバック…8
■クラウン VS ベンツEクラス
現行クラウンは、レクサスLSと共通のプラットフォームを使い、以前に比べて走行安定性を向上させた。操舵した時の反応も正確になった。
その代わり柔軟な乗り心地は失われた。以前のクラウンでは、時速120km程度を上限にこの上なく安楽に移動できることが強い魅力だったが、ユーザーの若返りを目的に手放した。
その結果「ベンツみたいなクラウン」になった。これではベンツではない日本のクラウンを選ぶメリットが得られない。クラウンの購買層は中高年齢層で、予算にも余裕があるから、本家本元のメルセデスベンツEクラスを買う。
あるいは以前のクラウンの安楽さをアルファードに見出す。最近はヴェルファイアの売れゆきが下がり、アルファードが1カ月に1万台前後を登録する。この売れゆきは、クラウンの黄金時代だった1990年代の前半と同等だ。
優れた走行安定性も大切だが、それと併せてクラウンには、Eクラスよりも安楽な乗り心地が不可欠だ。客観的に見ればクラウンは優れたクルマに成長したが、それが「いいクラウン」とはかぎらない。
(TEXT/渡辺陽一郎)
●いいクルマ指数
・クラウン…7
・Eクラス…8
■カムリ VS ボルボS60

カムリは足回りが柔軟に伸縮してホイールベースも長く、走行安定性と乗り心地が優れている。直4、2.5Lのハイブリッドは、モーターが相応に強力で加速も優れ、ノイズは小さい。
S60も低速域では少し硬めながら乗り心地は快適で、峠道などの曲がりやすさはカムリを上回る。ボンネットの長い外観も魅力だ。内装はカムリも上質だが、S60には独特の解放感が伴う。クルマ好きのユーザーから見ると、S60の適度にスポーティなデザインと運転感覚は魅力的だ。
ただし、総合的に判断するとカムリの魅力が強い。居住性では後席の足元空間がS60よりも広い。WLTCモード燃費は、カムリで上級のWSが24.3km/Lだ。ボルボS60B4モメンタムの12.8km/Lに比べると、燃料代を約半額に節約できる。価格もカムリWSは393万7000円、S60B4モメンタムは499万円に達する。
ボルボS60のような上質なセダンは、ほかのブランドでも探せるが、快適性と実用性を併せ持つ買い得なLサイズハイブリッドセダンはカムリのみだ。唯一の選択になる。
(TEXT/渡辺陽一郎)
●いいクルマ指数
・カムリ…8
・S60…7
■グランエース VS ベンツVクラス

この2車種で大切なのは2/3列目シートの快適性だ。特に重要なのは、折り畳み機能のために座り心地が犠牲になりやすい3列目だ。そこを考えると、この勝負はグランエースの圧勝になる。
6人乗りのプレミアムでは、3列目にも2列目と同じエグゼクティブパワーシートが装着されるからだ。3列目も極楽的な快適性を達成しており、メルセデスベンツVクラスを含めて、ほかのミニバンはグランエースにかなわない。
(TEXT/渡辺陽一郎)
●いいクルマ指数
・グランエース…8
・ベンツVクラス…5
■レクサスIS VS BMW3シリーズ

ISのビッグマイチェンによる改良は凄すぎる。エクステリアよりも中身だ。特にFスポーツの進化に目を見張るものがある。
まず静粛性が大幅に向上。高速を走るたびに気になっていたトーボードから響いてくるロードノイズがかなり低下。ドライブしていると1クラス上の高級感。その部分を3シリーズと比べると、甲乙つけがたいくらいだけど、まだちょっと3シリーズのほうが上。
さて、そこで気になるのが走りと乗り心地。3シリーズはランフラットタイヤ。この硬く叩くようなタップ感は現行モデルでかなり改善されたが、ISの進化したいなし感に筆者は惚れた。
そしてハンドリング。富士スピードウェイ傍に明神峠というとんでもないトリッキーなワインディングがある。これでもか! というくらい攻めてもしっかりと狙うラインをトレース。S字切り返しも、ブレーキングもカンペキ。スポーツハンドリングでは3シリーズを超えてます。
コスパはIS350(Fスポしかない)と330i Mスポーツが同等。ならISがイイね。
(TEXT/松田秀士)
●いいクルマ指数
・レクサスIS…9
・BMW3シリーズ…8
■レクサスRC F VS BMW M4
RC FのエンジンはV8、5Lの自然吸気エンジン(481ps)。M4は直6、3Lツインターボ(431ps)。
この2台、サーキットでのハンドリングに特化したモデル。そのためにベースモデルに比べてボディ剛性や軽量化、ブレーキ性能など広範囲に改造されている。
まずRC Fはマルチシリンダー自然吸気エンジンゆえに高回転域までレスポンスがよく、エンジンブレーキもよく効く。
M4も6気筒ではあるがターボゆえに、コーナー進入時のリアグリップをエンブレで減少させづらい。そのぶんリアが粘り過ぎる。
つまり、フロントの操舵のレスポンスでRC Fが鋭く曲がる。RC Fのほうがシャープなのと自然吸気ゆえにコーナリング中のアクセルコントロールでリアの挙動を変えやすい。ホイールベースはM4のほうが80mm長く、それも影響している。
つまりRC Fのほうがレーサー好み。しかし一般的にはリアサスボディ直付け、フルカーボン一体モノの軽量プロペラシャフトを採用したトラクション重視のM4が扱いやすい。この勝負M4だね!
(TEXT/松田秀士)
●いいクルマ指数
・レクサスRC F…8
・BMW M4…9
■レクサスUX VS アウディQ3


レクサスUXには2L直4エンジン+ハイブリッドと、ハイブリッドなしのコンベンショナルモデルがラインナップされ、ハイブリッドはFFとリアにモーターを配する4WDモデル。コンベのエンジンモデルにはFFのみがある。
一方、アウディQ3は1.5L直4ターボと2L直4ターボディーゼルの2種。ガソリンモデルはFFのみで、ディーゼルは4WDのみとなる。
この組み合わせを念頭に試乗すると、UXはハイブリッドモデルの乗り味がとても大人っぽく、同じプラットフォームを使うC-HRより格段に乗り心地、室内静粛性に優れる。
ハンドリングはコンベンショナルなガソリンが軽量なので軽快。ただしロール感を大切にしたハイブリッドの操舵フィールは好ましいものだ。特に4WDはより重くなるが前後バランスに優れる。
Q3はUXに比べてサスは締まり系。ボディとの一体感が魅力だ。やはり所有したいのはクワトロ4WDのディーゼル。低速域からトルクフル。しかも燃費がいい。
この勝負、非常に微妙だが、ハイブリッドを選ぶという条件付きでUXの勝ち!
(TEXT/松田秀士)
●いいクルマ指数
・レクサスUX…8
・アウディQ3…7
* * *
■まとめ トヨタ9勝 vs 輸入車4勝!!!
トヨタが押し進める「もっといいクルマづくり」は実現しているのか? 同ジャンルの輸入車と比べることで検証してきたが、全13対決で、なんとトヨタ&レクサスが9勝を挙げるという結果となった。
「もっといいクルマづくり」の中核となるTNGAの効果は絶大。ここで取り上げたクルマのなかではシエンタのみ、TNGAの思想が入っていない旧世代車だったが、それでもBMW2シリーズに勝利する金星を挙げている。
トヨタ&レクサス、9勝4敗で有力輸入車に大きく勝ち越し。「いいクルマ」の定義は多岐に渡るが、端的に言って「商品の魅力」で勝ったという理解でいいだろう。
敗れた4車はヤリス、C-HR、クラウン、RC Fだが、性能だけならライバルと互角の勝負をしていたのは各対決の本文のとおり。トヨタの「もっといいクルマづくり」は着実に成果を挙げているのではないだろうか。

















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