いろいろな技術が登場しては消えを繰り返している。そのクルマの技術は進化し続けているものもあれば、消滅したものもある。
しかし消えはしても姿や名前を変えて進化しているもの、ほかのメーカーの技術として再登場しているものなどもある。
クルマの技術に詳しい鈴木直也氏がわかりやすく解説していく。
文:鈴木直也/写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、メルセデスベンツ、平野学
トヨタのスーパーストラットサスペンション
トヨタが“スーパーストラット”と称するフロントサスペンションを開発したのは、1991年のAE100系レビン/トレノからだ。
そのメカニズムは、一般的なストラットサスのロワアームに短いサブリンクを追加し、サスがストロークしたときのキャンバー変化を大きくしたもの。
クルマがロールするほどアウト側前輪のコーナリングフォースが高まる設定で、ノーマルより圧倒的にソリッド感のあるステアフィールを備えていた。
このスーパーストラット誕生に大きな影響を与えたのが、初代(P10)プリメーラだ。
今では有名になった日産901活動の成果で、P10プリメーラのフロントサスはR32スカイラインと同形式のマルチリンク型。その操舵フィールの素晴らしさやシャープなハンドリングは、トヨタのシャシー開発部門に大きな衝撃を与えたといわれている。
しかし、コストに厳しいトヨタでは、ボディ構造からまったく別設計となるマルチリンクの採用など不可能。そこで、既存のストラットサスの取付点を変更せず、アーム類の変更だけで対処できるスーパーストラットが開発されたというわけだ。
バブル期にはラグジャリーカーだけではなくレビン/トレノ級でもハンドリング性能の開発競争は激しく、保守的なトヨタですらこんな凝ったサスを造ったというのが時代を感じさせるが、残念ながらスーパーストラットは次世代のAE110系までで廃止。
その後コンパクトカーのサスはコスト削減を優先したストラット/トーションビームに収斂してしまう。
ただし、最近ではニュルのラップタイムで勝負するようなFFスポーツに、改良型ストラットサスを採用するケースがある。
代表的なのがメガーヌRSやシビック・タイプRの、いわゆる“ダブルアクシス型”ストラット。これは、ストラットチューブの軸線とは別に独立したキングピン軸を設けることで、操安性向上に有利なキャスターやトレールが設定できるのがメリット。スーパーストラットの子孫といっていいかもしれませんね。
日産のハイキャス
史上初のアクティブ4輪操舵だったハイキャスは、1985年にR31スカイラインで登場している。
今見るとそのメカニズムは原始的で、ラバーマウントされたリアサブフレーム全体を油圧ピストンで動かすという仕掛け。
機能もコーナリング時にリアのスタビリティを高める作用のみで、緊急回避時の安定感以外にはあまりメリットは感じられなかった後輪操舵を「アクティブに」行うというところが先進的だった。
後輪操舵という概念自体は古くからあるが、ハイキャス以前はすべて前輪の舵角に応じて後輪の舵角が決まるパッシブ型。操舵角センサーとGセンサーによって、後輪の舵角と操舵タイミングを決めるというハイキャスは画期的だったのだ。
ハイキャスは、ハイキャスII、位相反転制御を行うスーパーハイキャスへと発展するが、R34スカイラインを最後にいったん市場から姿を消すこととなる。
しかし、日産はV36系スカイラインで前輪の操舵角まで統合制御する4輪アクティブステアを投入。
追加された前輪の操舵補正は、さらに発展して世界初の完全ステア・バイ・ワイヤであるダイレクトアダプティブステアリング(DAS)に進化するのだが、残念ながらDASでは後輪の操舵は廃止。
4輪アクティブステアが、日産4WSの完成形だったとみていいと思う。
歯がゆいのは、日本勢による4WS特許が切れたあたりから、欧州車に4WSが増えていること。ポルシェ、メルセデスAMG、アウディ、BMWなど、プレミアムクラスの高性能車は4WSが普通になっているし、ルノーは安いクルマにも4コントロールと称した4WSがある。
技術をプレミアム商品に作り込む手法では、日本はまだまだ勉強が足りないと言わざるを得ません。
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