自動車メーカーは高効率化を進めて車種リストラをするいっぽうで、ラインナップを欠損させるわけにはいかないという考えを持っている。その場合有効的なのが他社からクルマの供給を受けるOEM車(ほかの自動車メーカーから供給されたクルマ)だ。
OEM車とひと口に言っても、エンブレムが違うだけのものから共同開発車といっていいレベルのフロントマスクなどが差別化されているものもある。
そんなOEM車のなかでも本企画では極端に販売台数が少ないクルマに着目し、売れないOEM車を売り続ける理由について考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:MAZDA、SUBARU、DAIHATSU、SUZUKI、TOYOTA、NISSAN
OEM車が百花繚乱のにぎわい
クルマの分野では、いわゆるOEMが発達している。
相手先ブランド製造などと訳され、例えばスズキがワゴンRと実質的に同じクルマを、マツダにフレアの車名で供給している。スズキエブリイも、日産にNV100クリッパー、マツダにはスクラム、三菱にもミニキャブバンとして供給され、スズキも含めると国産8メーカー中の4社が実質的に同じクルマを売る。
これらのOEM車には、売れ行きが伸び悩んでいる車種も少なくない。スズキ製OEM軽自動車のマツダスクラムワゴンは、スズキエブリイワゴンと同じクルマだが、2019年上半期(1~6月)の販売台数は1か月平均で100台にとどまった。エブリイワゴンの月販平均は1472台だから、スクラムワゴンの売れ行きはエブリイワゴンの7%だ。
エブリイワゴンと同じく軽商用車をベースにしたワゴンでは、ダイハツがスバルに供給するディアスワゴンもある。月販平均は43台で、ベースのダイハツアトレーワゴンは475台だから、ディアスワゴンの比率は9%と少ない。
本家の1%以下でも顧客をつなぎとめる効果がある!?
小型/普通車のOEM車もある。登録台数の少ない車種には、ダイハツが扱うトヨタ製のアルティスとメビウスがあり、いずれも月販台数は10台以下だ。
アルティスはカムリのOEM車で、カムリの月販平均は1954台だから、アルティスの比率はわずか0.5%になる。メビウスもプリウスαのOEM車で、プリウスαの月販平均は1000台前後だから、メビウスの比率は1%以下だ。
スズキランディは、日産が供給するセレナをベースにしたOEM車だ。ランディの月販平均は80台前後で、セレナは8944台だから、ランディの比率も1%以下にとどまる。
このようにOEM車には、ベースになる製造メーカーの取り扱い車種に比べると、販売台数が圧倒的に少ない車種が見られる。
それでもマツダやスバルがOEM車の供給を受ける理由は、顧客を繋ぎ止めたいからだ。
マツダやスバルは、かつて軽自動車を自社で開発して生産も行っていた。軽自動車は薄利多売の商品でもあるから、今では合理化のために軽自動車の開発と生産を行っていないが、販売会社まで取り扱いを終了するとユーザーは他メーカーに乗り替えてしまう。
そうなれば販売会社は、車検、修理、保険などの仕事まで失ってしまう。クルマを売るといろいろな利益が生じるから、なるべく車種を減らしたくないのだ。
またマツダのスクラムワゴンとデミオを併用するユーザーが、スクラムワゴンが販売を終えたことで、スズキエブリイワゴンに乗り替えたとしよう。そのスズキの販売店が熱心なら、併用しているデミオまで、スイフトに変わってしまう可能性がある。
つまり販売店は、顧客をほかのディーラーには接触させたくない。だからメーカーが開発と生産から撤退しても、販売店はOEM供給を受けて品ぞろえを存続させる。
販売台数の少ないOEM車は、儲かるビジネスではないが、ユーザーの流出を抑えて損失を防ぐには欠かせない商品だ。
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