なんと、月を経てから静止軌道へ
テンジンのテスト運用の実施と並行して、同社はすでに第二の宇宙GASステーション衛星を計画している。
テンジンよりもタンカー然としたデザインの「タンカー002」は、詳細スペックは公表されていないが、約90kgの燃料(ヒドラジン)を搭載することが可能だ。この給油機タンカー002は、月面着陸を目的とした探査機と一緒に打ち上げられるため、いったん月まで行くことになる。
月へ行く宇宙機というのは、地球を周回する軌道を極端に楕円形にした軌道に乗せられるため、そのまま放っておけば月で折り返して地球に帰ってくる。つまりそれは地球周回軌道であり、長楕円軌道であり、月からの自由帰還軌道なのだが、その軌道を少し調整すれば、地球を周回する非常に高度の高い「静止軌道」(地表からの高度3万6000km)に投入できる。
タンカー002は、こうして静止軌道に投入される。月を往復する軌道を経て地球の静止軌道へ投入する手法は、史上初めての試みだ。
静止衛星の多くはガス欠寸前!!
なぜタンカー002が静止軌道に投入されるのか? それは静止衛星には莫大なコストがかかっているからだ。
高度数百kmの低軌道へ衛星を投入するよりも、高度3万6000km(正確には35.786km)の静止軌道へ衛星を送り込むほうが、はるかにロケットパワーが必要であり、技術的にも難しい。
静止軌道とは、高度3万6000kmの赤道上にある軌道であり、そこにピタリと衛星を投入できれば、どんな質量の人工衛星も同じ速度で地球を周回し、地上から見て天空の一点に留まることができる。
この非常に利便性の高い軌道には、「ひまわり9号」などの気象観測衛星の他、地球観測、通信、放送、軍事を目的とした人工衛星が隊列を成している。そして莫大なコストがかかったそれら静止衛星の多くは、決して豊富な燃料を搭載しているわけではなく、ガス欠寸前の機体が多い。
そうした静止衛星の寿命を少しでも延ばすために、タンカー002が役に立つ。給油して延命すれば、次の静止衛星を打ち上げなくて済み、コストを大幅に低減できる。タンカー002は豊富な燃料を搭載できるため、複数機に燃料を補給することができ、その経済効果は計り知れない。米空軍、軍需産業、民間の宇宙開発企業の他、日本の丸紅などはこのタンカー002に興味を示し、すでに投資や資本提携を開始している。
人工衛星を軌道上で修理する
少し形態は違うが、同じ役目を果たす人工衛星がすでに2機、実際に運用されている。
ノースロップ・グラマン社が開発し、2020年2月に打ち上げた「MEV-1」は、燃料が枯渇した米国の通信衛星「インテルサットIS-901」にドッキングして、その衛星の動力となり軌道変更を行った。これにより同衛星を延命させることに成功している。
2020年8月には、その二号機「MEV-2」が打ち上げられ、「インテルサットIS-10-02」へのドッキングに成功している。
MEV-2は同衛星に結合したまま動力源として働き、5年後には分離、次の衛星と結合すべく移動する予定だ。2機のMEVは15年間に渡って、他の衛星の延命活動を続ける能力を持っている。
ノースロップ社では、新たな支援衛星の開発も進められている。化学燃料(液体燃料)ではなく、電気推進システムを搭載した小型の「MEP」は、一般的な2000kgクラスの衛星に6年間ドッキングし、寿命させることが可能。
また、ロボットアームを搭載した「MRV」は、共通したドッキングポートを持たない旧式の衛星を捕獲することができ、その故障部分を軌道上でメンテナンスすることも可能だ。このMRVは2024年の打ち上げが予定されている。
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