トヨタは保守的な自動車メーカーと思われている。だが、本当は進取の気象に富むメーカーなのだ。アッと驚く斬新なアイデアを量産車に採用し、ライバルメーカーのエンジニアやデザイナー、識者などを唖然とさせている。
その筆頭がプリウスに採用したハイブリッドシステムであり、燃料電池システムを搭載したFCVのミライだ。メカニズムだけでなく、デザインや商品企画においても大胆な試みを行うことがある。
だが、販売した新提案モデルすべてが狙いどおりに売れるわけではない。新しい提案を持ち込んだものの、空回りし、販売が低迷したクルマが少なからずある。
強力な販売力を誇るトヨタを持ってしても売れなかった、悲運の新提案モデルにスポットを当ててみた。
文:片岡英明/写真:TOYOTA、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】提案モデルと言えば、WiLL第1弾のVi!!
オーパ
販売期間:2000~2005年

1999年秋に開催された東京モーターショーでお披露目され、話題をまいたのがオーパだ。注目を集めたのは、高効率のパッケージングである。
V50系のビスタアルデオをベースに開発され、カローラ並みのコンパクトな外観だが、キャビンは広く快適だった。性格やフォルムは、ステーションワゴンというより上質な上級2ボックスと言えるものだ。正式発売されたのは翌2000年5月である。
オーパは「高級サルーンの走りを備えた次世代のミディアムセダン」を狙って開発され、背の高さも立体駐車場を使えるギリギリの高さに設定した。
2列シートの5人乗りだからキャビンはミニバン並みに広く、足元、頭上空間とも余裕がある。エンジンは1.8Lでスタートし、夏に2Lの直噴エンジン(D-4)を追加した。1AZ-FSE型エンジンのトランスミッションは、トヨタ初のスーパーCVTだった。
ジャーナリストには評判がよかった。後席は広いし、荷室の使い勝手もワゴンレベルにある。走りの実力も非凡だ。

が、セダンには見えなかった。ワゴンともミニバンとも違うクルマと感じた人も多かったようだ。後席は広いが、センターアームレストもないなど、上級をうたった割に物足りない装備に不満を述べる人もいる。
そのため販売は低迷し、2005年の年末にトヨタの販売リストから消えた。
ナディア
販売期間:1998~2004年

イプサムに続くファミリービークルとして1998年夏に産声をあげたのがナディアだ。背をちょっと高くした5人乗りの上質なハイトワゴンで、トヨタは「ユーティリティが特徴的な次世代乗用車」として売り出した。
イプサムと同じ2735㎜の長いホイールベースを誇り、室内空間は2代目のセルシオより広かった。圧巻は後席の広さだ。足元は驚くほど広く、左右独立してリクライニングとスライドする。
前席とのウォークスルーやフルフラットも可能で、Sセレクションは前席に回転対面機構を採用した。FF車のほか、フルタイム4WDもあった。

デビューから1年になるときに最低地上高を上げ、フェンダーモールで車幅を広げたタイプSUを設定した。全幅が違うから型式申請をし直し、苦労の末に送り出した力作で、今につながるクロスオーバーカーだ。
が、登場が早すぎたからか販売面でプラスになっていない。
目論見ではナディアは月飯4500台の計画だった。が、その半分も売れず2004年夏にひっそりと姿を消している。悲運の名車といえるだろう。
WiLL VS
販売期間:2001~2004年

WiLLは世紀末から21世紀の初頭にかけて行われた異業種による合同プロジェクトだ。トヨタ、花王、アサヒビール、松下電器産業(現パナソニック)、近畿日本ツーリストなどが参加し、新感覚のものに興味を示すニュージェネレーション層をターゲットに商品を開発した。
トヨタのWiLLシリーズ第1弾は「かぼちゃの馬車」をイメージしてデザインされたWiLL Viだった。
これに続くWiLL第2弾が「VS」で、2001年4月に登場している。デザインにこだわり、イメージしたのはステルス戦闘機だ。だから精悍なフォルムだったし、インテリアにも強いこだわりを見せた。
指針の0が真下にくるメーターを採用し、ステアリングは操縦桿、シフトレバーはスロットルレバーをイメージしたデザインだ。

カローラのプラットフォームを採用し、エンジンは1.5Lと1.8Lを設定。1.8Lモデルには可変バルブリフト機構を盛り込んだ2ZZ-GE型スポーツツインカムも用意された。
男性ユーザーの取り込みを期待したが、個性の強いデザインと割高な価格がネックとなり、販売は不発に終わっている。
WiLLサイファ
販売期間:2002~2005年

WiLLシリーズの第3弾が、「ディスプレイ一体型ヘルメット」をデザインコンセプトに開発され、2002年10月に発売された「サイファ」だ。デザインも個性的だったが、それ以上に注目を集めたのは育てるクルマだったことである。
トヨタとしては初となる車載情報通信サービスのG-BOOK対応モデルで、カーナビを標準装備した。
また、一歩先を行くカーリースプランも用意していた。これを利用するユーザーは多かったが、採算割れとなり、3年あまりで頓挫した。

サイファも2代目のヴィッツが登場した2005年春に販売を打ち切っている。WiLLプロジェクトは新しい提案が注目された。が、価格が高かったし、実用性も高くなかったからファンは引いてしまった。日産のパイクカーのように、引っ張りダコにはならなかった迷車だ。
マークXジオ
販売期間:2007~2013年

2005年の東京モーターショーに参考出品したコンセプトカーの「FSC」をリファインし、2007年9月に発売したのがマークXジオだ。
上級ステーションワゴンのマークIIブリットは不発に終わった。そこでワゴン的な性格にミニバンの魅力を加え、後継車として送り出したのがジオである。
マークXは後輪駆動のFRが基本だが、ジオはFFプラットフォームを採用した。2列シートのほか、3列シート仕様があり、2列目に2人掛けの独立したシートを設定するなど、性格的にはオデッセイに近い。

新感覚のマルチパーパスカーを狙ったが、見事に空振り。好調だったのは最初の数カ月で、それ以降は販売が低空飛行をたどった。
マークXを名乗ったが、実際は格下に感じるFFのファミリーカーだったことが敗因のひとつ。デザイナーが意気込んだソフトムードのデザインもボテッと見えた。
3列目も窮屈で、長時間のドライブには耐えられない。高級ムードや押しの強さを期待するファンから敬遠され、2代目にバトンを渡すことなく消えている。
ミニバンがアルファードのような本格派に移っていたこともマークXジオがユーザーに響かなかった理由のひとつだ。
